魔法陣を描いたら転生~龍の森出身の規格外魔術師~

黒眼鏡 洸

34 あまあま

 風が吹き、花々がなびく。草木はさわさわと音を鳴らすが、それがまた、心地よい。

 風が花びらを散らす。いたずら好きな風は、セレーナに花びらを吹き付ける。

「キュウっ」 (わぁっ)

「ふふっ、花びらが顔についてるよ」

 俺はニコニコと笑いながら、セレーナについている花びらを取ってあげる。セレーナは少し恥ずかしそうにしているが、嫌なわけではないらしく、むしろ嬉しそうに見えなくもない。

「キュウキュウ」 (ユーリくん、ありがとう)

「うんっ」

「キューウ」 (ふあぁー)

 セレーナはあくびをしながら寝転がる。コロンッという音をつけておこう。

 花に囲まれて横になるセレーナは実に気持ち良さそうだ。

 俺も寝よー。

「んーっ……」

 俺は腕を上げ、背中を伸ばす。そして、そのまま倒れる。花が俺を包み込み、優しい香りが俺の鼻をくすぐる。あまりの寝心地に、思わず寝てしまいそうになった。

「「良い日だー(キュウー)」」





 ***





「キュウっ、キュウ」 (起きてっ、ユーリくん)

 ……ん、うーん。

「ふぁー……セレーナちゃん?」

「キュウ、キューウ」 (ふふっ、そうだよ)

 そっか、寝ちゃってたのか。でも、何だか良い夢を見ていた気がする。なんだっけなぁ……人化したセレーナちゃんに会っていたような……。まぁ、いいか。

「おはよ、セレーナ」

 俺はセレーナの頭を極々自然に撫でる。撫でられているセレーナは目を細め、ニコニコしている。

「キュウキュウ」 (おはよう、ユーリくん)

 ふふっ、こんな一日もいいね。

 俺は立ち上がり、辺りを見渡す。どうやら、太陽――この世界にも同じようなものがあるらしい――の感じからして、今はお昼過ぎのようだ。

「おなか空いたね」

「キューウ」 (空いたねー)

「よし、ちょっとまってて」

 そう言うと俺は、素早く方向転換をして森へ一直線に駆け出す。地面がピンク、黄色などから茶色に変わる。

 俺は森の中に入ると木々をよく見ながら歩き出す。目的のものは木の実だ。これまでの経験をフル活用して俺は探す。

 あったっ! こっちもだ……うん、これくらいでいいだろう。

 俺は魔力の具現化で木の実を包み込むと、来た道を大急ぎで戻る。かなり収穫できたはずだ。

「……おまたせっ!」

「キュウキューウ」 (ううん、まってないよー)

 俺は魔力を伸ばし、地面に広げる。色とりどりの木の実が並んでいて、美味しそうだ。

「木の実をとってきたから、いっしょに食べよう」

「キュウ!」 (うんっ!)

 俺はゴリンの実を手に取り、そのままかぶりつく。

 シャリッ。

 瑞々みずみずしいゴリンから溢れ出る汁は喉をうるおし、ほどよい酸味とほのかな甘みが口の中いっぱいに広がる。

「うまいっ!」

「キューウ」 (おいしぃー)

 セレーナはチイゴの実を食べているようで、その顔は幸せそうに見える。

 セレーナは甘いものが好きだからね!

「キュウ、キュウキューウ」 (ユーリくん。はい、あーん)

「え、あ……あーん(パクッ)」

「キュウ?」 (おいしい?)

 セレーナは首を傾け、俺に聞く。

「うんっ! とってもおいしいっ!」

 セレーナのあーんがプラスされて、より美味しいね。すっごく甘いなぁー。何がとは言わないけど……。

「キュウキューウ」 (よかったぁー、ふふふっ)

「はい、あーん」

 俺もセレーナにチイゴの実をあげる。

「キューウ(パクッ)」

「おいしい?」

「キュウキュウ」 (おいしいよぉー。うふふ)

 かわいいぃー。

 俺はセレーナの愛らしさに思わず癒される。とりあえず、頭を撫でよう。何故、とりあえずになるのかは気にしない。

 優しく、ゆっくり頭から首にかけて撫でる。それを何度も繰り返す。それだけで俺は癒されてしまう。

「かわいい」

「キュっ!? ……(ポッ)」 (えっ!? ……(ポッ))

 あ、またやっちゃった。セレーナは可愛いとか言うと、赤くなって固まっちゃうんだよね。まぁ、可愛いのは本当だから仕方ない。





 俺たちは木の実を食べ終えると、また風に吹かれてのんびりするのであった。





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