転生貴族の異世界冒険録~自重を知らない神々の使徒~
第四話 密会
聖女を迎えシルクが待つ待機場所へと到着した。
ここで一泊したあとに明日、シルベスタの街に向かうため、天幕がいくつも張られている。
馬車を停め、聖女を迎えるために一同が並び、馬車の扉を護衛隊長が開いた。
先に侍女が降り、その後を聖女が降りてくる。
聖女の年はカインと変わらない程で、ストレートのピンク色の髪を腰まで伸ばし、金色の刺繍をされた真っ白なローブを着ている美少女だ。凛としており聖女としての役目をしているだけあり堂々としている。
ラグナフは信心深いこともあり、聖女を拝見できたことに深く感動して涙を流している。本来なら一番爵位の高いラグナフが挨拶をする必要があるが、見るからに挨拶できるような状態にはなかった。
カインはラグナフの事を諦め一歩前に出て代表して挨拶をする。
「聖女様、王都よりお迎えにあがりましたカイン・フォン・シルフォード・ドリントル子爵です。本日はここで一泊して、明日、シルベスタの街へ向かいます。その後王都まで護衛させていただきますのでよろしくお願いいたします」
聖女は表情のないままカインを見つめた。そして口を開く。
「今代の聖女を勤めていますヒナタ・リラ・マリンフォードでございます。護衛の件、よろしくお願いいたします」
深々と頭を下げる聖女は、とても十代前半とは思えないほど様になっていた。
聖女一行を天幕に案内し、その周りを護衛が囲む。
夕食を一緒にと誘ったが、護衛隊長に断られた。
「こちらのことは自分たちで用意する。天幕を用意していただいただけで十分だ」
聖女の護衛ということだが、あまりにも敵対意識があるように思える。しかし他国の国民であり、護衛が自分たちで食事の準備を始めていることで引き下がることにした。
「シルク、食事は自分たちで取るってさ……」
「そっか、一緒に食事しながら話したかったんだけどなぁ」
「まだ、今日会ったばかりだからね。王都まで時間は十分に取れるし、街へついたら一緒に食事ができるようにラグナフ卿にも言っておくよ」
せっかく聖女と一緒にいることができるので仲良くしたいと思っていたが、断りをいれられたことに残念そうな顔をする。
「でも、カインくんと一緒に食事できるからいっか」
思わずどきっとするような笑顔を見せたことにカインも思わず照れてしまった。
何事もなく次の日を迎え、シルベスタの街に向かう用意をしている。すでに天幕は馬車に仕舞い終わり出発を残すだけとなった。
昨日と同じくラグナフと騎士団を先頭に聖女と護衛を挟むようにカインたちが後衛を務める。
ラグナフの出発の合図で馬車は進み始めた。カインは後ろから追ってくる者がいないか探査で探りながらシルクと雑談を交わしながら馬車は進んでいった。
朝早く出たこともあり、昼前にはシルベスタの街へ到着する。街では聖女がこの街を通るという話が広まり、街の中では聖女の姿を見るために人で溢れていた。マリンフォード教国から近いこともあり、この街は熱心な教徒が多いからだろう。
衛兵が馬車の通りを妨げぬように交通整理を行っており、聖女は馬車から特に顔を見せるわけでもなく馬車は進み続けた。
 二十分もかからず馬車は迎賓館の前にたどり着く。先行して騎士が連絡をしていたこともあり、迎賓館の前には従者が一同に並んで待っていた。
 カインとシルクも馬車から降り、ラグナフが並んでいるその列に並んだ。
 マリンフォード教国の護衛隊長が扉を開け、従者を伴って聖女が降りてきた。
「本日はこちらの迎賓館にてゆっくりとお寛ぎください。すぐに昼食の準備をいたします」
 ラグナフの説明に聖女は無言で頷き、屋敷へと歩み進めた。
無言で迎賓館へ入っていく聖女を見送った後に、カインとシルクは領主邸の客室に集まった。
「それにしても聖女様、元気がないよね……」
「うん。どうしたんだろうね……」
 聖女ということでカインの中のイメージでは、もっと笑顔を振りまいているイメージがあった。実際の聖女は表情も乏しく言葉も少ない。
