転生貴族の異世界冒険録~自重を知らない神々の使徒~
第四十八話 バイサス帝国
人口は一千万人を超え、広大な領地を持ち、グルニュート大陸で最大の国家と言われている。王城は贅を尽くした造りとなっており、その王の間は金箔で彩られ、豪華な装飾品で飾られている。
そして、執務室の豪華な椅子には第三十八代皇帝であるフェルナンデス・ヴァン・バイサスが座っている。贅沢な生活をしており、煌びやかな服を着て重そうな腹を抱え、茶色の髪はロールで巻いた皇帝だ。
「アレの様子はどうなっている」
片手にワインを注いだグラスを持ち、他に誰もいないはずの部屋でフェルナンデスが壁に向かって話しかける。
「あと、数年で時は満ちると思われます。すでに街には数十名の部隊を潜伏させて、一般市民として生活をさせております」
どこからか現れた全身黒尽くめの男が片膝をつき答える。
「あと数年じゃな。その時には歴代皇帝が出来なかったことをワシが叶える。そして、ワシが歴史に偉大な皇帝として名を残すのじゃ」
「御意」
黒尽くめの男は片膝をつきながら答える。
「引き続き状況を伺え。時が来たらすぐに動き出すように」
「御意」
その言葉を残し、黒尽くめの男は消えた。
フェルナンデスはグラスに入ったワインを飲み尽くし、机に置いた。そしてテラスへ出て眼下の街を眺める。
バイサス帝国は軍国国家となっており、他国へ戦争を仕掛けることが多く、属国を増やすことで自領の拡大を続けている。
属国からの上納金や資源などを集め、軍備を整えたあと、また他国へ侵略を繰り返している。
カインが生まれる前。十数年前のまだ皇帝を引き継いだばかりのフェルナンデスは、大陸の中央にあるエスフォート王国にも戦争を仕掛けたが、境界にある砦を落とすことが出来ず、撤退した痛い記憶がある。その時のエスフォート王国軍を率いていたのが、カインの父親であるガルムだった。
三百年前に勇者が創った国ということもあり、その国の領地を配下に治めることによって、大陸で名実共に一番の国だと名乗ることができるとフェルナンデスは思っている。但し、バイサス帝国からエスフォート王国に抜ける道は三つしかなく、砦の街ラメスタを抜けるか、魔物の森を抜けるか、広大に広がる山々を抜ける道しかない。魔物の森を抜けるためには、凶暴な魔物による損害を考慮せねばならず、また森が広がっていることにより軍の進軍が難しく一般的ではない。
山々を抜けるルートも崖が立ち並び、歩兵は抜けることは出来るかもしれないが、兵糧などの運搬が難しい。よって、選択肢はラメスタを抜ける他ない。
「エスフォートの奴らめ、覚えておれ。あの時の屈辱は忘れんぞ」
フェルナンデスはテラスについた両手を力強く握り締めた。
◇◇◇
王城に呼ばれ、国王と宰相の二人からこってりと絞られたカインは、ため息をつきながらソファーに座った。
「カイン様、随分お疲れのようですね。また何か問題が……」
コランが執務室の入口にたち、声を掛けてくる。
「テレスとシルクの二人に自分で創ったプレゼントを渡したら、かなり希少価値が高いものらしく、それで呼ばれたんだ」
「……いったい何をプレゼントしたのですか」
恐る恐る聞くコランにカインは気軽に返す。
「緊急時に僕に位置を知らせるネックレス。それだけの機能しか持ってないよ」
カインの気軽な言葉にコランはため息をつく。
「カイン様、それだけの機能があれば貴族がこぞって欲しがると思われます。誘拐された場合や、戦時に捕虜になった際など、自分の位置を知らせることができるのですよ。国宝までにはいかないかもしれませんが、十分に貴重な品だと思われます」
「そうかな、まぁ、今回はテレスとシルク、ティファーナの婚約者三人だけにしか渡してないから、軽く小言を言われただけで済んだけどね」
当初、テレスとシルクの二人の旅のために造ってみたが、さすがに婚約者であるティファーナだけに渡さないのも問題があるかと思い、模擬戦の後に渡したのだ。その時のティファーナは顔を赤くし照れていたのが可愛かったのを覚えている。
