転生貴族の異世界冒険録~自重を知らない神々の使徒~

夜州

第五十八話 サラの過去


 風呂を堪能したカインはそのまま客室に泊まった。
 次の日、食事を済ませ学園があるということで早々に戻ることにした。
 応接室でエリックと二人で食後の紅茶を飲む。

「カインくん、本当にもう帰るの?」

 エリック公爵の問いにカインは頷いた。
「ええ、学園にも行かないといけませんし。色々お世話になりました。また王都でよろしくお願いします」

「それにしても本当に『転移』は便利だよね。莫大な魔力量がないと無理と聞いたが……」

「一度の転移で、数万程度消費しますからね。普通の魔術師では無理かと」

 数万という数を聞き、諦めたエリックはため息をつく。

「わかった。ここから転移しても問題ないよ? 本当なら街外に出てから転移して欲しいけど、実際に見てみたいし」

「わかりました。ではこのまま王都に戻ります。ありがとうございました。また王都で」

『転移』

 カインの目の前にいたエリックの姿が一瞬にして消え、視界が変わっていく。
 シルフォード男爵家の屋敷の執務室に転移した。

「早く学園に行かないと、終わったあとは母上のところに……」

 カインは衝撃的なサラの過去を思い浮かべながら制服に着替え、コランとシルビアに声を掛けてから学園に向かった。
 教室に入るとすでにテレスティアとシルクは登校していた。

「カイン様おはようございます」
「カインくんおはよぉ」
「テレス、シルク、おはよう」

 カインは二人に挨拶をしたあとに席に座る。

「もうすぐ夏休みだよね……今年は行けないけど、今度カインくんもマルビーク領においでよ。温泉もあるし、テレスもあの温泉が好きなんだよ?」

「そうそう、あの温泉に入ったあとは身体が温まって普通のお風呂とはまったく違いますわ」
 温泉の気持ちよさは昨日経験しているカインは思い出しながら頷いていく。

「本当に気持ちよかっ――あ、気持ちよさそうだね」

 思わず昨日マルビーク領にいたことを話しそうになり止めた。
 カインが少し焦っているのを二人は首を傾げて見ている。

 午前中の授業を受け、午後からはカインの選択した授業がないためにそのまま王都のシルフォード辺境伯邸に向かった。
 門兵に挨拶をし、屋敷の中に入っていく。
 ガルムは王城にいるとのことで、サラが出迎えてくれた。

「あら、いらっしゃい。一人で珍しいわね」

「母上、今日は話があってきたのです。父上にも話をする必要がありますが、先に伝えておければ……」

 カインの神妙な表情を汲み取り、サラは応接室に案内した。
 案内された応接室でサラと向き合う。メイドには紅茶を淹れてもらったあとに退出してもらった。

「そんな、二人きりになって話したいことでもあったの?」

 サラは不思議そうな顔をしてカインに訪ねた。
 カインはアイテムボックスから一通の手紙をサラに差し出した。

「この手紙は?」

「週末マルビーク領に行く途中で盗賊に襲われている貴族を助けました。サントス・フォン・ゲレッタ・ダンロフ子爵からの手紙です」

 名前を聞いたサラは目を見開き驚いた。

「――お父様のね、カインは知っちゃったんだ? 私がゲレッタ家の長女だってこと……」

 カインが頷くと、サラが寂しそうな顔をし、手紙の封蝋をナイフで開き手紙を取り出した。
 手紙を読んでいる間、カインは黙ってサラの顔を見ていた。
 サラは次第に目に涙を溜めながら読んでいく。そして全て読み終わった頃には涙が溢れていた。

「屋敷で一晩お世話になった時に母上の妹にもお会いしました。そっくりだったので思わず「母上」と呼んでしまったことで真相がわかりました」

「ララね……、やっぱりララの子も女の子か……」

「そうですね、リーラと言って僕より少し年下の女の子でした。僕が母上の子供と判明する前は婿養子にこいと言われましたから」

 カインが冗談っぽく言った。
 その言葉にサラは目に涙を溜めながら、笑いを堪える。

「お父様らしいわ、相変わらずなのね……。それでガルムにも?」

「ええ、手紙を預かっています」

 サラは読み終わった手紙をテーブルに置き、紅茶を口にした。

「ガルムが帰ってきたら、話しましょう。もちろんレイネも入れて」

「わかりました。それまでは僕もいます」

「ええ、そうしてもらえると助かるわ。一人で説明するのは……ね? 事情を知っているカインにも同席して欲しいの」

 先ほどまでの涙はすでに消えており、いつもの表情に戻っていた。
 ガルムが戻るまでの間、学園生活や屋敷のこと、ドリントルでの出来事などをサラに説明していく。
 カインが想定外の事をしていることにサラはお腹を抱えながら笑っている。
 途中でレイネが帰ってきたこともあり、応接室では賑やかな話題で溢れていた。

