初心者がVRMMOをやります(仮)

神無乃愛

現実世界にて<美玖と周一郎>


 盆になれば、美玖にとって何よりも嫌な場所へ行くのだ。
 父方の祖父母のところだ。

 両親の言うことを信じているのか、美玖を「何も出来ない不器用者。家の恥」とあっさり言い切ってくる。
「今回もお世話になります」
 ぺこりと頭を下げた美玖に、祖父母は冷たく言い放った。
「いつもの部屋を掃除して使え」
「はい」
 いつもの部屋とは納戸のような場所。そして、美玖が掃除をしなければ、そのままの場所。
 挨拶をするなり、美玖は部屋に向かった。

 一人、部屋を掃除する。周一郎は優秀だと祖父母と伯父が自慢していた。今日、ゼミの合宿から帰ってくるらしい。
 さっさと掃除を終わらせて、この部屋で勉強と読書をしよう。そう決めていた。
 お金は少し持って来てあるから、あとで本屋に買いに行けばいい。

 掃除をして、美玖が休めるくらいにしたあと、何度も開いている辞書を開いた。


「ただいま」
 今日は少しくらい砕けていても大丈夫なはずだ。何せ、優しい叔父夫婦が帰ってきているのだから。周一郎はそう思い、玄関を開けるとやはり叔父夫婦の靴がそこにはあった。だが、こっそり楽しみにしていた従妹の美玖の靴がない。
「あれ? 今回は叔父さんたちだけ?」
「不器用者も来てるよ。靴は片付けたに決まってるだろ」
 祖母が当たり前のように言う。今まで周一郎はこれをおかしいと思ったことはなかった。
「ふうん。そっか。来てるのか」
「周一郎、お前はここの跡取りだ。あの不器用者には関わるんじゃないよ」
 祖母がいきなり言い出した。そういえば、いつも美玖を抱きかかえると、いい顔をしていないことに今更ながら気がついた。
 来ている、ということはあの部屋に引っ込んでいるのだろう。姉や弟に聞いても「つき合いが悪い」とだけ言っていた。勿論、他のいとこたちもそうだ。

 自分の部屋に戻り、スマホを取り出す。かける先は、ゲームでも一緒につるんでいるレイのところだ。
「レイ、明日暇?」
『親戚が来ているとか言ってなかったか?』
「来てる。だから『あいつ』も来てるんだ。だから連れて行こうと思っただけだ」
『そうか。俺なら暇だ。親は明後日帰国予定だからね』
「了解。じゃあ、明日連れてくから」
 そして、明日の予定が周一郎の中で勝手に決まった。

 翌日。
「美玖、いるか?」
 部屋をノックしたものの、返事がなかった。早速「TabTapS!」をやってるものと思い込んで部屋を開けたが、そこに美玖はいなかった。

 少しばかり捜すと、台所にいた。お手伝いさんに混じって、仕事をしている。
「周一郎坊ちゃん」
 古参のお手伝いが周一郎を見つけて声をかけてきた。現在立て込んでいるので、後にして欲しいと。
「美玖を連れてくから」
「なりません!」
「俺の我侭って、親父と叔父さんに伝えておいて」
 それだけ言って、周一郎は美玖を抱きかかえた。……そういえば最初は暗くうつむく従妹の顔が見たくて、やり始めたんだっけ。そんなことを思い出した。

 これが美玖の破滅に繋がるとは、周一郎は全く思ってもいなかった。

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