初心者がVRMMOをやります(仮)

神無乃愛

兄弟の心温まる会話と、報告


 勢い余った状態でログイン乱入してきた兄を、パパンは冷ややかな瞳で見下ろしていた。
「……兄さん」
「なっ、何だ」
「いくらログインしたからと言っても、うちのギルドカエルムではメンバー募集してないんですよ」
「何だとぉぉぉ!? 女帝やお前はメンバーなのに私が入れないとはおかしいだろ!!」
 ちなみに、場所は「初心者の町」の酒場である。「安楽椅子」で話をしないという時点で、察して欲しいとパパンは思ってしまう。
「……女帝の場合はまっとうな理由があります。カナリアちゃんに礼儀作法を教えるとともに、このゲーム内で日本文化を広めるという」
「日本文化なら私だって!」
「じゃあ、私が『神社仏閣を愛する会』に紹介しますよ。日本のみならず東南アジア文化も入ってますが」
「一緒じゃダメなのか!? 私は……」
「……あのねぇ。いくら私でも『養女にしたいから近づくためにギルドに入る』というのはお断りです!」
「そ……そんなっ」
「そもそも、カナリアちゃんを養女にするという発想はどこから?」
 がくりとこうべを垂れる兄に、パパンは追い打ちをかけていく。
「……唯一、女帝の味を引き継ぐ者だからというのが一つ」
 おそらく節目の料理をクィーンに習っているのがカナリアだけという状況を言っているのだろう。そんなことを思うなら、嫁に頼んで手伝いをさせればいいだけである。
「女帝に礼儀作法から様々な稽古を受けていることが一つ」
 それだって、同じ流派の厳しい師範のところに自分の子供や孫を通わせればいいだけだ。
「それに、私だって娘が欲しい!」
「……それが本音ですか。阿呆ですか?」
 パパンは思わずこめかみを押さえた。


 そんな頭の痛くなる報告なぞ聞きたくなかったと思うのは、ギルマス・サブマスであるディッチとディスカスだ。
「……カナリアが年上キラーなのも問題だと思うぞ」
 ぼそりとディスカスが呟く。
「まぁねぇ。その上、カナリア君は素直だし」
「庇護欲をそそるというのもあるからな。それにあれくらい権力・財力があればあっさり相手のことを調べられる。そうすりゃ、人となりも分かるわけだし写真も手に入る。
 うちの身内からも連絡来たぞ」
「……カナリア君の件で?」
「あとは俺が禰宜田家とどれくらい関わってるかってのを聞きたかったみたいだ」
 さすが政治家。そんなことをディッチは思った。

「それは置いといて、だ」
 パパンがため息をついて話を戻し始めた。
「一応兄にはメンバー募集をしていないこと、『神社仏閣を愛する会』を紹介する旨は話したのだがね」
「今まで現実リアルでしていただいたこともありますから、無下には出来ないんですがねぇ」
「それとこれとは別だろ、ディッチ」
「そうなんだよねぇ」
 ゲームでまで中間管理職のような役目になりたくなかったと、心底二人そろって思ってしまう。
「下手に他のギルドに加入されるよりも、協力体制のあるギルドに行っていただいた方がいいとは思うんですよねぇ」
 これで「深窓の宴」に行かれたらたまったものではない。
「深く考えなくていいんじゃない? カナリアちゃんはしばらくログインできないんでしょ? その間、慣れることも考慮して『神社仏閣を愛する会』にいてもらう。カナリアちゃんが再復帰後に、話し合いをして大丈夫なら移籍にすればいいだけだし」
 唐突にスカーレットが口をはさんだ。

 そして、その方向で行くことで一応決着をみた。

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