魔法陣を描いたら転生~龍の森出身の規格外魔術師~
36 龍神アミナス
そこは果てのない無機質な場所で、どこを見ても白い。
雪とかではなく、本当の『白』だ。絵を描き始める前の真っ白なキャンパスのように……。
しかし、果てしない白は孤独を感じさせる。
何もない、何も存在しない。今ここにいる俺さえも存在していないのではないかと思ってしまうほどに、この場所は白く、何もない。
「……アカネ」
思い出すように俺は呟いた。
なぜ忘れていたのか。
それは現実から逃げようとしていた弱い心が恐れているからだ。
体が震える。
大切な家族を守れなかったこと、これまで積み重ねてきた経験を否定されることを、俺は恐れているんだ。
この世界で巡り会えた大切な存在を守りたい、そう思うのは何もなかった俺からすると自然な感情で、それには守るための力が必要だと考えていた。
だからこそ強くなりたいと切実に、誰よりも1番思っていた。
でも、俺は黒龍王と戦って、それで…………
「――――死んだのか?」
実感なんてない。
あるわけがない。
認めたくない。
それを認めてしまったら、本当に何も守れなかったことになる。
「…………いやだ」
アカネのことも、己の誓いも、セレーナとの約束も。
「……いやだ」
何もかも守れない。
『そんなのは――――嫌だッ!』
俺は、俺の大切な存在を守りたい。
俺は、大切な存在を守れる力が欲しい。
俺は、誰にも負けないくらい強くありたい。
『君は欲張りだ』
どこからか声がする。
慈愛に満ちた男の声だ。今の俺とは大違いなゆとりのある落ち着いた声。
『でも、だからこそ君を選んだ』
突然、肩に手を置かれた。
俺は気配がなかった事実に驚きつつ、即座に置かれた方を向く。
そこには俺の倍近くもの背丈をした龍人がいた。
肌触りの良さそうな長い布を身に纏い、気品のある金の髪と整った顔立ちは、男である俺でさえ美しいと思ってしまう。
額の両端から少しカーブのかかった白い角、背中からはこれまで見てきたどんな翼よりも壮麗な翼、そしてしなやかに動く白い尾が生えている。
紛れも無い龍人……それも龍人化した龍人。
「あなたは」
『私はアミナスだ』
龍神様!?
俺は目を見開き、驚きを包み隠さず露わにしてしまう。
急に全身から変な汗が出てくる。
伝説の中の伝説でいらっしゃる龍神アミナス様が、俺の目の前にいると考えただけで気を失いかけそうだ。
それほどに龍神様は俺たち集落のものにとって偉大なる存在で、憧れや尊敬を持っていないものはいない。
そんな方に会えたということは俺はやっぱり死んでしまったのかもしれない。
俺は慌てて膝をつき、土下座の姿勢になる。
「し、失礼致しました!」
『そう身構えなくてよい』
その言葉を聞き上半身を起こす。龍神様を見上げる形だ。
龍神様は俺の疑問を見透かしたように話始めた。
『ユーリ、結論から言うと君は死んではいない。ここは一種の精神世界だ』
死んではいない、その言葉だけで嬉しさが込み上げてくるが、そこはぐっと堪えて話の続きをしっかりと聴くことにする。
『しかし、君は今とても危険な状態に瀕している。魔力の器が壊れてしまったんだ』
魔力の器とは魔力を生み出す源の部分であり、魂と肉体を繋げている重要な部分だという説がある。
その器が壊れたということは魂と肉体を繋ぎ止めるものがなくなるということ。つまり、死を意味する。
『君は何度か“魔力解放”を使ったことがあるね。魔力解放は器に多大な負荷をかける力だ。今回も、無意識に君は魔力解放を使おうとしたが、君の器はそれに耐えきれなくなってしまったようだ』
俺は危険だと知っていて魔力解放を使っていた。
こうなってしまったのは、見て見ぬ振りをしていた自分自身への報いなのかもしれない。
どこかで自分の限界をつくり、それを超えるために一時的な力に頼った自分への裁き。
『でも、結果的には良かった』
え? 今、なんて。
『君には新しい器が必要だった。規格外の強さを手に入れた君には前の器は小さ過ぎたからね。今は一時的に私の加護が器の代わりをしているが、君にピッタリな器を用意しよう』
俺は龍神様に立つように言われ、直立になる。
龍神様は俺の腹部に手を当てると、そのまま腹の中へ手を突っ込んだ。
お、俺のポンポンの中に龍神様の、て、手が!?