「あと、ルーラとローラの二人だけど、週末にドリントルに連れていくから用意しておいてね」
「そんな急に……。いえ、わかりました。二人の準備を進めておきます」
週末を迎え、執務室にはコラン、シルビアの他に荷物をまとめたルーラとローラが集まっている。
「これから、ルーラとローラはドリントルに僕と一緒に来てもらう。ドリントルで暮らしてもらうことになるからよろしくね」
カインの軽い言葉にルーラとローラの二人は頷くが、馬車に向かう訳でもなく執務室に集まったことに疑問を抱いていた。
「カイン様、ローラはまだ見習いですので、よろしくお願いいたします」
シルビアが頭を下げる。さすがにまだ十歳のローラにそこまでの仕事をさせるつもりはないのでカインは頷く。
「では、行こうか。また週明けに戻ってくる」
カインの言葉にコランとシルビアは頷く。
コランはルーラとローラに手荷物を持つように指示し、カインは二人の肩に手を置く。
『転移』
王都の執務室から、一瞬で三人が消えた。
「二人はドリントルで大丈夫なんでしょうか……」
「カイン様にも考えがあるのだと思います。私たちはこの王都の屋敷を守っていきましょう」
シルビアの問いにコランは答え、二人して執務室を後にした。
「えっ!?」
一瞬で視界が変わったことにルーラとローラの二人は驚いた。
「ようこそドリントルへ」
カインが笑顔で二人に伝えた。
「……これって転移魔法?」
姉のルーラの問いにカインは頷く。
「このドリントルの屋敷で二人とも暮らしてもらうことになる。ルーラは僕の兄の手伝いで内政官をしてもらいたい。ローラは引き続き見習いメイドだね。執事のダルメシアがすぐにくると思うから指示に従ってくれるかな」
カインの言葉のあとにすぐに執務室の扉がノックされる。
「ほら、きた。どうぞ」
カインの返事のあと、執務室の扉が開かれダルメシアが入ってきた。見た目は初老の渋い大人にしか見えないが、優秀な執事だ。色々な意味で。
ルーラもローラも緊張しているが、ルーラは顔が赤い。
「カイン様、お客様ですね」
ダルメシアの言葉にカインは頷く。
「白狐族の姉妹で、ルーラとローラだ。ルーラには兄様の手伝いをしてもらおうと思っている。ローラはメイド見習いなので、色々と教えてあげてくれ」
カインの言葉にダルメシアが姿勢を正して一礼する。
「ドリントルの街でカイン様の執事をしております、ダルメシアでございます。これからよろしくお願いいたしますね」
優雅で完璧な挨拶に、ルーラは赤い顔をし、ローラは頭を下げる。
「ル、ル、ルーラです。ダルメシア様これからよろしくお願いいたします」
「ローラです。よろしくお願いします」
「私は二人の部屋の準備をいたしますので、後でお迎えにあがります。お待ちいただく間、紅茶をお楽しみください」
ダルメシアは二人にソファーに座るように促し、部屋の隅で紅茶を淹れる。
部屋に流れてくる紅茶の匂いに、二人は喉を鳴らす。
「お待たせいたしました」
紅茶を淹れたカップを完璧な動作で順番に置いていく。カインはいつも淹れてもらっているので、そのまま口をつけていく。
二人はドキドキしながらも口をつけていく。
「「――美味しい」」
「お口にあったようで何よりでございます。では、一度失礼させていただきます」
ダルメシアは優雅に一礼し、退出していった。
ダルメシアが出て行く姿をずっと眺めているルーラをカインは見ていた。
「ねぇ、ルーラって年配好き?」
カインは思わず口に出した。
その瞬間にルーラは顔を真っ赤にして両手で顔を隠した。
「――――私、ダルメシア様みたいな渋い男性に弱いんです……」
さすがのカインもルーラのジジ好き発言に対して苦笑いしかできなかった。
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コメント
べりあすた
悪い貴族だいたい太ってる
ペンギン
なんか、ルーラのやつは意外でしたね...w