魔法陣を描いたら転生~龍の森出身の規格外魔術師~

黒眼鏡 洸

サイドストーリー2 お昼休憩

 




「せいっ! はっ! やっ!」

 私は右からくる拳を左腕で、左からくる拳を右腕でいなす。さらに、上段蹴りがくるが半身をずらして避ける。

 動きが悪くなってきたか……そろそろ休憩を入れるとしよう。

 私は追撃を加えようとしている相手の間合いに素早く入り込むと、腕を掴み、くるりと体の向きをかえて相手を背負い投げる。

「はっ!」

「きゃー! (ドンッ)……いてて。くぅー、副団長は強過ぎますよぉー」

「フリージア、お前が未熟なだけだ。それより、休憩にするぞ」

「はぁーい」

 フリージアは少し不満そうに顔をしかめていたが、やはり疲れていたのか肩が上下している。私はお昼を食べるため、弁当を取りに行く。





 ***





「いただきまーす!」

「いただきます」

 隣に並んで座っているフリージアは、待ってましたと言わんばかりに声が明るくなっている。私が分けてやった弁当の具を口に頬張ると、目がキラキラしだす。

 こいつは本当に子供だな……はぁ……。

「んー! 美味しいー! やっぱり副団長の作る料理は最高ですね!」

「世辞を言っても訓練は甘くしないぞ。でも、まぁありがとうと言っておこう」

 こいつはすぐ調子に乗るからな。厳しいくらいが丁度いいんだ。

「もぉー、そんなこと言ってー。副団長はもっと素直になった方がいいんですよ! そんなんだから、集落の男どもが恐がって近づかな……「うるさい。そうか、弁当はいらないんだな」……いやー、副団長は本当にお美しい!」

 はぁ……調子がいいやつめ。これは、この後の訓練をもっと厳しくしなければならないな。

「ふ、副団長? 今、訓練を厳しくするとか何とか言いましたか?」

「ん? 口に出ていたか。まぁ、お前次第だがな」

「うっ……あ、そういえば、我が弟ユーリくんは最近どうしてますか?」

「いきなりだな。まて、ユーリはお前の弟ではない。させない。絶対にな」

 ユーリは私の息子だ。これだけは譲れない。そして、こいつの弟なんかには絶対にさせるものか!

「ぶぅーぶぅー! 別にいいじゃないですか! 減るものでもあるまいし。で、どうしてるんですか!」

 最近は……武術も上達して私の戦い方を真似したり、アレンジして自分流の武術を模索しているな。息子ながら感心している。魔術は……私には教えられることがない。そもそも、私は魔術師というよりは武術師に近いからな。

「いや、まぁ副団長に聞いたら、そういう話が返ってくると思ってましたけど……他にないんですか? 例えばほら、好きな子の話とか!」

「ユーリのす、好きな相手!?」

「そうです、そうです!」

 い、いるのか? ユーリにそんな相手……。聞いたことがない。いや、私に言わないだけでいるのか?

「し、知らんっ!」

「えー、知らないんですか。ちゃんとユーリくんとコミュニケーションとってます?」

「ぐっ……」

 こいつ、痛いところを突いてくるな。確かに、そう言った話はあまりしてこなかったか……。ど、どうなんだユーリ!?

「ママ大好きー! って言ってくれる時期はあっという間なんですよ! ユーリくんが思春期になったら、口も聞いてくれなくなっちゃいますよー」

「ぐはっ……」

 そ、それは嫌だ。ユーリが私と目を合わさず、喋ってもくれない? ダメだ! 考えるだけでも恐ろしい……。いや、私は信じるぞ! ユーリは私の子なんだ。例え万が一、億が一にそうなったとしても私はユーリを想う気持ちは変わらない。

「ユーリ、お帰りなさい! ……(クルッ)うっせぇ! ババア……(クルッ)私はそんな子に育てた覚えはないわよ! ……(クルッ)うざいんだよ! ……「ヤメロォッッ!!」(ゴンッ!)……い、いだい」

 フリージアの一人芝居に耐えきれず、頭に拳骨を落としてやる。

「グスっ、グスっ……そんな怒らなくてもいいじゃないですかー」

「ふっん! ユーリはそんな風にはならない! させない!」

 こいつは本当に……何回、私を怒らせれば気が済まんだ? はっはっはっ、そうか、わかったぞ。

「フリージア、お前はそんなに私にシゴかれたいらしいな……(ゴキッ、バキッ)……たーっぷり、相手をしてやるから楽しみにしてろよー」

「ひ、ひぃー! ヤダっ! ワタシ、シニタクナイデス!」

 面白いことを言うな。

「別に、殺すとは一言も言ってないぞ」

「……(サァー)」

 フリージアの顔が真っ青になる。よく見れば、青を超えて白になっている気がしなくもない。それは別にどうでもいいことだ。

「さてと、早く食べて訓練を再開するぞ」

「……はい」

 フリージアは先ほどまでの食欲はどうしたのか、食が進んでいないようだ。

 私はどんなシゴキくんれんをするか考えながら、弁当を食べるのであった。





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