見た目はアレだが……実際には痛みがなく、少しくすぐったいくらいに感じる。
『すぐに終わるからじっとしていてくれよ』
龍神様が手を抜くと、そこには粉々に割れた盃のようなものがあった。抜かれてすぐに俺の器は消滅する。
そして、龍神様は迷いなく身に纏っている布の端を破りとる。
え!?
龍神様の数々の行動に一々驚きを隠せない。龍神様へのイメージが若干変わりつつある。
驚くことに布の破れた端は綺麗に修復され、元に戻っている。
さすが龍神様の布! めっちゃ欲しい……。
龍神様が破りとった布を引き伸ばすと、不思議なことにハンカチほどの大きさをした綺麗な布に変わる。
それを徐に袋の形に握りこむと、龍神様は再び俺の腹の中に勢いよくそれを突っ込んだ。
『これでよし。伸縮性抜群の器だ。これで魔力をいくらでも増やせるぞ』
伸縮性抜群の布(器)……これって龍神様のイタズラとかじゃないよね? からかってるとかじゃないよね?
『そして、何よりも魔力を制御しやすくなるはずだ。前の器では魔力を引き出すのに手間があったが、布には決まった形はない。引き出しやすい形に変えてやればいいというわけだね』
「あ、ありがとうございます!」
あまり実感はないけど、魔力が動きたがっている……そんな気がする。
「魔力の意思みたいなものが前よりも感じやすくなった気がします」
『そうか。もうそこまで……』
龍神様は今何て言ったんだろう? 独り言みたいな感じで上手く聞き取れなかった。
『ユーリ、私が力を貸してやれるのはこれきりだ。これから先は自らの力で乗り越えるんだよ』
「はいっ!」
その瞬間、俺の意識が急激に引き寄せられるような感覚に襲われる。
『君が辿り着く道の先に私は待っている……』
薄れゆく意識の中で俺は龍神様の言葉の意味を考えたが、理解することは敵わなかった。
雪とかではなく、本当の『白』だ。絵を描き始める前の真っ白なキャンパスのように……。
しかし、果てしない白は孤独を感じさせる。
何もない、何も存在しない。今ここにいる俺さえも存在していないのではないかと思ってしまうほどに、この場所は白く、何もない。
「……アカネ」
思い出すように俺は呟いた。
なぜ忘れていたのか。
それは現実から逃げようとしていた弱い心が恐れているからだ。
体が震える。
大切な家族を守れなかったこと、これまで積み重ねてきた経験を否定されることを、俺は恐れているんだ。
この世界で巡り会えた大切な存在を守りたい、そう思うのは何もなかった俺からすると自然な感情で、それには守るための力が必要だと考えていた。
だからこそ強くなりたいと切実に、誰よりも1番思っていた。
でも、俺は黒龍王と戦って、それで…………
「――――死んだのか?」
実感なんてない。
あるわけがない。
認めたくない。
それを認めてしまったら、本当に何も守れなかったことになる。
「…………いやだ」
アカネのことも、己の誓いも、セレーナとの約束も。
「……いやだ」
何もかも守れない。
『そんなのは――――嫌だッ!』
俺は、俺の大切な存在を守りたい。
俺は、大切な存在を守れる力が欲しい。
俺は、誰にも負けないくらい強くありたい。
『君は欲張りだ』
どこからか声がする。
慈愛に満ちた男の声だ。今の俺とは大違いなゆとりのある落ち着いた声。
『でも、だからこそ君を選んだ』
突然、肩に手を置かれた。
俺は気配がなかった事実に驚きつつ、即座に置かれた方を向く。
そこには俺の倍近くもの背丈をした龍人がいた。
肌触りの良さそうな長い布を身に纏い、気品のある金の髪と整った顔立ちは、男である俺でさえ美しいと思ってしまう。
額の両端から少しカーブのかかった白い角、背中からはこれまで見てきたどんな翼よりも壮麗な翼、そしてしなやかに動く白い尾が生えている。
紛れも無い龍人……それも龍人化した龍人。
「あなたは」
『私はアミナスだ』
龍神様!?
