転生貴族の異世界冒険録~自重を知らない神々の使徒~

夜州

第二話 シルベスタの街1

 シルベスタまでの道中は特に大きな問題もなく進んでいく。
 近衛騎士団二十名が護衛し、馬車数台の隊列に挑むような盗賊や魔物もいなかった。
 探査サーチで森の中には魔物が徘徊しているのを感じているが、襲ってくる様子もなかった。

「もう少しでシルベスタにつくね。カインくん、結局同衾してくれなかったし……」

 口を尖らせて外を眺めているシルクにため息をつき、カインは探査サーチで道中の様子を伺っていながら答える。

「婚約発表もしていないし、エリック公爵からも言われたでしょ? それにテレスが何言うか……」

 見送ってくれたテレスティアを思い浮かべながら、軽く拒否の姿勢を示す。
 前世を合わせるとすでに二十歳を超えていることもあり、前世ではいないような美少女であるが、まだ少しの膨らみしか感じられない子供に欲情することはない。
 馬車は何事もなく進み昼を回った頃に街壁に囲まれた街が見えてきた。

「カイン子爵、シルベスタの街が見えてきました」

 護衛の騎士が馬車の外から声が掛かり、カインはそれに頷く。

(それにしても、陛下が言っていたラグナフ伯爵か……何もなければいいんだけど……)

 先行した騎士が衛兵に説明し、門が大きく開かれ、その左右に衛兵が並び、カイン一行を出迎える。
 街に入ろうとした商隊は何事かと驚きながらも衛兵に促されるように道を空けた。
 その真ん中を馬車は進んでいき、街中に入っても馬車は直接領主邸に向かうために止まることはない。
 街に入りゆっくりとした速度で、二十分ほど馬車を進めると領主邸に到着した。

「カイン子爵、領主邸に到着いたしました」

「わかった、ありがとう」

 馬車の扉が開かれカインが先行して降りて、シルクが降りる際に手を取って手伝う。

「カインくん、ありがとう」

 シルクの笑みに頷き、領主邸を見上げると、入口にはすでに領主を含め従者が数人並んでいた。
 中央に立つラグナフ伯爵と思われる四十代の男性が両手を広げ前に出てきた。

「カイン子爵、シルク嬢。シルベスタの街へようこそ。私がこの街の領主、ラグナフ・フォン・ルーベルト・シルベスタです。マリンフォード教の加護があなたたちを歓迎いたします」

 二人は姿勢を正し一礼したあとに挨拶をする。

「ラグナフ伯爵、わざわざお出迎えありがとうございます。カイン・フォン・シルフォード・ドリントル子爵です。この度はお世話になります」

「シルク・フォン・サンタナでございます。お世話になります」

「これはご丁寧に。長旅でお疲れでしょう。今日はゆっくりとされるとよろしかろう」

 扉が開かれメイドが先頭に立ち二人は客室に案内される。迎賓館も領主邸の隣に建っているが、聖女が泊まるために二人は今回、領主邸の客室に泊まることとなっていた。
 客室には小さいながらも七柱の像が飾られている。実際の神々とはかなりの差異はあるが気にしてはいけないだろう。
 すぐに扉がノックされ、扉が半分ほど開かれシルクが顔だけ出して覗き込んできた。

「カインくん、入ってもいいかな?」

「どうぞ」

 部屋に入ってきたシルクはすでに旅装から着替えており、貴族令嬢らしい彩られたワンピースを着ていた。

「ありがとう。聖女様が来るまでまだ五日あるでしょう? それまでどうしようかなと思って」

「国境付近まで迎えにいく必要があるけど、ここから半日で着くみたいだし、数日はゆっくりできるみたいだから街でも散策に行こうか?」

「もう、カインくんったら。散策なんて言わないで『デート』って言ってよ」

「――そうだね……。この街は熱心な教徒が多いと言うし、教会にも行ってみたいかな」

 カインは聖女と会う前に神々と会っておきたいと思っていた。見抜くことはできないと思うが、聖女からいきなり『使徒』とか言われたら、この街では大変なことになる。ただでさえすでにステータスは人外であり、亜神となっているのだから仕方ない。

