初心者がVRMMOをやります(仮)

神無乃愛

ゲーム的学習塾


 クリスが現実での切羽詰まった仕事を終えたあと、「TabTapS!」につないだときには、それ、、はあった。
 小さな小屋、とでもいうべきものだろう。喫茶店の脇に作ってあったため、倉庫なのかと思い込んでいたのだ。

 そのログインから一週間後、その小屋は人の出入りが激しくなっていた。
<なんだ、いったい……>
 外見から職業や年齢・性別が分からないのがこういう時はネックである。
「つまり、この公式のaにこの数字が入るわけだ……だと、数式としてはこうなって……」
 ディッチやジャッジたちが何かをしていた。
「はい。今日の数学の時間はここまで。三十分の休憩のあと、英語だからな~」
 ディッチはゲーム内での見た目細身だが、現実ではかなりがっちりした厳つい男だということを最近知ったばかりである。
「何をしている?」
「お、ちょうどいい。次の授業の時は全員翻訳機能切れよ! ありがたい臨時講師がいらっしゃた」
 顔をしかめたクリスに、ジャッジがにやりと笑っている。
<ゲーム内学習塾。ディッチさんの十八番だ>
<学習塾?>
<そ。日本ではいまだにゲームが勉学の邪魔をしているとうるさく言う親や、お偉方がいらっしゃるんだ。そういう連中を黙らせるための手段。ゲーム内でのほうが勉強も出来るぞ、というのが俺の言い分なわけで>
 ディッチが楽しそうに説明してきた。多少は実証されているというが、信じがたい。
<目の前のジャッジも第一期生だ。ついでに言うと、ジャッジと同年代の「カエルム」メンバー全員一期生>
<My dear sonにそんな授業は必要ない……>
<現代文と古典が毎回赤点。二科目が理由で留年の危機もあった>
 さらりと言われたジャッジの言葉にクリスは驚いた。「天才」という名前を幼少の頃より欲しいままにしてきたジャッジが、まさかの落第寸前。
<そういうこと。で、ジャスティスは英語が危なかったねぇ>
 しみじみとディッチが言う。

 この学習塾、授業料は一コマだけなら一回千Pペンシル、一週間契約なら一万P、ひと月なら三万Pという値段設定だという。
 この授業中どのコマに出てもいいため、苦手科目だけを習得することができる。試験や受験対策の授業も随時行っており、そちらは特別料金で一コマ千Pということだった。

 余談ではあるが、授業で分からなかったことを聞けるように、無課金方式の質問テキストと、課金方式の質問テキストが「TabTapS!」の公式サイトにあるという。
 それに書き込めばきちんとゲーム内で質問が出来るという素晴らしいシステムである。
 ……なんというかマメな男である。
<ひな型は十年以上昔に作られてるからな。こっち用にプログラムをいじれば問題ない>
<My dear son、お前が手を出した時点で「問題ない」ということはない>
<あ、その辺は問題なし。タカさんとユウに頼んだ。あとは神崎さん>
<どれくらいの人間をこの計画に巻き込んだ?>
<巻き込むも何も、発端管轄ともに「カエルム」。巻き込んだのは神崎さんくらいだな>
<Mr,神崎を巻き込んだ時点で会社内の半分を巻き込んでいるんだぞ!>
<それはそっちの事情。俺らは知らん>
「まぁまぁ。親子喧嘩はそれくらいに。俺としてもこういう実証実験はありがたいので」
 小人姿の神崎が、いきなり割って入ってきた。

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