「カインくん、全然屋敷に来てくれないんだもん。私も生徒会で忙しいし、たまには一緒に遊んでよっ」

「姉さま、そんなこと言ったって、姉さまも忙しそうですよ? いつも学園でお見かけしますけど動き回って大変そうでしたし」

「週末は領地に行っちゃっているし、今度、ドリントルにも連れていってよ?」

「私もドリントルに行ってみたいわ。そのうち連れて行って。アレクの顔も見たいし」

 二人に責められたこともあり、カインは渋々頷く。

「まだ再開発している途中なんで大変ですよ? アレク兄様にほとんどお任せしていますし。先にアレク兄様に話してから時期を決めましょう」

 話を進めていると、部屋がノックされガルムが帰宅した事がメイドから伝えられた。

「ガルムを連れてきてもらえるかしら」

 サラの言葉にメイドは頷き、ガルムを呼びに部屋を退出していった。
 程なくしてガルムが部屋を訪れた。
 部屋に入ると、カインもいることにまた何かあったのかと思い苦笑いをしながら席に着く。

「カイン……また何かやらかしたのか……」

「……今回は僕では――」

 カインを手で制してサラが話し始めた。

「私から話すわ、あなた、今まで隠していたことがあるの、あなたと出会った時は冒険者のサラと説明していたけど、私には家名があるの。カイン、手紙を出してくれる?」

 サラの言葉にカインは頷き、手紙をアイテムボックスから取り出し、ガルムに手渡した。

「この手紙は?」

「読んでもらえればわかると思います」

 ガルムは手紙の封蝋の紋章を確かめる。

「この紋章は……」

 見覚えのある紋章に眉間に皺を寄せる。

「私の家のよ。私の旧姓はサラ・フォン・ゲレッタ、サントス子爵の長女よ」

「なっ!!」

「えっ!?」

 サラの言葉にガルムとレイネは驚いた。

「その手紙を読んでもらえればわかるわ」

「――わかった」

 ガルムは封蝋を開き、中の手紙を読んでいく。途中でカインに視線を合わせ「またカインか……」と呟きながら読み続けた。
 全てを読み終えたガルムは手紙を置いてため息をつく。

「まさかサントス卿の娘だったとは……。だからあまり式典など出たがらなかったのだな」

「ええ、一度は家を出たとはいえ、貴族の娘でもあるのよ。実家に挨拶もしないで婚姻を結んだとしたらあなたに迷惑が掛かると思って……」

「たしかに、礼儀に反する行為にあたる。それにしてもサントス卿のとは……」

 ガルムとサラが今後の対応について悩んでいる。そこでカインが声を掛けた。

「その件ですが、サントス卿は今度一緒に遊びに来てくれと……。元気な顔を見せてくれれば満足だと言っていました。レイネ姉さまのことも見たいとも」

「うむ……。そのうち挨拶に行くことは必要だ。但し、数日王都を空ける必要がある。さすがに陛下に理由を説明せず王都を離れるわけにもいかん」

 ガルムは王都での仕事を抱えている。今まで冒険者と思っていた妻が、実は貴族であり、その実家に行くというだけでは王都を離れる説明にはならない。

「その件でしたら……僕がすでに拠点登録しているので『転移』を使えば一瞬で行けます……」

「「……」」

「その手があったか」

 ガルムは頷くが、サラとレイネは事情が理解出来ていない。

「カインくん、転移って、あの勇者の話や神話に出てくる魔法だよね? なんでそんな魔法が使えるのかな?」

「えっ」「あっ」

 二人の声が重なった。
 カインとガルムの二人はしまったという顔をしたが、すでに遅かった。

「あなた、カインくん? どういうことかしら……」

 先ほどと全く違った表情をした二人から冷たい視線が突き刺さり、ガルムとカインは冷や汗をかく。

「いや、それはだな、陛下にも話すなと言われている国家機密ということでだな……」

「――あなた、なぜ家族の話に国家機密が出てくるのでしょうか……じっくり話す必要がありそうですね」

 にっこりと笑うサラに、ガルムは目を泳がせ視線をカインに送る。
 カインは諦めた顔をして横に振った。

「――母上、一日一回だけ、僕の大量の魔力を使い転移することができるのです。それで週末にダンロフの街に行こうと」

 本当は何度魔法を使っても魔力切れになることはないが、そのほうが納得できるだろうと思いカインは説明していく。
 ガルムもカインの説明に少し挙動不審気味に頷いた。

「カインくんの魔力量は規格外だったわね。それにしても伝説と言われている転移魔法まで使えるまで成長するなんて」

 サラは改めてカインの成長に感心した。

「わかったわ、週末にダンロフに行きましょう。十年以上も家を出たままで私も謝らないといけないし」

 その一言で、週末にダンロフの街へ行くことになった。

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