魔法陣を描いたら転生~龍の森出身の規格外魔術師~

黒眼鏡 洸

49 ユーリくん……大好きだよ

「ユーリくぅーーんっ!」

 わたしは今、中央広場に向かいながらユーリくんを探している。先ほど、集合の鐘が聞こえたので、慌ててわたしは家を飛び出してきた。

 ママは中央広場へ買い物に出掛けに行ったはずだから、中央広場に着けば会えると思うんだけど……ユーリくんも、もう中央広場に着いているのかな?

 ユーリくん……。

 ダメだなぁ、わたし。ユーリくんがいないだけで、こんなにも不安になる。ユーリくんは、いつもわたしのそばに居てくれる。だからって、甘えてばかりいるとユーリくんに嫌われちゃうよね。

 頑張るのよ、セレーナ! そんなんじゃユーリくんのお嫁さんになんて、なれないんだから!

 わたしは心細い気持ちになるも、ユーリくんへの気持ちで塗り替える。止まっていたわたしは、再び飛び進む。

 少し先に、少年らしき人影を見つける。

 ユーリくん!

 わたしは急いで飛び、ユーリくんらしき人影に近づく。しかし……

 ユーリくんじゃない……あの人は

「お前、出来損ないじゃねーか」

「な、なに?」

 ボスだ。わたしの苦手な人。わたしのことを出来損ないって呼んで、馬鹿にする人。確かにわたしは、人化ができていない。だけどユーリくんは大丈夫だって、セレーナも成長すれば人化できるって言ってくれた。

 わたしはユーリくんを信じる。だから、何を言われたって平気。それにユーリくんは、そんなことを気にしないで、わたしと居てくれる。

「あぁーお前、あの人族の外れ者を探してるのか?」

「人族の外れ者って言わないで。ユーリくんはユーリくんだもん」

 いくらわたしを馬鹿にしたっていいけど、ユーリくんを馬鹿にするのは許せない。

「ふんっ……聞きたくないのか? あいつの居場所」

「え? ユーリくんがどこにいるか知ってるの?」

「あぁ、知ってるぞ。北の森の方に入って行くのを見た」

 北の森……もしかしたら、狩りに行ったのかもしれない。それなら、集合の鐘も聞こえないよね。わたしが呼びに行ってあげなきゃ。

「ありがとう……わたしはもう、行くから」

「あぁ、くれぐれも頑張ってくれよ。出来損ないさん」

 わたしは早く、この場から離れたいという気持ちもあって、ボスの横を急いで飛び抜いて行く。ボスはニヤニヤと笑っていた。すごく嫌な顔だ。

 わたしは顔を振り、忘れることにする。それよりも、ユーリくんだ。ユーリくんは強いから、何かあっても大丈夫だと思うけど……それでも心配なのは変わらない。





 ***





 うぅ……怖い。いつもはユーリくんと一緒に来てたから、大丈夫だったけど……。どこにいるの、ユーリくんっ。

「ユーリくぅーんっ!」

 バサバサっ!

「きゃっ」

 ……と、鳥さんかぁ。もう、驚かさないでよね! あれ……。

 わたしは止まり、周りを見渡す。

 わたし……どこから来たっけ?

 完全に迷ってしまった。ここは、北の森。魔獣も当然いる。

 ど、どうしよう!? ユーリくんを探しにきたのに、わたしが迷子になっちゃった。

 わたしは慌てふためいてしまうが、ひとまず落ち着くことにする。軽く深呼吸をして、どうすればいいか自分なりに思索する。

 ここから無闇に動くのは、集落から離れてしまうこともあるし、魔獣もいるので危険。しかし、動かないのも、結局は魔獣に襲われる可能性があるので危険……。

 むむむー! あっ!

 なら、目印をつけながら移動すればどうだろう? もし、間違えていたら戻ることも可能なはず。

 うん、それで行こう!

 わたしながら、いい案が思いついた。少し、機嫌が良くなってしまう。

 よし、進もう。

 わたしは通り過ぎた木に、石で傷をつけながら進んでいく。

 うーん、合ってるかなぁ……ユーリくんはどこに行っちゃったの? 早く会いたいよ……ユーリくん。





『ドッーン、ドッーン、バキッバキッ、ドゴォーン』





 な、何? 何が起きてるの? ……あ、あれは

 ――竜。





『グゥギャァオォォーーッ!!』





 あ、あ……に、逃げなきゃっ!!

 わたしは全力で翼を動かし、逃げる。いつもは難なく飛べているのに、恐怖からぎこちない動きになってしまう。

 怖い、怖い、怖い……ユーリくん。

 わたしは必死に進む。ただただ、逃げることだけを考える。しかし、前へ進むことばかりに意識が向いてしまい、注意力が減ってしまう。わたしの前に、木の枝が現れる。

 あっ、避けられない……

 わたしは木の枝に勢いよくぶつかってしまい、その場に落ちる。

 い、痛い……あ。竜は……

 わたしは逃げてきた方向に顔を向ける。合ってしまった。目が合ってしまった。そこにいたのは、嘘や妄想ではない。ただ、奪うだけの存在。今、この場では優しさなんて言葉は意味をもたない。

 いやっ、イヤっ――嫌っ!!

『グゥギャアオォォ!!』

 竜はわたしに向かって威嚇する。いや、威嚇ではないかもしれない。獲物を追い詰めたことを喜んだのかもしれない。そんなことはどうでもいい。

 逃げろという言葉が、わたしに呼びかけてくる。だが、それは不可能……恐怖で体が言うことを聞いてくれない。逃げなければ喰われてしまう。

 竜への恐怖と動けない焦燥がわたしを支配する。竜は一歩一歩、わたしに近づく。その目は、わたしを喰らうことしか考えていないということを感じさせる。

 あぁ……わたし、ここで食べられちゃうのかな……もう、みんなに会えなくなっちゃうのかな……いやだよ。いやだよぉ……。

 もうダメだと思ったとき、わたしの目に浮かんだのはユーリくんの顔だった。

 いつもわたしに見せてくれる優しい笑顔。セレーナと、わたしを呼ぶ声が聞こえた気がした。





 ――ユーリくん……大好きだよ。





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