魔法陣を描いたら転生~龍の森出身の規格外魔術師~

黒眼鏡 洸

10 お母さん

 祝いの食事は終わり、今はみんなくつろぎながら、この一年での思い出話に花を咲かせているようだ。

「あのときは、本当に驚いたんですよぉ! でも、じじ様と来たら全く信じなくて!」

「ふふふっ。そうだったのねぇー、それは大変だわぁー」

「まだ、1才も満たぬ赤子が魔力の具現化など、信じられん話じゃ」

 アーテルさんは若干酔っている(?)のか、口調が幼くなっている気がする。ラルージュさんは常にゆったり、ニコニコっといった感じだ。

 あー、初めて魔力の具現化をしたときの話か。

「でも、私は嬉しいです。ユーリがここまで大きく、元気に育ってくれました」

「そうねぇ。本当に大きくなったわぁ」

「うむ。そうじゃな」

 アーテルさん……。

「子守さえしたことのない私が、ここまで育ててこれたのは集落のみんなのおかげです。――ありがとうございます。そしてユーリ、ここまで大きく育ってくれて――ありがとう」

 ありがとう、アーテルさん。……俺からも伝えたい言葉があるんだ。この日のために、密かに練習してきた言葉が。

「あーう、あーう」

「どうしたんだ? ユーリ」





「あーさん、あーさん。あんと。――しゅき!」 (おかーさん、おかーさん。ありがとう。――好きだよ)





「……」

 あれ? 伝わらなかったかな……。赤ん坊じゃ、ここまでが限界だったからなぁ。

「……ゆ、ユーリが、ユーリが私を呼んだ? 夢か? これは夢なのか?」

「あーさん!」

「ゆ、ユーリぃー!! ユーリが私をお母さんって呼んだ! ありがとうって言った。そ、それに、好きって、大好きって言ったぞぉー!!」

 お、お母さん、盛ってるよ。そこまで言ってないよ。でも……





 俺を拾ってくれて、育ててくれて――ありがとう。お母さん。





 ***





 あの後、お母さんが「ユーリ、もう一度呼んでくれ……お願いっ!」と目を輝かせ言うので「あ、あーさん……」「ゆ、ユーリが呼んでくれたぁー」の繰り返しで、長とラルージュさんが止めてくれるまで続いた。

 おかげで、だいぶ発音が良くなった。

 でも、あご痛い……。

「ユーリ、おはよう」

「あーさん、あーよ」

「ふふっ。今日もいい天気だっ!」

 お母さんは窓の外を見上げて、目を眩しそうに細めている。

 お母さんはご機嫌のご様子です。何かあったかな?

 まぁ、いいかー。

 よし、1才になったことだし、魔力の特訓をより一層、頑張るとしますか! あ、そうだ、歩くのもそろそろ練習しなくちゃ。集落も見て回りたいからなぁ。





 そんなこんなで、俺の1才がスタートするのであった。





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