初心者がVRMMOをやります(仮)

神無乃愛

ジャッジの怪我


「さて、次は鉱脈が多いから、『採掘』スキルのみせどころ。ジャスとディスがメインで、カナリア君は時間が取れたら『採掘』に回って」
「はいっ」
「シルクスパイダーがわんさか出るところだから、俺とジャッジがメインになる。この部屋を抜けると、ワーウルフがでてくるから要注意。そっからはジャッジとディスがメインになる。
 ここは続けざまだから、各自MPとHPには注意が必要」
 その言葉に、カナリア以外がそれぞれの得物を出していた。

 正確に撃っていくジャッジと、その一撃で眠ったシルクスパイダーを捕らえていくジャスティス。そして、色んなところで採取をしているディスカス。
 カナリアは、なるべく全体魔法を使うようにして、ダウン系の魔法をかけていた。

 そして、別の魔法の作成に入る。
 部屋にはいる前に聞いたら、全員が了承してくれた。
 カナリアの攻撃の幅が広がれば、ボス戦でも楽になると太鼓判を押してくれた。
 それがお世辞でも、カナリアは嬉しかった。

 MPが切れる前にMポーションを飲んでいく。
「カナリア! 麻酔弾を作ってくれ!!」
「分かりました!」
 カナリアが麻酔弾にかかりきりになれることで、他のメンバーの攻撃に厚みが出てくる。

 以前であれば、麻酔弾が切れてしまえばディッチの睡眠魔法にかかっていた。

 今回は二人がかりで眠らせ、回復は一、五人前くらいの効力はある。そして、ディスカスが「採掘にまわしてくれ」と頼めば、カナリアは手が空き次第採掘に回る。そこまで絶大な戦力には程遠いが、そうやって色々なスキルを使っていけば、カナリアは間違いなく大成する。それがジャッジたちの共通した意見だった。
「シルクスパイダー、どれくらい獲れた?」
「今回の染物には十分すぎるくらいは集まった。次の部屋に行くぞ!」
「カナリア君。まだMPに余剰分があるが、次は飲むのが難しくなるから、Mポーションは飲んでおきなさい」
「はい」
「さて、突入! ワーウルフが終わればレイドボス!! さっさと終わらせるぞ!」
 そう言ってディッチが防御UP系の魔法をかけてきた。
「カナリア君。先に言っておくが、君のレベルでは今回のワーウルフにダウン系の魔法はほとんど効かないだろう。念のため一度だけかけて、後は毛皮を燃やさないようにして魔法を使うように」
「はいっ」
 ディッチに言われたことに、カナリアはすぐさま頷いた。

 ここに来るまで、何度も失敗している。それをすぐさま全員がフォローしてくれた。

 カナリアはフォローしたことはないが、全員が全員、それぞれをフォローしあっている。これが本当のクエストなのだろう。
 羨ましいと思う反面、カナリアはそれが怖かった。

 知っている人があまりいなさそうという理由で選んだゲームだ。ディッチがいただけで止めようと思っているくらいに、リアルで知っている人間に会いたくないというのが、実情だった。
 その考えが、カナリアの足をすくませた。
「カナリア!」
 怖い。そう思ったときには遅かった。初めての「死に戻り」がこんな形なのは嫌だなとどこかで思いながら、ぎゅっと目を閉じた。

 少しだけ時間が経って、カナリアは恐る恐る目を開けた。
「え?」
 結論からいけば、「死に戻り」はなかった。
 ジャッジに抱きしめられ、軽い怪我で済んだのだ。
「ジャッジさん!?」
「そんな声、出すな。回復魔法を使えば、これくらいなんとでもなる」
 脇腹を貫くような怪我をしながらも、ジャッジが答えた。

 カナリアは慌てて回復魔法をかけた。
「やっ。やだっ!」
 カナリアのつたない回復魔法では、ジャッジの怪我を治すのには足りない。回復しても、すぐにHPが減ってしまう。
「アースヒール!」
 ディッチが声に出して言うと、足元から温かい風が吹いてきた。
「カナリア君も怪我をしてるんだ。自分のも治すこと。まだLVが低いんだから、集中力が途絶えると、尚更回復量が減る。……これはLVが高くなってからも起きやすい事象だから忘れない」
「は……はい」
「ジャッジなら大丈夫だよ。前はもっと酷い怪我をしたことがあるからね。こんくらいじゃ、ジャッジは『死に戻り』なんてしない」
 きっぱりとディッチが言い放った。

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