 確かに凛とした美少女ではあるが、それだけだった。ライムから助力するように言われているが今後どのように接していくか悩むカインであった。
 昼食の準備も終わったとメイドが呼びにきてホールに向かう。上座に席が三つ用意され、すでにラグナフは席についており中央の席を一つ開け、聖女の席を開けるようにカインも座る。シルクは公爵令嬢ではあるが当主ではないため下座の席につく。
 全員が座ってから聖女が案内され中央の席に座ったことを確認すると、代表して領主でもあるラグナフが挨拶をする。
「ようこそエスフォート王国へ。一日だけですがゆっくりとお過ごしください。こうして聖女様をお迎えできたことを、このラグナフ一生の宝物です。それでは乾杯」
「「「乾杯」」」
聖女は言葉を発することなくグラスを掲げた。
ラグナフは聖女と食事を共にすることを誉れとして色々と聖女に話しかけるが、聖女からの反応は乏しい。「はい」「ええ」など簡単な返事しか返ってこない。
そんな聖女を反対側からカインは見ていたが、ふと聖女と視線があった。
そして聖女はテーブルの下から手を伸ばし、カインの膝下に一枚の紙を置いた。
カインは聖女の行動に驚きながらも、周りに気づかれないように中身を覗いた。
紙には一文だけ書かれていた。
『二人だけでお話ししたいことがございます』
カインは視線を聖女に戻すと、また二人の視線が交差する。
何も言わずにカインが少しだけ頷くと、聖女は僅かばかりながら笑みを浮かべた。
乏しい表情だっただけに、その僅かばかりの笑みはカインには衝撃だった。
淡々とした食事が終わり、聖女は迎賓館へ戻っていった。
客室にカインは戻り、渡されたメモをもう一度確認する。『話したい』と言われても、『いつ』『どこで』とも書いておらず、どうしていいか解らない。
「夜中に行くしかないよな……。昼間はあの護衛隊長が煩そうだし」
何事にもカイン達を遠ざけようとする護衛隊長にカインは苦笑いする。さすがに食事の時は貴族と聖女だけということで同席したいという要望を断った。それでもホールの外側で待機している有様だ。多分会話を聞いていたのだろう。
もしかしたら聖女が何かを話すかと、監視しているのかもしれないと考えた。
夕食も聖女と一緒のはずだったが、護衛隊長が一人で領主邸を訪れた。
「聖女様はお疲れのようで休みたいと仰ってる。会食はキャンセルさせていただき部屋で食事されるとのことだ」
ラグナフはその言葉に聖女と食事が出来ないことを残念に思いながらも、部屋に食事を運ぶように手配をする。夕食はラグナフ家族とカイン、シルク達だけで行われた。
「明日には王都に発たれるというのにご一緒できないとは……」
「ラグナフ卿、王都の帰りもまたシルベスタに寄ります。その時にはまたご一緒できますよ」
カインの言葉に思い出したかのようにラグナフは笑顔を取り戻す。
「カイン卿、そうだよな。また帰りも聖女様はこの街に寄るんだよな」
あまりの変貌ぶりにカインは苦笑いしながらも頷いた。横ではシルクがクスッと笑っている。
先ほどまでの暗い雰囲気はなくなり、和やかに食事は進んだ。
深夜。
皆が寝静まった頃にカインはベッドから起きた。
服を着替え、転移する用意をした。迎賓館は一度全部の部屋を確認のために回ったお陰で問題なく転移することができる。
普通に部屋に伺いたいが、きっと護衛隊長が部屋に通すことはないだろうと思い、転移を選択した。
生命の神ライムが目をかけているくらいだから、転移魔法が使えたとしても黙っていてくれるだろうと思ってのことだ。
『転移』
視界は一瞬で変わり聖女が泊まっている部屋に変わる。
目の前には眠っていると思われた聖女が椅子に座りすでに待っていた。
「シルフォード様、やはり来てくれましたね」
カインはその言葉に驚くが、すぐに軽く頭を下げる。
「夜分遅く申し訳ありません。この方法でしか二人でお会いすることは叶わないだろうと思い、不躾ながらもこうしてこさせていただきました」
「いいんです。夜分遅くになると思っていましたから。こうして来ていただきありがとうございます」
昼間と打って変わり笑顔の聖女にカインは驚く。
