初心者がVRMMOをやります(仮)
「深窓の宴」と「カエルム」の溝
レイとシュウはカナリアたちを待たせている部屋へ向かっていた。
あそこまでディッチが怒った理由が、全く分からなかったからだ。
「じゃあ、ギルド設立するぞ」
ディッチの張り切った声が聞こえ、二人は思わず隠れた。
何故、ギルド設立? そう思っているうちにディッチとディスカスが部屋を出て、外へ向かっていく。意味が分からずにいると、部屋の中で携帯が鳴り響いていた。
「じゃあ、ガレ連邦共和国首都のほうがいいと思うけど」
スカーレットが明るく言っていた。
気がつけばカナリアを含め、たたった六人のギルド「カエルム」が設立されていた。
「あなた方がそこまで我々を拒絶する理由をお聞かせ願いたい」
レイはディッチに向かってそう言った。
「ギルマス殿には特に何も言うことはない。強いて言うなら、サブマスのシュウだ」
慌ててシュウを見る。だが、シュウも分からないといった顔をしている。
「君は我々のメンバーであるカナリア君を侮辱した。それが理由だ」
「侮辱?」
「『何も出来ない、不器用者』とね」
あのカナリアが、「不器用」? それはあり得ない。そう思ってシュウを見つめると、悔しそうに口を開いた。
「何も、VR上のことを言ったわけじゃない。俺が言ったのは……現実世界のことだ」
「そうかい? カナリア君のセンスはかなり素晴らしいものだと俺は思っている。勿論発想力も。誰が竜鱗でアクセサリーを作りたいと思う?竜鱗を削って形を整えたいと思う?」
竜鱗は錬金アイテムだという思いがある。それをあっさりとアクセサリーを作るほうに持っていくとは。
「しかもカナリア君は、鱗の色が気に入ったらしい。だから錬金を一切施していない。あの硬いままの鱗が気に入ったんだ。そしてアクセサリーを作った。そして、竜鱗を削った粉で、また一つアイテムを作った」
「見せて、もらえないのか?」
「誰が見せるというんだ。まだ試作段階だ。それを見せれば、ソフィル王国にて最大のギルド『深窓の宴』ならあっという間に成功させるだろう? そうやって他から搾取してきた作成アイテムがあるはずだ」
最初のアイテム作成者に「深窓の宴」のメンバーは確かに多い。だが、それ以上にディッチたちの持つ作成アイテムは凄い。
「俺たちもいくつか『特許』を奪われている。ギルマスが認めなくても、下のほうではそういうことをやってるやつらがいるということだ。今、レットが二つとも持って、特許局に行っている。承諾が降りたら、見せてあげよう」
どこまでも「深窓の宴」を信用していない物言いだ。
「あのカナリア君は、既に別のアクセサリー作成に動いているがね。ジャスも触発されて、やっている。ディスとレットはそのサポートに回っている」
「!!」
「今度の舞踏会クエストが楽しみだ。我々はギルド単位で参加する。そして全てジャスとカナリア君作成のものでまとめるよ。それまではどの指名クエストも受けないとギルドカウンターに言ってある」
「兄貴、カナリアちゃん名義で特許がかなり取れた。あとはあたしとディスで一つずつ。それから、カナリアちゃんとジャス名義で一つと、ジャスとディス名義で一つ」
「!?」
スカーレットが入ってきてディッチに行った報告に、二人は度肝を抜かれた。
「特許内容は?」
「竜鱗の使い方に関するもの、錬金後の竜鱗を使ったアイテム、それから二つを混ぜ合わせたアイテム、それから「竜鱗の粉」自体への特許」
「竜鱗関係だけなのか?」
「他は現在検討中だってさ。あの子、発想が豊か過ぎ。これからも特許のラッシュになりそう。セバスまで巻き込み始めてるからね」
「……彼は仕方ない。カナリア君の暴走を止めるのが仕事だろう」
「止めないよセバスは。ジャッジもだけど。失敗して当然って感じでやってるからね。ボーンビーズと鉱石のビーズは現在検討中。少しばかり市場に出回りすぎたからね。あとは銀の腕輪。あれも特許検討中」
「どれくらい出てくるんだ、あの子は」
「ん~とね、ビーズ関係と銀の腕輪はジャッジがこっそり申請してくれてたみたい。やり方が他と違うからね」
