初心者がVRMMOをやります(仮)

神無乃愛

現実世界にて<禰宜田家の役員会議>


 シュウ周一郎が舞踏会でカナリア美玖に近づいたという事実が、禰宜田家直系の一部を怒らせた翌週、急遽禰宜田薬品にて取締役会が開かれた。

 いくら美玖が可愛いからといってもやりすぎでは? と義孝に言われた孝道は思わず、昌代に視線を移した。
 自分は招集していないぞ、という意味合いも込めて。
 禰宜田の女帝の隣には、めったに姿を見せない長老の姿まで。

 しかも案件は古瀬家のこと、となれば美玖に絡んだ周一郎とか家全体のことと思ってしまうのも仕方ない。

 現在古瀬家を支援してやっている事業を、禰宜田家でやること、そして二度と支援をしないという話である。メインバンクである地銀も切る言い出した。
 地銀も古瀬と繋がりがあるため、融資を受けるだろうという憶測からだ。
「さすがに限界。従業員への態度が酷すぎる」
 長老の言葉を待たずして、書類を見た孝道は言葉を失った。

 どこの封建社会だと言わんばかりの体制。古瀬家所縁の無能者が役職付きになり、睨まれれば左遷ですめばいい方だと。
 ある程度の縁故というものは仕方ない。だが、やりすぎていたのだ。
禰宜田うちも縁故はあるけど、ここまで酷くないでしょ」
 長老がほのぼのと言うが、そこにいた役員たちは心の中で盛大にはもった。「禰宜田家の家訓通りに動いている奴がぬかすんじゃねぇ」と。

 禰宜田家家訓は酷い。「他人に厳しく、それ以上に自分に厳しく。他人の犯した過ちから良きところを見つけ、伸ばすこと。自分の手柄は他人の手柄。他人の手柄は他人の手柄」と、とりあえず己に厳しすぎる内容であり、これを禰宜田家という枠組みにできる者が「長老」やら「女帝」という尊称が付く。
 しかも当代の「長老」は、伝説に残るくらいだ。……もちろん「女帝」たる昌代もだが。

 こんな家訓を忠実に実行している家、それが禰宜田家だ。

「代を追うごとに手に負えなくなっているようですね。引き時でしょう」
 さらりと言ってのけたのは、次代を担う者たちだった。
「さすがにな~~。ないわ~~。『男産めない嫁は要らない』って今時言わないよ」
「それがまかり通ってるし。しかも何? それでも娘は引き取ってるし」
「馬鹿な事して金で解決ってないわ」
「こっちの役員最悪。恐喝って、その奥さんは痴漢冤罪で金せしめてるし」
 ……分かったから、黙っててくれないかな。
 わざとらしく声高らかに読み上げる若手役員たちを、「凡才の巣窟」とされる孝道世代の役員たちは頭を抱えて見ていた。


 あっという間に古瀬家絡みの案件は全て手を引くということは役員会で了承され、現在古瀬との折衝を行っている役員は半年以内に戻ってくることになった。

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