魔法陣を描いたら転生~龍の森出身の規格外魔術師~

黒眼鏡 洸

11 決闘

 一陣の風が俺と母さんの間を隔てるように吹き抜ける。

 何のための決闘なのか、それは聞かなくともわかった。

 俺を集落から出させたくない。

 言葉だけでは俺を止められないと、そう思ったからこそ母さんは決闘という形を選んだのだろう。

 風が通り過ぎ静寂が訪れる。

 俺は頷き、決闘を受け入れた。



 黄昏時、世界が移り変わる隙間で俺と母さんの決闘は始まろうとしていた。

 勝敗は相手を気絶、または降参させた方の勝ち。

 俺が勝てば集落から出ることを認め、母さんが勝てば俺は一生集落から出ることを禁じられる。

 一生!? と、思ったがもし逆の立場なら俺もそうすると思う。

 大切な家族と二度と会えなくなるのは辛い。

 なら一緒に集落を出ればいい、とはならない。

 母さんは武龍団の副団長だ。集落を守るのが母さんの使命だ。

 そして集落には母さんが必要で、母さんが集落を守ってくれているから俺は覚悟を決められる。

 それでも考える度に俺は集落が本当に好きなんだと思う。

 正直、集落を出るのは辛くて苦しい。

 何で俺が、と思うこともある。

 みんなと、母さんと二度と会えなくなるなんて絶対に嫌だ。

 でも………………

「ユーリ、本当に魔術は禁止でいいんだな?」

 母さんの声で俺の思考は決闘へと戻る。

「うん」

 これは俺が望んだことだ。

 驕りでも、慢心でもなく単純に俺の武術がどこまで母さんに通用するか確かめるためにそうした。

 成龍の儀を受ける前は一撃を入れるのもやっとで、武術では母さんは俺より何枚も上手だ。

 それもそのはずで、母さんは集落でも1、2を争う武術師でもある。

 1000年に1人の逸材と言われていて、『黒の戦姫』とは母さんのことだ。

 そんな母さんに憧れて俺は魔術と共に武術も極めるようになった。

 憧れを超えたい。

 俺の中でその気持ちはっきりとあった。

 変な話だとは思うけど、決闘への覚悟とは別に憧憬の存在かあさんを超えたいという気持ちが同じくらいあるんだ。

 母さんと目を合わせ互いに礼をする。

 礼に始まり、礼に終わる。

 それが武術の基本だと母さんに教わった。

 再び目が合う位置まで上体が戻る。

 そしてゆっくりとスイッチを切り替えるように構える。

 母さんは脚を軽く開き、両腕を少し曲げて自然体の構えだ。どこからでもかかって来い、と言われているように感じる。

 対して俺は左を前に半身で構える。

「いつでもいいぞ、ユーリ」

 その言葉を聞いてまだ幼かった頃の稽古を思い出し懐かしさから頬を少し緩めつつも、もう子供じゃないよと言いたくなった。

 でもそれならと、俺は子供の頃と同じようにあえて答えることにする。

「――――うん」

 俺は大きく頷き、そしてそのまま駆け出した。

 母さんの間合いに迫る。駆けた勢いを乗せて拳を打ち出す。

「ハッ!」

 それを母さんは片手でいなす。

 反撃されぬように俺は素早く次の拳を攻め込ませる。緩急をつけ、時には蹴りも加えながら攻撃の手を緩めない。

 さすが攻め入る隙がない。

 ダメージを狙った攻撃は読まれているように躱される。

 だが、ここで終わるつもりはない。

 母さんが反撃してこない今が絶好の機会チャンスなんだ。

 隙がないなら無理やりつくるしかないッ!

 俺は徐々に攻撃を加速させていく。機関銃マシンガンの如く連続で放つ弾丸こぶしは、少しずつだが確実に母さんを捉えていく。

 超えたい!

 一撃、一撃に想いを乗せる。

 想いが強くなるにつれて一撃がより速くなっていくような感覚があった。



 母さんを――――超えたいッ!!





 ***



 何だッ!?

 ユーリの攻撃が加速していく。

 私は辛うじて躱していた拳や蹴りを段々と躱しきれなくなっていた。

 ユーリから放たれる攻撃を目で追うのがやっとで、致命傷になり得るものをギリギリのところで避ける。

 油断はしていなかった。ユーリが強くなっているのは最初の一撃でわかった。

 だからこそ一撃一撃を見極めて躱し、反撃の時を待っていたはず……なのに、もう私の知っているユーリじゃない。

 ユーリは私の教えた武術を何かの影響によって・・・・・・・・・進化いや、昇華させている。

 ユーリは既に私を――――超えているッ。
 
 だからと言って負けるわけにはいかない!



 ユーリを手放すなんて、絶対にできない!


 ***

 俺の渾身の一撃を母さんは躱さず・・・両腕で受ける。

 力をそのまま利用するように母さんは後ろに跳ぶ。

 ダメージは入っているが、まだ甘い。

 俺は追撃を加えるために距離を詰める。

 その時、母さんの方から凄まじい覇気を感じる。このまま近づいてはいけないと俺の警鐘が頭の中で響く。

 母さんは着地の瞬間、足をつけず・・・・・腕を地面に叩きつける。

 そういうことかッ!

 訓練場の床が地割れを起こし、母さんに向かって駆けていた俺は一瞬バランスを崩す。

 その隙を母さんは逃さない。

 俺の眼前に母さんが現れ、力を込めて引かれた拳が今放たれようとしていた。

 避けられない。しかし腕で防ごうものならしばらく使い物にならなくなる。

 判断を迫られる。母さんの拳は待ってくれない。





 ――――迷うな、ユーリ。



 読んで頂きありがとうございます!!

 文才の無さを痛感する今日この頃……。
 熱いバトルが書けるようになりたいです。

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