「なら夕食の時にラグナフ様に聞いてみようか。明日街に出たいって」

「うん、それでいいと思うよ」

「わかった。カインくんまだ着替えてないからまた夕食の時にね!」

 シルクはそう言うとすぐに部屋を出て行ってしまった。

 カインも旅装を生活魔法で綺麗にし、アイテムボックスから貴族服を取り出し着替え、夕食までは少し時間があるので、ベッドの上で座禅を組み瞑想をしながら魔力循環を行っていく。
 集中していたらいつの間にか窓から夕日が差し込んできており、メイドが夕食のために呼びに来た。

「カイン様、夕食の準備が整いました。皆様お揃いでございます」

「ありがとう、今いくよ」

 メイドに案内されダイニングに向かうと、すでにラグナフやシルクも席についていた。

「お待たせしてすいません」

 シルクの横に座ろうと思っていたら、ラグナフの横の席に座るよう促された。

「いえいえ、カイン卿はすでに当主です。聖女様が到着なされるまでは主賓になりますから」

 ラグナフが笑って答える。

「では、皆揃いましたので乾杯としましょう。マリンフォート教七柱の神に感謝を! 乾杯」

「「「「乾杯」」」」

 初日ということで豪華な食事が並べられる。そこからメイドが料理を切り分けて目の前に置いていく。

「カイン卿はマリンフォード教の神々の中で誰を一番崇めているのでしょうか」

 少し食事が進んだ時にラグナフから声を掛けられた。

「僕は特に特定の神は……」

 七柱の神全てと会っているカインは特に優劣を決める必要性を感じてもいなかった。それこそ神の世界でのスクリーン画面が脳裏に浮かぶ。

「そうなのですか。それはいけません! 神々はそれぞれの役割をお持ちになっておられます。まずは――」

 ラグナフが七柱について話し始めた。それはどこで呼吸をしているのかというほど永遠と話し続ける。
 話し続けている間に食事をするわけにもいかず、相槌を打ちながら話を流していく。ラグナフが話していることの一割も頭の中に入ってこない。

「――だから各神は全て素晴らしいのです」

「お見それしました。そこまで神々を信仰しているとは」

 三十分ほど話し続けていただろうか。疲れ果てたカインはその一言を返すのが限界だった。
 少しだけ食事を済ませ、食事のあともまだ話し足りないラグナフに誘われたが、旅の疲れからゆっくりしたいと申し出を断った。

 部屋に戻り、ぐったりとしたカインはベッドに倒れこむ。

「本当に熱心な教徒だとわかるけどさ……あそこまでなんで話すことがあるんだろう……」

 精神的な疲れから、ハクとギンを呼び出してそのふんわりした毛並みに飛び込みモフモフで癒されていた。

「最近、お前らと遊んでやれてないもんな……それにしても少し大きくなったかな」

 ハクはすでに三メートル近くの大きさになっている。そのお腹にカインは飛び込んで手触りのいい毛並みを撫でている。
 本当なら一緒に街を歩きたいが、神狼フェンリルと神竜と共に歩いていたら確実に面倒なことになることが想像できた。
 存分に毛並みを楽しんだあと、カインはベッドに入り眠りにつく。

 次の日、ラグナフに許可をもらえたこともあり、シルクと二人でデートすることになった。ラグナフは護衛の騎士を同行させると言ってきたが必要ないと断った。二人の護衛をしていた騎士はカインの強さを十分に知っており、特に咎められることはなかった。
 二人は街並みを眺めながら歩いていく。さすがに貴族服で護衛も付けずに歩いていたら何が起きるかわからないとのことで、上等な平服を着ている。

「見て、美味しそうなフルーツが並んでいるよ」

 シルクの指差すほうには軒先に積まれた色とりどりのフルーツが何種類も置かれている。王都よりも南にあるせいか温暖な環境であり、ワインを製造するためのブドウも置かれている。

「本当に美味しそうだね。帰りに少し買っていこうか」

「うん」

 二人は会話を弾ませ、色々な店を眺めながらも街中を歩き続け目的地である教会にたどり着いた。

「カインくん、お祈りいくんだよね? 私も一緒にしよっと」

 二人は入口のシスターにお布施を置き、祭壇の前までやってきて片膝をつき手を合わせる。
 そしていつもの通り、白い光に包まれていくのであった。

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