「何か可笑しいですか? 私の変わりようかな? 昼間はあの護衛隊長がいるから話をしないようにしているのです。まずは座ってからお話しをしましょう」
カインは聖女に促されるように対面の椅子に座った。
「実は――」
聖女がこれまでの事を説明が始まった。
教皇派から命を狙われていることをすでに知っており、護衛隊長及び数名は教皇派から派遣された騎士であること。エスフォート国内で命を狙う算段がついていること。聖女がエスフォート国内で亡くなった場合、教皇が王国へ批難声明を出す手筈になっていること。
聖女が好きに話すことが出来ないのは、情報を知っている可能性を疑い、その事で誰かに助けを求められたら困るからとのことだ。
「やはり……」
カインはライムから聞いていたことと同じような内容に納得する。
そして疑問が生じた。
「それにしても……何故私に?」
この街には熱心な教徒であるラグナフもいる。同性のシルクもいたはずだ。代表してカインが挨拶をしたが、これだけの秘密をいきなり打ち明けるのはおかしかった。
「シルフォード様……カイン様と呼んでも? カイン様は使徒様ですよね? 一目見てわかりました。これでも聖女と呼ばれておりますから。それに……神託を受けておりました。『何かあればカイン・フォン・シルフォードを頼れ。きっと助けになる』と……。まさか同じ位の年とは思いませんでしたけど」
クスッと聖女は笑う。その笑顔はテレスティアやシルクと変わらないほど美しい笑顔だった。
神の神託にカインは苦笑いをする。
「神様がそう言ったのですか……」
「えぇ、カイン様となら子を宿してもいいとまで」
「プッ」
衝撃的な聖女の一言にカインは吹き出す。
ライムから神託を出しているとは聞いていたがまさか『子を宿してもいい』とまで伝えられているとは思ってもいなかった。
「私も信託を受けた時はどうかと思いましたが、実際にお会いして――構わないと思いましたわ」
「ちょ、ちょっと待ってください。いきなりそんな衝撃的なことを言われても困ります。神様たちも何を言っているんだか……」
聖女の暴走的な一言に、カインはきっと見ていると思われる神々を思いながら天井を睨みつけた。
「まず今は聖女様を守り抜くのが一番ということはわか――」
「ヒナタと呼んで下さい」
「でも……」
「二人だけの時だけでも」
「はい……」
ヒナタはカインが了承したことに満面の笑みを浮かべる。その笑顔は神々しく、まさに聖女と言われておかしくないほどに美しかった。
その後、二人は会談を続けた。そしてカインはアイテムボックスよりネックレスを一つ取り出してテーブルに置く。
そのネックレスはシンプルながら美しく紅く輝く魔石がついている。
「これは……」
「このネックレスはきっとヒナタ様を守ってくれます。この魔石を握って魔力を込めれば遠くにいても私に伝わります。それと同時にヒナタ様をきっと守ってくれるでしょう」
ヒナタはネックレスを取り手のひらに乗せ、目を輝かせている。
「カイン様、ありがとうございます。肌身離さず身につけさせていただきます。それと……付けていただいても?」
カインは頷き、ヒナタからネックレスを受け取ると後ろに回り金具を取り付けた。
「ありがとうございます」
嬉しそうな顔をしたヒナタは改めてカインに頭を下げる。
「本当でしたら、使徒様は私よりも崇められる存在でいるはずなのに、助けてもらうなど申し訳ない気持ちでいっぱいですが……」
「使徒ということは内緒で……。王国内でも限られた人しか知りません。知られたら大変なことになるので……」
「はいっ、私とカイン様との秘密ですね」
昼間と違った表情にカインは動揺しながらも頷いた。
「では、明日からよろしくお願いしますね」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
満足そうな表情をしたヒナタに、あとで神に文句を言うと決めたカインだった。
こうして二人の密会は終わった。
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