魔法陣を描いたら転生~龍の森出身の規格外魔術師~

黒眼鏡 洸

46 森の異変

「光よ」

 俺の突き出した左手の先に、手のひら程度の魔法陣が現れる。ターゲットは20メートルほど先にいるグレーウルフだ。群れとはぐれたのか、一匹だけらしい。

 今っ!

 魔法陣から光の矢が飛び出す。その速さは俺が使える魔法の中で一番だと言えるだろう。一瞬にしてグレーウルフの首を貫く光の矢。

「キャンッ……」

 首を貫かれたグレーウルフは、バタリと倒れる。俺は辺りを警戒しながら、倒れたグレーウルフのもとへ近づく。血抜きを施し、素早くグレーウルフを捌いていく。そして、あらかじめ用意しておいた袋にしまい、担ぐ。

 よし、大丈夫かな。今日は大分、収獲できたし帰るとしますか。





『ギャァァァオォォー』





 大型の魔獣が鳴く声が、森の中に木霊す。

 なんだ!? あっちの方か。

「強化」

 俺は強化魔法を使い、声が聞こえた方へと森の中を駆けだす。魔獣並みの速度で俺は走る。視界に映る木々が後ろへと流れていくように見える。

 あれは……。

 俺は体を喰い千切られたロックボアを見つける。見るも無惨なほど、ロックボアの肢体がバラバラとなっていた。噛み千切られ方から、ロックボアよりも大型の魔獣らしいことがわかる。

 ロックボアの硬い皮膚をものともせず、噛み千切れる魔獣……。考えられるのは竜種か、それとも別の何かか。流石に、この喰べ方から龍種は考えにくいか。

 竜種と龍種の違いは、簡単に言えば知能の差だ。竜種は本能に忠実であるのに比べて、龍種は理性に従って行動する。そのため、力ではさほど変わらない場合でも、戦術的に戦う龍種の方が強い。

 しかし、だからと言って竜種が弱いわけではない。その強力な攻撃魔法――攻撃系統の魔法の総称――は龍種と遜色がないと言えるだろう。そのため、龍人も竜種と戦う場合、油断は許されない。

 ひとまず、集落に帰って母さんに報告しよう。

 森の異変か……何もなければいいんだけど。





 ***





「母さんっ!」

「どうしたんだ? ユーリ」

 俺は訓練場で訓練を監督していた、母さんのもとへ辿り着く。俺の摯実しじつな様子から、母さんは少し驚いているように感じる。俺は先のことを思い出しながら、話しだす。

「そうか……ありがとう、ユーリ。武龍団全体にも連絡しておこう。確かに最近、森の中で魔獣があまり見えないと思っていたが」

「うん。俺も森を気にしておくよ」

「何かあっても、一人だけで突っ込むなよ」

 母さんは心配そうな顔で言う。

「大丈夫だよ、母さん」

 俺は母さんを安心させるため、笑顔で応える。母さんはまだ、心配な気持ちをぬぐい切れていないようだが、渋々といった感じで頷く。

「ユーリ、私は団長のところに向かう。お前はラルージュさんやセレーナのそばにいてやってくれ」

「うん! 母さん、気をつけてね!」

「あぁ、ありがとう。また、後で会おう」

「うんっ、いってらっしゃい」

 俺は母さんと別れ、セレーナの家に向かって走り出す。集落の人たちは何も知らされていないため、いつも通り大人は仕事をし、子供は走り回って遊んでいる。

 俺の思い過ごしかな……。





『うわぁーーっ! た、たすけてぇーー!!』





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