魔法陣を描いたら転生~龍の森出身の規格外魔術師~

黒眼鏡 洸

36 お母さんスゴイ!

「いつでもいいぞ、ユーリ」

「うん」

 俺は頷き、お母さんを見る。そして一拍間をおいて、俺はお母さんに向かって駆けだす。ギアは3段まで上げているので、その速さは並の大人より速いだろう。

 お母さんの間合いに入った俺は、ミドルキックを繰り出す。腹部を狙った蹴りは、腕で軽くいなされる。俺はそのまま1、2と連続で蹴りを続けるが、お母さんにヒットすることはない。

 攻撃の手を緩めることなく、俺は拳を打ち付けたり、下段蹴りを放ったりする。しかし、お母さんは俺の攻撃を一つ一つ的確に防ぎ、かわす。

「せいっ! はっ! やぁっ!」

 むぅー。防がれる……。これはどうだっ! なら、これはっ! くぅー、もう一丁!

 俺は一度、後ろへ飛び間合いをとる。

「ふふ、蹴りも拳撃も速くなったな」

「ありがとう、お母さん。でも、まだまだだよ。お母さんに全部防がれてるし」

「まぁな。まだまだ、負けるわけにはいかないからな」

「(すぅーはぁー)……よし!」

 深呼吸をして息を整えると、俺は気合いを入れ直す。

 俺が上回れるとしたら、この子供の体による機動力だけだ。より速く動き、相手を惑わす。そして隙を作り、そこをつく。そうだ、やることは決まっている。

「こい!」

 お母さんの声が響き、それとともに俺は力を込めて飛び出した。





 ***





 稽古は一時中断し、今は休憩中だ。

「(ゴクゴクゴク)……ぷっはー! 水がおいしい」

「ふふ、慌てずゆっくり飲むんだぞ」

「はーい」

 稽古のあとに水を飲むと生きかえる―ってなる。もちろん、死んでないけどね。

「それにしても、稽古をよく頑張ってるぞ! ユーリ」

「うん! 早くお母さんみたいに強くなりたいから」

「そうか……よし、ユーリ。一つ、お前に伝授したい魔法がある」

「魔法?」

 なんだろう……。お母さんが魔法を教えてくれるなんて珍しい。

「そうだ。私は黒龍の龍人で、最適性魔法は雷と風。そして、私が伝授してやれるのは雷魔法のオリジナル魔法だ」

 龍人は種族の特性として多くの魔法に適性をもつが、その中でも龍の違いによって最適性が変わる。火龍なら火魔法、青龍なら水、氷魔法が最適性だ。

 雷魔法のオリジナル魔法……。な、なんだろ!? ワクワクが止まらないぜっ!

「ひとまず、実際に見る方がわかりやすいだろう」

 お母さんはそう言うと、俺から少し離れた所まで歩いて行く。そして自然体の状態でお母さんは詠唱を始める。

「求めるは雷。雷よ、我が身を包む衣となれ」 『サンダーフォルム』

 詠唱が終わると、お母さんの頭上に魔法陣が現れる。大人3人ほどが通れる大きさの円をした魔法陣は、地面に向かってお母さんを通過した。

 魔法陣は地面に到達すると消え去り、その瞬間、お母さんの全身からバチバチと雷が発生する。

「よく見てるんだぞ」

 お母さんは一言そう言うと、動き出す。足を一歩踏み出したと思ったそのときにはもう、10メートル先・・・・・・・にお母さんはいた。

 え……はやっ!? 全然、見えなかった。雷魔法すごい!!

「どうだ? ユーリ」

「お母さん、すごいっ!!」

「ふふん、そうだろう! お母さんはすごいだろう!」

 お母さんは俺のキラキラとした眼差しを向けられて、ご機嫌のようだ。母親なのに、ちょっと可愛いとか思ってしまった。でも、お母さんは人族で言えば、成人したばかりくらいの年齢にあたるので、まだまだ若い。

「俺もやりたいっ!」

「あぁ、ちゃんと教えてやるから、そう慌てるな」

 ふふふ。俺、ワクワクしてきたぞ!





「魔法陣を描いたら転生~龍の森出身の規格外魔術師~」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く