初心者がVRMMOをやります(仮)

神無乃愛

レイの驚愕


 一度封印したはずの「化け物」が己の中で目覚める、そんな感じがした。

 あぁ、現実でないのが残念だ。

 現実ならば再起不能なまでに潰してやれるのに。
 己の父親のように。利用するだけして、棄てようとした父親を再起不能にしたのは己だ。
 それゆえ、もう一人の「父親のような人」にも怯えられる結果となった。

 あの人の場合は、一瞬だったが。それでも、己にとって裏切られたと思うには十分であった。

 あの家、、、を出て、大切なものを見つけた。それを貶めるやつは誰であろうと許さない。

 あの子にも怯えられるだろうか。その場合はどうしようか。

 そんなことしか思わなかった。


『さぁて、記念すべき第一回PvPイベントギルド部門を制すのはどちらのギルドだ!? 決勝は“深窓の宴第一部隊”VS“カエルム”!!』
 そして、決勝戦は始まった。


 なぶる、という言葉が相応しい戦いぶりだ。
 その対象になっているのは、シュウだ。


「どうした? いつもの勢いがないじゃないか」
 あえて挑発するように、ジャッジが言う。一方的になぶられているシュウは、言葉すら返せない。
「VRだったことを幸運に思うんだな」
「シュウ!」
 レイたちがシュウに近づこうとするのを、ジャスティスが止めていた。

「くそっ!」
 三人がかりでジャスティスと対峙しているはずなのに、誰一人その先へ進めない。

 残る二人は、ディスカスとスカーレットによって足止めされている。ディッチがやっているのは、回復とLP状況の確認のみ。誰よりも厄介なジャッジはMPを使う攻撃を一切やっていない。時々ディスカスが魔法付与をしているくらいなものだ。
 ちなみにユーリは、一切動いてない。否、動きようがない。
「……参ったね、こりゃ」
 クィーンたちのお小言は決定した。
「ディッチ! 一人撃破!!」
「ディスはジャスの補助よろしく! それから回復!! レットはそのまま!」
「了解!!」
 ディッチの指示に二人がすぐさま反応する。ジャッジとジャスティスに反応がないのは、なかば諦めている。
「……どうしましょう?」
「どうしようもないから、そばにいて」
「ジャッジ君を止めれないと、説教確定ですけど」
「それは覚悟したから。あとは二人の暴走を防ぐだけ」
 その時に一人位無傷なプレイヤーがいたほうがいい。それがディッチの考えだ。
 その場合、ユーリが一番危険になるのだが。
「ジャスティス君までこうなると、厄介ですね」
「俺も思った。ストッパーとしてどれ位苦労してたか分かるよ」
 周囲の混戦とは裏腹に、二人は少しばかりほのぼのとしている。

 それでもひたすら回復や補助はしている。ディッチだって高ランクのプレイヤーのなのだ。
「ディッチさん」
「お、サンキュ」
 ユーリからMポーションを受け取り、回復する。
「……どうしたもんかね」
 残忍に笑うジャッジを見つめながら、ディッチは思わず呟いた。

「こちらもっ! 態勢ととのっ……」
 レイも最後まで指示することが出来ない。どれくらいの威圧感を、ジャスティスは持っているというのか。
「悪いが、あっちに巻き込ませるわけにいかないからな!」
「それだけ!?」
 そう驚いたように声をあげたのは、レンである。
「それ以外何がある! あのジャッジのそばに俺は行きたくない!!」
 なんだ、それは。
「ギルド対抗じゃなかったんすか!?」
「文句は、おたくのサブマスに言え! いい感じにジャッジの逆鱗に何度も触れやがって!」
「何したんすか!? ウサミミ嬢にまたちょっかいだしたんすか?」
「次は、別件だ! 生憎止める手段はあるが、俺も腹が立ってるんで止めるつもりはない!!」
「何すか! それ!?」
「言葉のまま!」
 レンの問いにジャスティスが答えてくれたものの、全く話が分からない。それでもお互い手を休めない。

 何とかレイも回復し、次の構えに入る。こうなれば、レイドボスでしか使わないあの技を使うしかない。
 シュウ以外のメンバーに壁になってもらい、集中する。

 そして次の瞬間、大技を発動させる。
「ディフェンス・アタック!!」
 ディフェンス・アタック。それはレイの持つアクティブスキルだ。レイドボスなど、己よりも上位の敵の防御力を一時的にダウンさせ、それと同時に莫大な攻撃を仕掛けるものだ。運よくいけば、弱いレイドボスなら一撃で倒せ、強いボスでもHPを三分の一まで減らすことが出来る。
 その分、初期の溜めの時間が他のスキルよりも長く、叩き出したあとの硬直時間もかなり長い。
 だが、残りこの勝負に勝つこと、そしてシュウを助けるためにはこれしかない。

 ジャスティスたちが四散した。……ように見えた。

「……うそ、だろ?」
 その光景に、それしか言えなかった。

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