俺は目を見開き、驚きを包み隠さず露わにしてしまう。
急に全身から変な汗が出てくる。
伝説の中の伝説でいらっしゃる龍神アミナス様が、俺の目の前にいると考えただけで気を失いかけそうだ。
それほどに龍神様は俺たち集落のものにとって偉大なる存在で、憧れや尊敬を持っていないものはいない。
そんな方に会えたということは俺はやっぱり死んでしまったのかもしれない。
俺は慌てて膝をつき、土下座の姿勢になる。
「し、失礼致しました!」
『そう身構えなくてよい』
その言葉を聞き上半身を起こす。龍神様を見上げる形だ。
龍神様は俺の疑問を見透かしたように話始めた。
『ユーリ、結論から言うと君は死んではいない。ここは一種の精神世界だ』
死んではいない、その言葉だけで嬉しさが込み上げてくるが、そこはぐっと堪えて話の続きをしっかりと聴くことにする。
『しかし、君は今とても危険な状態に瀕している。魔力の器が壊れてしまったんだ』
魔力の器とは魔力を生み出す源の部分であり、魂と肉体を繋げている重要な部分だという説がある。
その器が壊れたということは魂と肉体を繋ぎ止めるものがなくなるということ。つまり、死を意味する。
『君は何度か“魔力解放”を使ったことがあるね。魔力解放は器に多大な負荷をかける力だ。今回も、無意識に君は魔力解放を使おうとしたが、君の器はそれに耐えきれなくなってしまったようだ』
俺は危険だと知っていて魔力解放を使っていた。
こうなってしまったのは、見て見ぬ振りをしていた自分自身への報いなのかもしれない。
どこかで自分の限界をつくり、それを超えるために一時的な力に頼った自分への裁き。
『でも、結果的には良かった』
え? 今、なんて。
『君には新しい器が必要だった。規格外の強さを手に入れた君には前の器は小さ過ぎたからね。今は一時的に私の加護が器の代わりをしているが、君にピッタリな器を用意しよう』
俺は龍神様に立つように言われ、直立になる。
龍神様は俺の腹部に手を当てると、そのまま腹の中へ手を突っ込んだ。
お、俺のポンポンの中に龍神様の、て、手が!?
見た目はアレだが……実際には痛みがなく、少しくすぐったいくらいに感じる。
『すぐに終わるからじっとしていてくれよ』
龍神様が手を抜くと、そこには粉々に割れた盃のようなものがあった。抜かれてすぐに俺の器は消滅する。
そして、龍神様は迷いなく身に纏っている布の端を破りとる。
え!?
龍神様の数々の行動に一々驚きを隠せない。龍神様へのイメージが若干変わりつつある。
驚くことに布の破れた端は綺麗に修復され、元に戻っている。
さすが龍神様の布! めっちゃ欲しい……。
龍神様が破りとった布を引き伸ばすと、不思議なことにハンカチほどの大きさをした綺麗な布に変わる。
それを徐に袋の形に握りこむと、龍神様は再び俺の腹の中に勢いよくそれを突っ込んだ。
『これでよし。伸縮性抜群の器だ。これで魔力をいくらでも増やせるぞ』
伸縮性抜群の布(器)……これって龍神様のイタズラとかじゃないよね? からかってるとかじゃないよね?
『そして、何よりも魔力を制御しやすくなるはずだ。前の器では魔力を引き出すのに手間があったが、布には決まった形はない。引き出しやすい形に変えてやればいいというわけだね』
「あ、ありがとうございます!」
あまり実感はないけど、魔力が動きたがっている……そんな気がする。
「魔力の意思みたいなものが前よりも感じやすくなった気がします」
『そうか。もうそこまで……』
龍神様は今何て言ったんだろう? 独り言みたいな感じで上手く聞き取れなかった。
『ユーリ、私が力を貸してやれるのはこれきりだ。これから先は自らの力で乗り越えるんだよ』
「はいっ!」
その瞬間、俺の意識が急激に引き寄せられるような感覚に襲われる。
『君が辿り着く道の先に私は待っている……』
薄れゆく意識の中で俺は龍神様の言葉の意味を考えたが、理解することは敵わなかった。
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