「……なるほど。カナリア君はどこまでも無欲なのか」
「そうみたいだね。どこまでも自己評価が低いから、じゃんじゃん特許取らせて自信持たせるわ」
「レット、そうしてくれ。絡むのはレットが多いだろうし」
「あ、ジャスとディスでガレに行ってる。本部をさっさと決めたいんだって」
「いいんじゃないか?」
「……あ、あの!!」
ディッチとスカーレットがこちらを忘れたかのように会話をしているのを、シュウがわって入った。
「あぁ。これを聞いても君には『何も出来ない、不器用者』なのだろう? どこまで他者を見下せばすむ?」
「だって、あいつはいつもおどおどして、隅っこに行ってそこで大人しく本を……」
「そう仕向けたのは君たちだろう? 最初から否定され続ければ、誰だってそうなる」
「誰よりも理解力のある叔父さんと叔母さんが言ってた! それにあいつはいつも短い髪で、もっさりとした服しか……」
「『誰よりも理解力のある』……ねぇ。あの夫婦が。スカーレット、記憶したか?」
「ばっちり。そういえばさ、どうして短い髪なのか聞いたら、『親がそれしか許してくれません』って言ってたけどね。VRどころかゲームも全般禁止。そんなことしたら、話についていけないよね。TVも見せてくれないみたいだし」
「そんなの嘘だ!!」
シュウが叫んでいた。
「嘘じゃなく、カナリアちゃんから聞いた話。あぁ、短い髪も『不器用だから伸ばせない』になっちゃうかな?」
「なる可能性はあるな」
スカーレットとディッチがシュウを追い詰めていく。
「……会話を聞いた第三者……にはなりませんね、俺は。シュウとはリアルでも友人同士だし」
レイにはこの溝を埋める術が見当たらない。何故、ここまでスカーレットとディッチがカナリアのことに口出ししてくるのか、それが分からないのだ。
「カナリア君のことについてはここまでだ。まぁ、生活拠点は相変わらず『初心者の町』にすると言ってたから、それなりに繋がりは出るだろうが、君たちには関わらないで欲しいね。特にシュウ君、君だ」
悔しそうに顔を歪めるシュウに、レイは何も言えなかった。そして、侮蔑した眼差しを最後に向け、去っていく二人を止める術もなかった。
あそこまでディッチが怒った理由が、全く分からなかったからだ。
「じゃあ、ギルド設立するぞ」
ディッチの張り切った声が聞こえ、二人は思わず隠れた。
何故、ギルド設立? そう思っているうちにディッチとディスカスが部屋を出て、外へ向かっていく。意味が分からずにいると、部屋の中で携帯が鳴り響いていた。
「じゃあ、ガレ連邦共和国首都のほうがいいと思うけど」
スカーレットが明るく言っていた。
気がつけばカナリアを含め、たたった六人のギルド「カエルム」が設立されていた。
「あなた方がそこまで我々を拒絶する理由をお聞かせ願いたい」
レイはディッチに向かってそう言った。
「ギルマス殿には特に何も言うことはない。強いて言うなら、サブマスのシュウだ」
慌ててシュウを見る。だが、シュウも分からないといった顔をしている。
「君は我々のメンバーであるカナリア君を侮辱した。それが理由だ」
「侮辱?」
「『何も出来ない、不器用者』とね」
あのカナリアが、「不器用」? それはあり得ない。そう思ってシュウを見つめると、悔しそうに口を開いた。
「何も、VR上のことを言ったわけじゃない。俺が言ったのは……現実世界のことだ」
「そうかい? カナリア君のセンスはかなり素晴らしいものだと俺は思っている。勿論発想力も。誰が竜鱗でアクセサリーを作りたいと思う?竜鱗を削って形を整えたいと思う?」
竜鱗は錬金アイテムだという思いがある。それをあっさりとアクセサリーを作るほうに持っていくとは。
「しかもカナリア君は、鱗の色が気に入ったらしい。だから錬金を一切施していない。あの硬いままの鱗が気に入ったんだ。そしてアクセサリーを作った。そして、竜鱗を削った粉で、また一つアイテムを作った」
「見せて、もらえないのか?」
「誰が見せるというんだ。まだ試作段階だ。それを見せれば、ソフィル王国にて最大のギルド『深窓の宴』ならあっという間に成功させるだろう? そうやって他から搾取してきた作成アイテムがあるはずだ」
