魔法陣を描いたら転生~龍の森出身の規格外魔術師~

黒眼鏡 洸

52 祝福の指輪

 




「セレーナ……」

 俺の目の前には、艶のある白縹しろはなだ色の髪が肩まで伸びていて、眼は透き通った青――碧眼へきがんをした俺より少し小さく、小柄な女の子が座っていた。

 整ったその顔は、母親譲りの可愛らしい顔だ。微笑みが眩しい……思わず見惚れてしまう。

「ユーリくん。わたし、できたよ。人化できたよっ!」

「うんっ! おめでとう。セレーナっ」

 俺はセレーナの頬に手を当て、今になって守りきれたことを心から噛み締める。少し泣きそうだ……でも、泣くのはかっこ悪いから我慢する。

「うふふ、ユーリくん。泣きそうでしょ?」

「ち、違うよっ! ちょっと目にゴミが入っただけで……「わたしが見てあげる」……え」

 ――時が止まった。

 セレーナの顔が目の前にあって、セレーナが目を閉じて……さらに近づいて、それで唇に……柔らかい感触が……。

 俺の思考はそこで停止した。

 一分一秒、どのくらい経ったのかわからないが……セレーナの顔が離れていき、目と目が合う。





『ユーリくん。わたしはあなたを愛しています』





 顔が熱くなる。滅茶苦茶熱いっ! きっと熟したゴリンの実みたいに赤いだろう。しかし、セレーナを見ると、ものすごく赤面していた。

 可愛い。

 俺の口が勝手に動く。

「俺と結婚して下さい」

「えっ……」

 え?

 言った自分自身が何を言っているのかわからなくなる。

 一瞬の沈黙のあと、セレーナが言葉を返す。満面の笑みで。

『はいっ』





「今、『はい』って言ったの?」

「そうだよっ」

「え、じゃぁ……てことは……よっしゃぁぁーー!!」

 俺は嬉しさのあまり、立ち上がり叫んでしまう。セレーナは俺を見て微笑む。なんだか、心がほっこりする。これは『幸せ』ってやつだ。

 あれ? あんな所に石なんてあったっけ?

 俺はセレーナの少し後ろの方に突き出ている石、というより岩に気がつく。

「セレーナ。後ろの岩って、もしかして……」

「え? 後ろの岩って……」

「「祝福の龍石っ!」」

 俺とセレーナの声が重なる。そして、顔と顔が向き合う。

「はははっ」

「ふふふっ」

「本当に叶えちゃったよ」

「だねぇ」

 二人で笑いあっていると、突如謎の声が聞こえてくる。

『うむうむ。良きかな良きかな。愛し合う二人に祝福を!』

 謎の声がそう言うと、俺とセレーナの目の前にそれぞれ、魔法陣が現れる。そして、そこから小さなリングが落ちてきた。

 俺はそれを落とさないようにキャッチし、見てみる。セレーナも立ち上がり、指輪をキャッチする。

「指輪?」

「うんっ、そうみたい。きっと龍石さんからのプレゼントだよ! 嵌めてみようよ、ユーリくん」

 怪しい魔力は感じないし、大丈夫かな? セレーナの目がキラキラしてる……疑ってしまった自分が恥ずかしい。

「そうだね」

 俺は左手の薬指に指輪を嵌める。セレーナも左手の薬指に嵌めている――この世界でも、左手の薬指に指輪を嵌めることは結婚をしていることを意味しているらしい――ようだ。ちなみに、魔書の指輪は右手の薬指につけている。

 指輪に埋め込まれた魔宝石――魔力が込められた宝石――がキラキラと光によって輝く。セレーナは指輪を見つめながら、うっとりとした表情をしている。俺は指輪の力に気がつく。

 この指輪……セレーナの魔力を教えて、というよりも感知してくれてる?

 もちろん、セレーナは目の前にいるのでわかるのは当然なのだが、それとは別にセレーナの存在を感じられるような気がする。

「ねぇねぇ、ユーリくんっ。この指輪、ユーリくんの魔力を感じるよ。何でだろう?」

「セレーナもそう感じる?」

「うん。でも、わたしは嬉しいよ。ユーリくんがずっとそばに居てくれてるみたいでっ、うふふ」

 やばい……可愛いすぎて、むしろ辛い。俺の嫁……になるんだよな。いや、正確には婚約者か。あっ、てことは、ご両親に挨拶をしないと……うぅ……何だか緊張してきた。

「どうしたの? ユーリくん」

「い、いや。何でもないよっ、全然。うん」

「あ、わかった。ママとパパに挨拶するとか考えて、緊張しちゃった?」

 な、何故バレた! 何だか、セレーナの勘が鋭くなってきているような……。

「大丈夫だよ。ママとパパはユーリくんなら任せられるって言ってたもん」

「そう? ……うん。俺、セレーナを幸せにするよ」

 俺は嘘偽りのない、純粋な想いを言葉にのせる。それが伝わったのか、セレーナは太陽のような笑みを浮かべ、俺に抱きつく。俺はセレーナを受け止め、抱き締め返す。この腕の中から離れていかないように……。

「ありがとう……わたしの王子様」





「……そろそろ、帰ろうか」

「うんっ」





 俺の左手とセレーナの右手が絡み合う。決してほどけぬように、固く固く……永遠に、ずっと。





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