初心者がVRMMOをやります(仮)

神無乃愛

少しばかり恐怖な風景


 幾度となく酒とつまみを運ぶうち、イッセンの同僚も酒が回ってきたようである。
 ゲーム内において、酒は二十歳以上と定められている。理由は擬似的にだが、酔いがまわった状態になるのだ。
 といっても千鳥足になるとか、酒を飲んだ直後、もしくは酒呑みながらフィールドで狩りをすれば命中率が下がるとか、そんなものである。

 ……が。

 周囲がどん引きするほどのくだの巻きっぷりである。
「今更自分の時間取れって言われても無理だぁぁぁ」
「俺なんて入社当時付き合ってた彼女に『私と仕事どっちが大事なの!?』とか言われて振られた~~」
「仕事以外で出かけたことなんかないよ! 家では寝るだけしかしてなかったのにっ」
「嫁が体調悪いの気付かなくて、気付いたら病院で動かなくなってた。……そんな俺に『子供は任せられん』って嫁の両親が子供連れてってから会ってない」
 ……間違いなく、どこぞの居酒屋でくだをまく親父だ。そう評したのはジャスティスである。
「あれだけ同業者どころか色んなところからまで『過酷』と言われたあの、、会社にいたあんたらなら、何でも出来るだろ。あそこを早々に辞めたやつなら、俺は知ってるぞ」
 さらりとジャスティスが言う。
「……だれ、ですか」
「ユキという俺らの知り合い。あいつは早々に見切りをつけて辞めたぞ」
 カナリアの疑問にジャスティスがあっさり答える。それを聞いた面子がきっとジャスティスを睨んだ。
「辞めたくても辞めれなかったんだよ~~。収入なくなるし、個人都合の離職は手当て出るまで時間かかるし、それまでバイトするのも大変だしっ。何の保証もなくなるしっ」
「……ご愁傷さん。まぁ、飲め」
「うぅぅぅ。ゲームに来て優しさに触れるなんて思っても見なかった」
「セバス。この席のやつは全部俺につけといてくれ。あと、この間の酒よろしく」
「……よろしいので?」
「またそのうち材料手に入れるから、頼んだ」
「かしこまりました」
 そんなことを言いながら、セバスは酒樽ごと席へ運ぶ。
「元々ジャスティス様取り置きの酒ですので、お好きなだけどうぞ」
「だからって樽ごともってくるやつがあるか!!」
「食事を運ぶだけで大変そうでしたので」
 しれっとセバスチャンが返していた。

 そして、時間が経つごとにジャッジ、ディスカス、ディッチとメンバーが増えていく。それにあわせて酒樽も増えていく。

 上の個室使わせればよかったかな? とカナリアは思ったが、後の祭りだった。

 最終的には「カエルム」の男性メンバー全員がその酒盛りに混ざり、クィーンを除く女性陣がスタッフとして働く羽目になっていた。


 それを理由にして、喫茶店を「貸切」へとシフトチェンジし、喫茶店の前で出店のように店を開いたのだが、これがかなり好評だった。

 特に、宿屋からは感謝されていた。

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