初心者がVRMMOをやります(仮)

神無乃愛

無知という名の恥

 囲炉裏など、見なくなって久しい。それを慣れた手つきでクィーンは触っている。
「誰が胡坐をかいていいと言った?  我はお主に座れとすら言っておらぬぞ」
 ぴしゃりとクィーンが睨みつけて言う。思わず立ち上がったシュウに、クィーンは呆れたように座ることを促した。
「正座をせい! 最初から胡坐をかこうとするはたるんでおる!!」
 正座などここ数年したことがない。あえて無視して胡坐のままでいると、鬼族の男がまた後ろから刀を突きつけていた。
 どうやっても正座をさせたいらしい。

 そんなシュウをよそに、クィーンと紹介された女性は居住いを正し、正座をしてAIから箱を受け取っていた。
「躾もされておらぬ童子が。お主の親は無責任と見えるの」
 気がつくとクィーンは箱からパイプらしきものを取り出していた。
「早う、正座くらいせい」
 仕方無しに、正座をすると鬼族の男はいなくなった。

 ふう、と一つクィーンが息を吐いた。
「お主はカナリア……否、美玖と関わりがあるそうじゃの」
「!」
 あまりこういった場所ではプレイヤーネーム以外を出すことはない。それをクィーンは無視したことになる。
「何を驚いておる? 今美玖は我のところで療養しておるに過ぎぬ。あれほど出来た子供は久方ぶりじゃ。お主よりも躾は施されておる」
 パイプを吸いながら、クィーンは言う。
「み……美玖は……」
「お主らには会わせとうないわ。まだ外に出て動くのは難しい。大半を治療の時間で一日を過ごしておる。それほど負った心の傷は大きい。お主らはそれを見ぬ振りをした。
 そして、お主は美玖がああなる引き金を引いた」
「なにを根拠にっ」
「全ての事柄を並べればそうなるであろ? お主が愚かな者たちにゲームをしていることを教えた。それが始まりじゃ」
「そんなはずないっ!」
 あの時、レイの家に行って「TabTapS!」に繋いだ。己の部屋から一緒に繋がなかった理由は、一つしかヘッドギアがなかったからだ。そして、帰ってきてそれを、一族の者がいる前で伝えた。
 ゲーム内で有名になっているのだということも含めて。

 その時叔父夫婦は驚いた顔をしたものの、喜んでいた……はずだ。
「人の表しか見ぬ愚か者が」
 ぴしゃりとクィーンが突き放してきた。
「先程、ディッチのした歓迎せぬ態度、それに対して不服を見せるは、愚の骨頂ぞ。お主の家の者とて益にならぬ者にはするであろうに。お主も美玖を見下して安心しておっただろうに」
「違うっ!!」
「あの態度で守りたかったと申すか! 愚か者が!!」
 どこまでもシュウを否定する言葉をクィーンは投げかけてくる。
「真に守りたいと思うたら、あのようなことはせぬ。己が防波堤になることもせず、外から手を出すだけでは、逆効果ぞ。相手の希望も聞かず、節介を押し付けるのを助けると言うのか?」
 防波堤になっていたつもりだ。不器用な美玖を守ろうと何度か連れ出したことはある。
「その度に『不器用ゆえ、大人しくしておれ』と言われては、助けられたとは思えぬであろうな。そのあとに他者からの嫌がらせが増えれば尚更じゃ」
「何を根拠にっ!!」
「我に知らぬことはない」
 あっさりと言い切るクィーンに腹がたち、シュウは剣に手をかけた。
「救いようのない愚か者が」
「……!!」
 一瞬だった。喉元に突きつけられたパイプが、鋭利な武器に思えた。
「我のLVを知っておってお主は剣を抜こうとした。それは力で相手をねじ伏せる方法じゃ。そして今、LV一桁の我にお主は剣をつきつけられているに等しい状況じゃ」
 背中に汗が流れるのが分かった。
「おばばさん。失礼します」
「!」
「カナリア、いかがした?」
「お客様がいらしているとのことで、お茶をもって来ました。それから、小豆が手に入りましたので、おばば様に善哉を食べていただきたいと」
「今は取り込み中じゃ。もう少ししたら、ディッチに客人とともにここに来るよう伝えおけ」
「分かりました」
「カ……」
 カナリアの名前を呼ぶことを、クィーンから出る殺気だけで封じられた。

 LV一桁の女性に、シュウは屈したのだ。

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