初心者がVRMMOをやります(仮)

神無乃愛

ウサミミカナリア、クエストに行く


 確かに戦いは楽になった……と思う。
 本日はジャスティスがかなり素材を欲しているらしく、フレンド限定の素材集めクエストに向かった。
「ギルド通して『あいつら』からの防具依頼がきやがった」
「お前のところもか。俺のところにも武器製作依頼が来た。レットに今頼んでるところだな」
 ジャスティスとディスカスが心底嫌そうに吐き捨てた。それもあって急いでセバスチャンの武器防具を作成してくれたようだった。
「カナリア。一つ言っておくが、『深窓の宴』というギルドに所属しているやつらには近づくな」
 ジャスティスが唐突に言い出した。
「『TabTapS!』内で俺らが知る限り最大のギルドだ。人数もLVも違う。礼儀正しいやつもいるが、中には自分たちよりもLVや経験が下のやつを見下し、アイテムとかを取り上げるやつもいる」
「分かりました」
 初めて聞くギルドだ。勿論名指し依頼も来ていない。
 これはひとえに、「初心者の町」のギルドにいる社員たちが、己たちの権限を最大限に生かして、依頼をもみ消しているからだが。他のギルドであれば、ギルド単位での依頼を丁度先日受けたばかりだ。
 そのためにも、カナリアは素材が必要だった。

 己のギルドロゴを入れたブレスレットが欲しい、という依頼だった。
 先程やっと見本をギルドに渡し、返事を待っている状態だ。
「カナリア君への依頼だったら、ぼったくりそうだしねぇ」
「来ててもおかしくないけど、知らないの?」
「はい。初めて聞きました」
 ディッチが言えば、スカーレットも訊ねてくる。
 名ばかりの「杖」の性能がいいことと、周囲がベテラン揃いということでカナリアも会話に混じっている。
「多分、町のギルドがシャットアウトしてる」
「ジャッジ……マジで?」
「……町のNPC自体が、カナリアに対する態度が違いすぎる。……なんと言うか、町全体で見守ってる感じ?」
 ディッチの驚きに、ジャッジが遠い目をして答えていた。
「この間、初めてカナリアとギルドに行ったんだが。……社員たちがそりゃもう、手取り足取り色んなことを教えてたな。どうりで、ギルド内のことは詳しいと思ったよ」
「……お、お疲れさん」
「ってなわけで、『初心者の町』にいる限りは大丈夫だろうな。……問題は別の町」
「ジャッジ、しばらく拠点を動かすなよ?」
「そのつもりはないな。俺のガレージもあるし、AIたちが畑まで作ってやがる。カナリア用の倉庫をあそこに作ったばっかりだし」
 拠点を持つPCは、そこにあるギルドを通して依頼を受ける。
 つまり、カナリアは「初心者の町」にあるギルドを通して、名指し依頼を受けるのだ。

 それに対して、ジャッジに対する依頼は「傭兵」扱いのものが多い。その分収入がかなり上がる。正直な話、ソフィル王国の首都に拠点を構えてもおかしくない。稼ぎがるのだ。
 もっとも、ジャッジが「表向き」拠点にしている場所は山奥のため、いたるところの町にあるギルドから依頼が入る。
 バイク移動はその際、かなり役に立っている。

「そういえば、ソフィル大陸の外って行けるんですか?」
 ひと段落がついた頃、カナリアが訊ねた。
「行ける。そのためにはまずソフィル王国とガレ連邦連邦共和国の首都に行く必要がある。そして、『海原へ』という渡航専用のクエストを受注。そのあとに、神殿へ行き『国の渡り』というクエストを発動させる。だと、ソフィル大陸の外に出られる。正直、今のところそこまでお勧めはしない。ちなみに、俺は『セイレン諸島』に拠点を構えている」
 そういったのはディスカスだった。
 ディッチもスカーレットも別の大陸に拠点を構えているらしい。
 ジャスティスがソフィル大陸から動かないのは「面倒だから」という理由らしく、ジャッジの倉庫は『ヒマル山脈』の山頂にあるらしい。勿論、そんなところまでカナリアは行けるスキルはない。
「普通であれば、渡航クエを受けててもおかしくないLVだが、カナリア君の場合はちょっとな。今までは大丈夫だったが、これからは悪意の塊とも会うことになる。それまでにもっと『TabTapS!』を好きになってて欲しい」
 せっかく選んだVRMMOで嫌な思いをして欲しくないと。純粋に楽しんで欲しいと。
「だから、どうしてもソフィル大陸にない素材が必要だったら、あたしたちに言ってくれれば大丈夫。LVもあがるし、セバスの料理も食べれるし、カナリアちゃんに会えるしでいいこと尽くめなんだから」
 報酬は別だけどね、そう言って笑うスカーレットをカナリアは思わず見つめた。
 この言葉がどれくらいありがたいか知っているのだろうか。
「あとは、ジャスに渡したようなワイヤーが欲しいなら、いつでも作れるぞ。今でもレットに錬金を頼んであるから、俺のほうで作業すれば、細いシルバーワイヤーなら一日で渡せる」
 出来ないことはできる人に頼め、ディスカスはそう言ってきた。
「ありがとうございます。新しいアクセサリーが出来たら、最初に皆さんに渡します」
「それでいい。そのうちレースとか編んだら俺のところに持って来てくれ。使える者は買い取るから」
「はいっ」
「ってなわけで、しばらく服を作る必要はないぞ?」
 そのあたりはジャスティスに頼れと、ジャッジが閉めた。

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