魔法陣を描いたら転生~龍の森出身の規格外魔術師~

黒眼鏡 洸

45 サクサクしっとり

「お邪魔しまーす」

「あら、いらっしゃぁい」

「キュウ、キュウキューウ」 (ユーリくん、こっちこっちー)

 俺はセレーナに案内されて奥へと進む。ここ――セレーナの家――には何度か来たことがあるが、やっぱり広い。12歳になった俺でも天井がまだまだ、高く感じる。

「ゆっくりしていってねぇ」

 ラルージュさんはふんわりとした言葉で俺に声をかける。いつもニコニコとした笑顔のラルージュさん。俺はその裏にある顔を少しだけ知っている。

 正直、俺は母さんよりラルージュさんの方が恐いと思う。

「どうかしたかしら?」

「何でもないよっ! ラルージュさん」

「そう? あら、忘れてたわぁ。今、お菓子とハーブティーを持ってくるわねぇ」

 び、びっくりした……。ラルージュさんはたまに、勘が鋭いときがあるから気をつけないと。





 ***





 ラルージュさんが運んでくれたクッキーとハーブティーがテーブルに並ぶ。手作りのクッキーはどれも綺麗な焼き色がついていて、美味しそうだ。

「いただきますっ」

 俺の真ん前にセレーナが座り、セレーナの隣にラルージュさんが座っている。俺はラルージュさんに向けて、感謝を込めて言う。

「キューウ」 (召し上がれー)

 しかし、答えたのはセレーナだ。セレーナはニコッと笑い、俺がクッキーを食べるのを待っている。

 俺はセレーナが答えたことに少し、疑問に思いつつも手作りクッキーを口に頬張る。

 サクッ

 口の中に広がる甘い香り。サクサクのクッキーだというのに、しっとりとしていて飽きがこない味だ。ディップできるように置いてある木の実のジャムに、もう一枚取ったクッキーをつけて食べる。

 ……!? 美味しいっ! この程よい甘酸っぱさがたまらない!

「うんっ! すっごく美味しい!」

「キュウ、キューウ」 (うふふ、よかったぁー)

「そのクッキーとジャムはね、セレーナが作ったのよぉ」

 な、何だって! すごく美味しいけど……どうやって作ったんだ!?

 俺はあまりの驚きに、思わずセレーナを見る。

「キュウ、キュキューウ」 (いぃーぱい、食べてね!)

「ありがとう、セレーナ」

 俺は深く考えることをやめて、目の前にあるクッキーとハーブティーを楽しむことにする。





 ***





 俺たちはティータイムを終え、談話を楽しんでいる。セレーナの小さい頃の話――ほぼ、知っていた話だが――だったり、母さんの昔話だったりを聞いたりして過ごしていた。

「ユーリくんは『結龍の儀』って知ってるかしらぁ?」

「結龍の儀?」

 昔、本で読んだ気がするような、ないような……。

「『結龍の儀』というのはね、愛する二人の龍人がつがいとなるための儀式なのよぉ」

 番ってことは、結婚?

「それでねぇ、この龍の森のどこかにある『祝福の龍石』の前で『結龍の儀』をした二人は永遠の愛で結ばれると云われているの。ロマンチックだわぁ」

「キューウ」 (ロマンチックぅー)

 そ、そうなんだね。ロマンチックなんだね。でも、なんでそんな話を?

「楽しみにしてるわぁ。ユーリくんとセレーナが『結龍の儀』を成し遂げてくれるのをねっ」

「キュ、キューウ! キューウ!」 (ま、ママーっ! 言っちゃダメっ!)

 セレーナは慌てて、ラルージュさんの口を塞ごうとする。ラルージュさんというと、セレーナの慌てっぷりを見て楽しんでいるようだ。

「セレーナ、どうかしたの?」

「キュ、キュウキュウ」 (な、何でもないよ!)

 セレーナのあまりの反応っぷりに、俺は思わず後ろに身じろいでしまう。あまり、触れない方がいいと悟った俺は話をそらすことにする。

「そ、そう言えば、ラルージュさんはどうだったの?」

 俺は言った後に気がつく。ラルージュさんに自分の話をさせると、とてもとーっても長いということを……。

「そうねぇ……あれはまだ、わたしが氷の女王と呼ばれていた頃かしら……」





 ラルージュさんの昔話はハーブティーがなくなってしまっても、まだまだ終わらないのであった……。





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