初心者がVRMMOをやります(仮)
相違というもの
今日の採点、と言われてカナリアは大人しくエスコートされ、バルコニーに向かう。
別の相手に代わるというサインをまだ出しておらず、カナリアのパートナーはクリスのままである。
「かなり上達しているね」
「ありがとうございます。おばばさんが色々教えてくれるおかげです」
クリスからレッスンを受けたのは初期の頃に一度だけである。カナリア自身、贅沢な環境だと思っている。
「その辺の令嬢よりも上手いよ。これからも精進するといい」
社交界にも顔が利く(らしい・ジャッジ談)というクリスの褒め言葉はかなり嬉しい。
……嬉しいのだが。
いい子いい子と頭を撫でられながら言われると、小さい子供と比べられているようで釈然としない。
「伸びしろがまだまだある。これからも楽しみだ」
ほら。小さい子供扱いだ。
「……どうやら無法者が来たようだ」
冷たい笑いを浮かべたクリスがホールの方を見て呟く。
「……あ」
そこにいたのはシュウだった。
「美玖」
無意識にクリスの後ろに隠れたカナリアを睨むようにして、シュウが呼ぶ。
「躾のなっていない子だ。基本、ゲーム内ではプレイヤー名を呼ぶのが慣わしだろう?」
「お前だって!」
「私はLittle ladyと呼んでいるだけだ。名前ではない」
「詭弁だろ。それに他の奴だってそう呼んでる」
他の奴、というのはイッセンとリリアーヌのことだろう。カナリアも現実と同じように呼んでいるので、気にしていなかったが。
「あちらはLittle ladyが認めている。君は認められていないだろう? その違いも分からないの?」
小馬鹿にしたようにクリスが言う。シュウが苛立っているのが分かる。
「全く、私はまだLittle ladyとパートナーのままなんだけど。その分別もつかない子供が社交界に出入りしていいわけがないだろう?」
「基本一曲だろ!?」
「私はまだ一曲しか踊っていない。それに、そのあとの談笑は許されるべきだ」
「俺は美玖を心配……」
「どう見ても君に怯えているようにしか見えないのだけどね」
そう言ってクリスがカナリアの頭を撫でる。しかし何故にジャッジと撫で方まで似ているか聞きたくなってくる。
……あとでジャッジに聞こう。そんなことをカナリアは思った。
くつくつとクリスは楽し気に笑い出した。
「一体何の用かな? My dear sonから預かった大事なLadyだ。何かあると悪いのでね」
その呼び名じゃ、誰のことか分からないのでは? そう突っ込みを入れたくなったがあえて黙っている。
「それに君はLittle ladyとどんな関係だい? ギルドも本拠地も違うのに」
「俺と美玖は従兄妹同士だ」
「……Cousin? おや、Little ladyのCousinはあの二人じゃなかったのかい。……あぁ、あの非常識な親族か。
なるほど。だからこうしてマナーを犯して来るわけだね」
「お前ッ!!」
どこの社交界でも最低限のマナーというものはある。そして、このゲーム内にもそれは当てはまる。
ダンスに誘うにも、話をするのにも様々な手順がある。
見事にそれをシュウは無視したのだった。
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