魔法陣を描いたら転生~龍の森出身の規格外魔術師~

黒眼鏡 洸

7 弱肉強食

 トロルシープは止まらない。

 あ、なんかラノベのタイトルっぽい。

 それはどうでもいいとして、どこに向かって走ってるんだ?

 俺はトロルシープを見失わないように強化魔法使って追いかける。意外にトロルシープは速い。

 突然、トロルシープは止まる。

 ん? 次は止まるの?

 俺は正直、訳がわからないトロルシープの行動について考えることを辞めた。そして、変化は直ぐに起きる。

 トロルシープはその場でうずくまる。頭、足を隠すと、完全に綿毛の塊だった。

 柔らかそう……も、もふもふしたい。

 その巨大な綿毛の色が変わり始める。

 な! すごい。色が変わった。

 トロルシープはそのふわふわな毛の色を深い緑に、この森に溶け込むように変えていく。いわゆる擬態ってやつだ。

 でも、なんで擬態?

 擬態と言えば、攻撃とか自衛のためにやるものだよね? 他の気配なんて……あ、まさか。

 するとトロルシープの近くに、先日戦ったやつがいた。

「クイーンシャドースネーク……」

 他にもいたのか! てか、やっぱりクイーンシャドースネークの潜伏能力はずば抜けてる。

 やっとわかった。トロルシープはクイーンシャドースネークの殺気に気がつき、それで逃げた。しかし、体力の限界がきて、止むを得ず擬態したと。

 だけど、クイーンシャドースネークは感知能力がある。

 クイーンシャドースネークは体をくねらせながら森に擬態したトロルシープに近づく。そして次の瞬間、クイーンシャドースネークが噛み付く。

「ベヨォーー!」

 トロルシープが鳴く。

「弱肉強食か……」

 俺の呟きは誰に届くわけでもなく、森に溶け込んでいく。

 トロルシープは力を失い、クイーンシャドースネークに捕食されていた。俺は獲物を探し直すため、振り返ったその時。

「シャァーー!!」

 クイーンシャドースネークが悲鳴を上げるように鳴く。

 俺は直ぐさまクイーンシャドースネークの方を向くと、そこには捕食されて・・・いるクイーンシャドースネークがいた。

狼竜ウルフドラゴン

 ウルフドラゴン。通称「狼竜」。

 その特徴は短距離飛行に特化した翼による、高速飛行。その速さは竜種でもトップクラスだ。

 さらに、竜種の中では珍しく聴覚と嗅覚に優れている。

 上位種に「狼龍」が存在し、狼龍を中心にして群れを形成する。

 1匹ということは、群れからはぐれたやつなのかもしれない。もし群れだった場合、今の俺では太刀打ち出来ないだろう。

 狼竜、狼龍ともに最上級だと言われている。

 しかし、最上級の中にも上下は存在する。狼竜を最上級下位とするなら、狼龍は最上級上位となる。

 ちなみに狂暴竜バーサークドラゴンは最上級下位に位置付けられる。

 俺は木の上から狼竜を眺めていると、不意に目と目が合う。

 あ、やば。目が合っちゃった……。

 狼竜が唸る。

「グルゥルゥ……」

 い、威嚇されてるよぉー。

 俺は下手に動けない状況となり、打開策を考えていると……

 俺がいる木の枝の下から1匹の魔獣が現れる。

「つ、次は狐竜フォックスドラゴン……」

 狐竜も最上級下位の魔獣であり、その美しい毛並みに反して狩りになると、全身に炎を纏う種族魔法<上級>の『フレイムスタイル』を使い、獲物を灼きつける。

「どうなるの? この状況……」

 誰も答えてくれないとわかっていても、言わずにはいられない。

「クォーン!!」

 狐竜が鳴く。すると炎が狐竜の全身を包み込み、戦闘準備が整う。

 狼竜は食事を邪魔されて、相当お怒りのご様子。背中まで伸びているタテガミを逆立てている。

 もしかして、今が逃げるチャンスか?

 俺は無駄な被害を避けるため、逃げることにする。

 しかし。

「キュアァーー!」

 はぁ……次から次へと、なぜ最上級ばかり!

 今度は大怪鳥グランドバードですか……。

 グランドバード。通称「大怪鳥」は狂暴で、巨大な鳥だ。鳥種では珍しく最上級下位の魔獣で、竜種に引けを取らない実力をもつ。

 俺は空を飛び回る大怪鳥を見る。

 どうやら、俺たちには興味がないらしい。

 高みの見物ってやつですか? パイセン!

 上を見たついでに周囲を見渡してみる。

 俺はもう、諦めざるを得なかった。何故なら……





 この森には上級、いや最上級の魔獣たちが溢れかえるように存在していた――――





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