転生貴族の異世界冒険録~自重を知らない神々の使徒~

夜州

第三話 シルベスタの街2


 真っ白に染まった視界は徐々に戻っていく。
 目の前には真っ白な神の世界、そしてテーブルを囲んで七神が座っている。

「カイン、いつも楽しませてもらっているぞ」

 中央に座るゼノムが髭を撫でながら笑顔を向ける。
 いつか見たスクリーンで行動を娯楽にされていることにため息をついた。

「ご無沙汰しております。聞きたいことがあったので……」
「うむ、聖女と呼ばれている娘のことじゃろう。娘にはライムが神託を下ろしているがの。まぁ立ったままではなんじゃ、座るとよい」

 カインはゼノムに促されいつもの席に座る。
 そしてすぐ横にいたライムが口を開いた。

「あと数日後に私が神託を下ろしている聖女に会うことになると思う。彼女を守って欲しいの」

「守って欲しい?」

 唐突に言われたことにカインは首を傾げる。

「私たち神は全ての人を平等に見守っているの。何があってもそれが人生だから。カインはちょっと面白いから多く見ているけど」

「面白いって……」

 ライムの言葉にカインは顔を引きつらせる。ゼノムが軽くゴホンと咳をしたことによって、ライムは顔を引き締め、話を続ける。

「それでね、神を讃える教会の中でも、私たちの声を伝える聖女派と、教国の指導者である教皇派の二つに分かれていて、今回、あなたたちの国に向かうのをいい理由に、教皇派は聖女を亡き者とする計画が練られているの。あの子は私の加護を受けているし、素直で信心深いしいい子だから助けてあげてほしいの」

 もし聖女がエスフォート王国内で襲撃されたとしたら、国家を巻き込んだ大騒動になることは容易に想像できる。しかも暗殺までされてしまったら取り返しがつかない。同行しているカインやシルクの実家にまで迷惑がかかるだろう。

「僕のいる範囲ならなんとかできるとは思います。四六時中一緒にいることはできませんが……」

 また面倒なことに巻き込まれたと思いながらも、カインは頷いた。

「お主ならなんとかするだろう。まかせたぞカイン。そろそろ時間じゃな」

 ゼノムのその一言でまた視界が真っ白に染まっていく。


 気が付くと祭壇の間に戻っていた。
 隣には何も気づかずまだ祈りを続けているシルクが座っている。シルクの横顔を見ていると祈りが終わったようで目を開きカインのほうを向いた。
 二人の視線が合うと、シルクは頬を少し染める。

「カインくん、そんなに見られたら恥ずかしいよ?」

「ごめん、熱心に祈っていたからさ」

 シルクに笑顔を向け、祈りが終わったことで教会を後にした。
 その後、街中を二人で歩きながらのんびりとした日を過ごした。夕食時にはラグナフからマリンフォード教についての講義を聞かされたのは言うまでもない。


 そして数日が経ち、聖女を迎えにあがる日となった。

 国境付近まで迎えにいくのはカイン、シルクをはじめ近衛騎士団が十名、そして領主のラグナフを筆頭に騎士団が十名同行する。
 他にも従者や侍女が数名同行していた。
 ラグナフの馬車を護衛するように先行し、カイン達を乗せる馬車は後を追う。

「聖女様ってどんな人だろうね?」

「僕たちと年は変わらないって聞いているけど、細かい事は何も知らないな……」

 シルクの言葉に返事をしながらライムから聞いた話を思い出す。

(狙われているって言っていたけど、大丈夫かな……。何もなければいいけど)

 街から国境までは半日の距離があり、待ち合わせ場所に到着すると昼食の用意を始めた。
 小川が国境を横断するように流れており、橋を渡るとマリンフォード教国となる。

「ここで聖女様をお迎えすることになっておる。天幕を設置したのでそこで待たれるとよい」

 案内された天幕はカーペットが敷かれテーブルと椅子が置かれていた。カインとシルクは侍女が用意してくれた紅茶を飲む。
 ここの領地の紅茶は特産のフルーツを乾燥させて作られており、ほのかに甘い香りが漂ってくる。

「このフルーティーな紅茶も美味しいね」

 二人はそんな話題を話しながら、一緒に用意された菓子を摘み雑談を進めた。
 カインは雑談をしながらも探査サーチを使い、マリンフォード教国側の様子を探っていた。一方向に集中することにより十キロ先まで感知が出来るまでとなっていた。
 すでにエスフォート王国側に向かっている馬車を補足していた。但し、その後を一定の距離を置いて追う集団があることも掴んでいる。
 目視したわけでもないので、商隊か護衛かと疑問に思いながらも、シルクとの雑談を続けられた。
 五キロほどの距離となり、何もなければあと一時間もあれば国境に到着すると思っていると、後ろを追う集団が馬車に近づいていくのを感じられた。
 そして馬車の動きが止まり、戦闘が開始された。
 カインは焦ったように紅茶が入っているカップを置き立ち上がった。

「まずい。聖女様が襲われているかもしれない」

「えっ!? 何!? カインくんどうしたの?」

 唐突に立ち上がったカインが口にした言葉にシルクが驚く。

「シルクはすぐにラグナフ卿に伝えて欲しい。馬車が数キロ先で襲われていると。僕は先にいくよ」

 天幕から急ぐようにカインは飛び出して、近衛騎士団の横を通り抜け橋を渡りマリンフォード教国に入る。
 あまりの急なカインの行動に待機していた騎士団たちも唖然とした。

