初心者がVRMMOをやります(仮)

神無乃愛

現実世界にて<禰宜田の女帝>


 悠里にその老女の名前を告げられた、禰宜田家と溝内家の人間はこぞって北ヶ原まで出向いた。
 北ヶ原の診療所というのは名目だけで、禰宜田家お抱えの医師がいるのだ。かなり人里から離れた場所にあるため、他の患者が来ることはない。
「どういうおつもりかしら。お母様は」
 ため息をついたのは悠里の母親、さゆりである。
「私に聞かないでください、お母様。お祖母様のお考えですし」
「……本当に未知数の子だね、美玖ちゃんは。まさか『禰宜田の女帝』まで動かすとは」
 しみじみと告げたのは孝道だ。
 結婚式のときに「悠里の祖母」としか聞いていない良平は「禰宜田の女帝」という言葉に驚いた。
「一応、父の姉のはずなんだがね。さゆりの育ての母親でもある」
「いや、ここにいる人たちはそれを知ってます。なんですか、その『禰宜田の女帝』って」
 親も疑問に思っていることを、良平が口に出した。
「言葉通りだ。禰宜田の家において誰も敵う人がいない。私も含め誰一人敵に回したいと思う人はいない」
 小柄な和装姿の女性としか記憶していないのは、どうやら良平だけではなかったらしい。晴香も両親も驚いている。

「遅いわ!」
 診療所に入るなり、和装姿の老女が怒鳴った。
「念のため、再度紹介させてもらうよ『禰宜田の女帝』こと、禰宜田 昌代まさよ様だよ」
「何が『禰宜田の女帝』か。お主らが愚か過ぎるだけであろ」
 思った以上に毒の強い方のようだった。

「皆様が揃われたようで何よりです。そして溝内家の皆様にまでご迷惑をおかけしたようで申し訳ございません。私は、昌代様のお世話係兼主治医の狭山さやまと申します。
 間もなく天原も参るでしょう。お寛ぎを。美玖様でしたら既に心療内科の専門医も用意し、治療にあたらせていただいております」
「私も昌代様の料理人兼外科医の三浦みうらと申します」
 四十代くらいの男二人こちらに来て挨拶をした。


 応接室のようなところに通された面々は、驚いた。隣の部屋にVRのカプセルがあるのだ。
「美玖様はあの中で治療をしております。根が深いそうで、VRMMOに戻るのにはそこまで時間はかからないでしょうが、日常生活を送るという意味ではかなり時間がかかりそうだということです」
「……昌代様」
 こめかみを揉みしだきながら孝道が呟いた。
「何じゃ?」
「医療用VRカプセルをあんな風に無造作に『ぽいっ』と置かないでください!!」
「ふん。研究者が設置して行ったのじゃ。問題なかろう」
 出された茶をすすり、昌代が答えていた。

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