初心者がVRMMOをやります(仮)

神無乃愛

現実世界にて<良平の決断 その2>


 家主たちが戻ってくるのを、良平たちは道路で待っていた。
「お待ちしてました」
「何のつもりだね!?」
 美玖の父親が威圧的に言う。
「古瀬 美玖さんの進路希望調査が出ていないと、お盆前にお伝えしていたはずです。それから本日補習を無断欠席。その時使用したプリントをお持ちしました」
「分かった。受け取るから帰ってくれ!」
「そうもいきません。直接会って渡したいと思っております」
「何だね!? その言い分は!!」
 とある会社で部長という役職に就いている男とは思えない小物さが、ひしひしと伝わってくる。
「いえねぇ……彼女だけなんですよ。進路希望調査が出ていないのは。私のほうでも、今日受け取れない場合は家庭訪問と申し上げていたはずですが」
 へりくだるように言いながらも、こちらの希望を伝えるのは教頭だ。さすが、としか言いようがない。
「そ……そんな話はっ!」
きちんと、、、、連絡先になっている携帯とお嬢さんの携帯の留守電に私が、、入れておきましたから」
 悔しそうな父親の顔。黒に近い、グレーだ。
「……あ」
 丁度帰って来た母親の顔が青くなる。
「中に入れていただけますね?」
 しばらく無言のやり取りと、近所の目が気になったのだろう。大人しく家に入れてきた。
「さあ、帰ってくれ! これが進路希望だ!!」
 もみくちゃにされたプリントを父親が渡してくる。
「あとは、古瀬さんにもお会いします」
「具合が悪いと言っているだろうが!! 年頃の女の部屋に男の教師が入るなど、いかがわしい!!」
「……いかがわしい、ですか。そのような目であなた方は我々を見ているのですか。だったら一緒に行けばいい。違いますか?」
「必要ない! ただでさえ無駄飯ぐらい……」
「それは虐待と取れる言葉ですがよろしいですか?」
 良平は強気に出た。これしか、美玖に会う方法はない。
「虐待だと!? お前達こそ、俺たちをそういう目で見てるのか!?」
「半分くらいは? 違うというのでしたら、ご一緒に部屋に行きましょうか」
 疑われたくなければ、一緒に来い。暗にそれを伝える。そして、今日入れない場合は行政の介入があると伝えれば、あっさりと翻した。

「美玖ちゃん、起きて。先生たちがいらしたわよ」
 猫撫で声で母親が言う。だが、美玖の声は聞こえない。
「あ……会いたくないそうですの」
 わざとらしく部屋の外に出てきて母親が伝えてくる。
 それを無視して、良平と教頭は中に入った。
「!!」
 夏なのに窓が閉め切られた部屋。そしてエアコンも扇風機もない。これでは脱水症状になっていてもおかしくない。

 そして美玖は、ベッドの上に毛布もかけずに横になっていた。
「富岡教頭!」
 良平が慌てて美玖の脈を取る。弱々しいが何とか感じられた。救急車を呼ぼうとする教頭を夫婦が止める。
「脱水症状で危篤状態になった場合、最悪殺人未遂ですよ」
 きっぱりと良平が言えば、母親が怯えたような顔になった。

 そして警察と救急車が来て、美玖を運んでいった。


 事情聴取に、美玖の両親はこう答えていた。「朝具合が悪いと言っていた。寝てれば治ると言っていたので会社に行った」と。それが嘘か真実かは、警察が調べる。

 この状況をギルドの女性陣に伝えることが何よりも辛かった。

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