「カイン様はいったい……」

 シルクも急いでラグナフの天幕に向かい、カインが告げたことを説明する。

「何!? 聖女様が襲われているかもしれないだと! こうしてはいられん。すぐに救援に向かわなければ!」

 ラグナフも護衛の騎士団に号令を出した。護衛の騎士団は領主の言葉にすぐに班編成を行い馬に乗り込み橋を渡っていく。
 近衛騎士団も、シルクの護衛をする必要があり、六人が残り四人が騎士団の後を馬に乗り込み追っていった。
 慌ただしく騎士たちが動いている中、カインはすでに風魔法を纏い百キロを超えるスピードで、聖女が乗る馬車に向かっていく。
 馬車を守っているのは十人に満たない。襲っている者は三十人はいるだろう。焦りがスピードをさらに加速させていった。
 数分も走ると馬車を守るように前線に立つ騎士と、見窄みすぼらしい格好をしているが、新しい武器を持った盗賊の戦闘が行われていた。
すでに数人の騎士が倒れている。
そんな中、カインは盗賊達に向かって魔法を放つ。

水弾ウォーターバレット

 同時に十の水の弾が現れ、次々と盗賊達を倒していく。
 威力の調整をしており、殺傷能力は抑えて魔法を放ったが、運悪く顔面などに当たった者たちはその限りではなかった。
 いきなり現れた貴族服を着た子供に驚きながらも、次々と盗賊を倒す子供を仲間だと信じ盗賊達を押し返していく。
 カインの援護もあり、数分後には立っている盗賊は一人もいなかった。
 半数以上の盗賊はすでに亡骸となっていたが、十人程度まだ息があり魔法で受けた攻撃や、斬られたことにより痛みで唸っている。
 カインは姿勢を正し、懐から貴族証を出し掲げた。

「聖女様の馬車で間違いないですか? エスフォート王国のカイン・フォン・シルフォード・ドリントル子爵だ。王命によりお迎えに上がったが、襲われていると感じ加勢させてもらった。護衛隊長は?」

 貴族証を出した子供にさすがの護衛していた騎士も驚く。貴族証を出すということは当主であることの証であるからだ。
 カインの言葉に一人の護衛が前に出てきた。揃いの鎧を着ているが、四十代で他の騎士とは違い左腕に赤いスカーフを巻いている。

「聖女様の護衛隊長をしている聖騎士のマスティーナだ。加勢感謝する。――ボルト……やれ」

 マスティーナが後ろにいるボルトと呼ばれる騎士に声をかけると、生き残っている騎士を連れて倒れている盗賊に向かっていく。
 そして――いきなり剣で首元を刺して盗賊達に止めをさしていく。

「な、何を!?」

 騎士のいきなりの行動にカインも驚く。盗賊たちは揃いの新品の武器を持っていた。只の盗賊ではないことを物語っている。もしかしたら何か情報が掴めるかもしれないのに、いきなり騎士は止めをさしているのだ。

「この盗賊達を引き連れて御国には行けまい。元の街まで戻るわけにもいかん。だからこうしてここで処分しているのだ」

「せめて盗賊たちの情報だけでも――」

「必要ない」

 カインの言葉を止めるようにマスティーナは言葉を被せてくる。
 そうしているうちに騎士達は生きている盗賊全てに止めをさし、隊長の元に戻ってきた。

「隊長、終わりました」

「うむ、ご苦労だった。各自手当をするといい」

 ボルトと呼ばれた騎士は、隊長の指示に頷き生き残った騎士たちの元に戻った。

「――なぜ、全員殺す必要が……」

 カインはこの護衛隊長に不信感を持つ。生きていれば少なからず情報を持っているはずだ。それをわざわざ証拠を隠滅するような行動に眉間にシワを寄せる。

「加勢は感謝いたすが、ここはマリンフォード教国の敷地だ。シルフォード卿はエスフォート王国の貴族である。この国内で起こったことには口出し無用」

「……そうですね」

 マスティーナの言葉は正論である。例え暴挙と感じられてもこの場所はマリンフォード教国であり、その国の法律に則る必要がある。
 カインも渋々ながら頷くしかなかった。
 全てが終わった後に、エスフォート側からいくつもの馬蹄の音が響いてくる。
 ラグナフを筆頭に、護衛騎士、近衛騎士が十人ほど馬に乗り駆けてきた。

「カイン卿! お待たせしました……ってこれはいったい……」

 三十人近くいた盗賊たちは全員止めをさされ息絶えている。
 地獄絵図のように死体の山と血の海となっている状態を見て、到着した騎士たちも絶句している。
 さすがにこのままの状態では、魔物を呼び寄せることになるし、病原菌の苗床になる可能性もあるのでマスティーナの許可を貰い埋めることとなった。
 カインが魔法で地面に穴を作り、騎士たちが次々と盗賊を投げ込んでいく。全員を投げ込んだところでカインが魔法で土を被せていく。
 三人の騎士の亡骸はマスティーナが持っていた魔法鞄マジッグバッグに納められることになった。

「シルフォード卿、助力感謝する。さすがにここで聖女様に馬車から降りて頂く訳にもいかない。街まで案内願えるか」

「――わかりました」

 隊列が組み直され、ラグナフを筆頭とし、シルベスタの騎士が先行する。中央には聖女の乗る馬車とその護衛、一番後ろをカインと近衛騎士が受け持つこととなった。

 そしてシルクの待つ待機場所へと進み始めるのであった。



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コメント

  • べりあすた

    いっぱいフラグ立てるね

    1
  • ノベルバユーザー250446

    護衛隊長は今の所真っ黒黒助…

    4
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