最初のアイテム作成者に「深窓の宴」のメンバーは確かに多い。だが、それ以上にディッチたちの持つ作成アイテムは凄い。
「俺たちもいくつか『特許』を奪われている。ギルマスが認めなくても、下のほうではそういうことをやってるやつらがいるということだ。今、レットが二つとも持って、特許局に行っている。承諾が降りたら、見せてあげよう」
どこまでも「深窓の宴」を信用していない物言いだ。
「あのカナリア君は、既に別のアクセサリー作成に動いているがね。ジャスも触発されて、やっている。ディスとレットはそのサポートに回っている」
「!!」
「今度の舞踏会クエストが楽しみだ。我々はギルド単位で参加する。そして全てジャスとカナリア君作成のものでまとめるよ。それまではどの指名クエストも受けないとギルドカウンターに言ってある」
「兄貴、カナリアちゃん名義で特許がかなり取れた。あとはあたしとディスで一つずつ。それから、カナリアちゃんとジャス名義で一つと、ジャスとディス名義で一つ」
「!?」
スカーレットが入ってきてディッチに行った報告に、二人は度肝を抜かれた。
「特許内容は?」
「竜鱗の使い方に関するもの、錬金後の竜鱗を使ったアイテム、それから二つを混ぜ合わせたアイテム、それから「竜鱗の粉」自体への特許」
「竜鱗関係だけなのか?」
「他は現在検討中だってさ。あの子、発想が豊か過ぎ。これからも特許のラッシュになりそう。セバスまで巻き込み始めてるからね」
「……彼は仕方ない。カナリア君の暴走を止めるのが仕事だろう」
「止めないよセバスは。ジャッジもだけど。失敗して当然って感じでやってるからね。ボーンビーズと鉱石のビーズは現在検討中。少しばかり市場に出回りすぎたからね。あとは銀の腕輪。あれも特許検討中」
「どれくらい出てくるんだ、あの子は」
「ん~とね、ビーズ関係と銀の腕輪はジャッジがこっそり申請してくれてたみたい。やり方が他と違うからね」
「……なるほど。カナリア君はどこまでも無欲なのか」
「そうみたいだね。どこまでも自己評価が低いから、じゃんじゃん特許取らせて自信持たせるわ」
「レット、そうしてくれ。絡むのはレットが多いだろうし」
「あ、ジャスとディスでガレに行ってる。本部をさっさと決めたいんだって」
「いいんじゃないか?」
「……あ、あの!!」
ディッチとスカーレットがこちらを忘れたかのように会話をしているのを、シュウがわって入った。
「あぁ。これを聞いても君には『何も出来ない、不器用者』なのだろう? どこまで他者を見下せばすむ?」
「だって、あいつはいつもおどおどして、隅っこに行ってそこで大人しく本を……」
「そう仕向けたのは君たちだろう? 最初から否定され続ければ、誰だってそうなる」
「誰よりも理解力のある叔父さんと叔母さんが言ってた! それにあいつはいつも短い髪で、もっさりとした服しか……」
「『誰よりも理解力のある』……ねぇ。あの夫婦が。スカーレット、記憶したか?」
「ばっちり。そういえばさ、どうして短い髪なのか聞いたら、『親がそれしか許してくれません』って言ってたけどね。VRどころかゲームも全般禁止。そんなことしたら、話についていけないよね。TVも見せてくれないみたいだし」
「そんなの嘘だ!!」
シュウが叫んでいた。
「嘘じゃなく、カナリアちゃんから聞いた話。あぁ、短い髪も『不器用だから伸ばせない』になっちゃうかな?」
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レイにはこの溝を埋める術が見当たらない。何故、ここまでスカーレットとディッチがカナリアのことに口出ししてくるのか、それが分からないのだ。
「カナリア君のことについてはここまでだ。まぁ、生活拠点は相変わらず『初心者の町』にすると言ってたから、それなりに繋がりは出るだろうが、君たちには関わらないで欲しいね。特にシュウ君、君だ」
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