初心者がVRMMOをやります(仮)

神無乃愛

PvPイベント勝者

「ディフェンス・アタック!!」
 己のもつアクティブスキルを叫ぶものと、叫ばないものがいるが、レイは前者のようだ。そうジャスティスが思った瞬間、「深窓の宴」のメンバーはすぐに退いた。

 そして、その一撃がジャスティスたちに直撃する。

 このために叫んだのか。ジャスティスは納得すると共に、負けたのだと悟った。延長線上にディッチとユーリがいる。その二人だけでも残しておかないと、本当の意味で負けると思った。
 だから、必死に壁役としての存在をいかんなく発揮しようと思っていた。

 思っていた。それが悪かったとしか言いようがない。

 まさか、決意と衝撃で竜神からもらった腕輪が割れると思わなかったのだ。

――汝が望むのは何か。ただの力か?――
 違う。一緒に戦う者たちを守りたいだけだ。己の役割と引き換えに。
――力は要らぬか?――
 要るというよりも、己を犠牲にしてでも仲間に勝利を与えたい。
――汝も意思を動かさぬやつよ――
 ここまで来て初めて、どこからともなく声が聞こえていたのに気がついた。
――人竜族の真の姿を汝に――
「は?」
 間抜けな声が出てしまったことは、許して欲しいと思う。

 そして、ジャスティスの身体に再度異変が起きた。


 長い髪に尖った耳、そして伸びた爪。そこだけなら、エルフ族をいじくっていけばそうなることは知っている。だが、右のこめかみから右頬へ、そして右肩まで所々にある蛇のような鱗、それがなんなのか、レイは知らない。
 そして、あれだけの衝撃を食らいながら、タブレットが無事だということ自体がおかしい。
「相変わらず心臓に悪い」
「……いいじゃないか。助かったわけだし」
 ディスカスも瀕死の状態とはいえ、無事であることにレイは驚愕を覚えた。
「とりあえず回復」
「サンキュ、このチートめ」
 そう言いながら、ジャスティスがディスカスに回復魔法をかけている。
「そのうちどういう状況でこうなるか実証しておかないと考えものだな」
「そうだな。いきなりなられると心臓に悪いな。メルも来たぞ」
「……あいつは会場内に入れないだろ」
「まぁな。可愛いじゃないか。心配して来たんだろ」
 誰のことを言っているのだ。

 アクティブ・スキル後の硬直が解けぬうちに、ジャスティスはレイに攻撃を加える。
「……うそ、だろ?」
「生憎、事実だ」
 そう言ってジャスティスがレイに向かってくる。
 レイもたった一撃でロストした。


「ジャス、あとで称号から色々見とけ。また変わったぞ」
 ほのぼのとディッチが言う。スカーレットも何とか勝利し、ディッチが回復していた。

 残るはシュウ、ただ一人。あの状態のジャッジは放っておくに限る。全員がその結論に達したらしく、全回復のためにディッチのそばに寄った。
「ジャス、お前は自分の魔法がどんなのかしっかり確認しとけ。んでもって、さすが伝説の種族だ。闘技場の観客を守るシールドにヒビ入れてるぞ」
「……やっちまったってことでしょうか」
「そういうこった。カナリア君以上に目を付けられるぞ」
「ジャッジなら『願ったり叶ったり』って言うんだろうなぁ」
「しゃあないだろ。今まで『限定クエスト終了』なんて謳ってたせいだろ」
 ディッチの言葉に、ジャスティス、ディスカスが返してきた。

 五人はそのまま黙ってジャッジとシュウの行く末を見守った。


「お前に、あいつが味わった分の苦しみを教えてやる」
「なっ!?」
 一方的に断罪しながらシュウを斬っていく。
「言っとくが、このゲームに関しちゃ、お前の方がやり始めたのは早い。だから、お前の『VR歴が長かったから』というのは通用しない。分かってんだろ?」
 他のゲームならいざ知らず、どういう動きをするとスキルが手に入るかは、それぞれで違う。そして、同じ技名でも使うプレイヤーが違うと全く違う攻撃になっていたりもする。
 その証拠に先ほどレイが使っていた「ディフェンス・アタック」がある。同じ名前の技をジャッジもジャスティスも持っているが、全く違うアクションである。

 ジャッジの場合の「ディフェンス・アタック」は防御力を高めて、敵からの攻撃を受けにくくするものだ。そしてジャスティスの場合は、防御力と攻撃力を一時的に大幅に上げる。しかも、周囲にいた味方にも同じものを付与する代わりに、かなりのMPを消耗する。
 同じ名前でもこれ位差が出てくる。逆に違う名前で似たようなスキルを発生させる場合もあるが。

 それを知らないというのなら、ただのお馬鹿である。
「くそっ!」
「もっと這いつくばれよ。もっと絶望の淵に堕ちろよ。……本当に現実じゃないことが残念だ」
 くつくつとジャッジは笑う。互いに時折回復したりしているため、どれ位のダメージを与えて、どれ位与えられているか全く分からない。
 ジャッジからしてみれば、相手をなぶるということだけが目標になっている。
「なん……で」
「何で? そんなもの、あいつを泣かせ、ばあさんたちを侮辱した。それ以外何がある?」
「それ、だけ?」
「お前にはそれくらいのものだろうが、俺にとっちゃかなり重要な問題なんだよ。お前が今、マスコミから逃げてホテル住まいなのが俺にとって『それくらい』で、お前にとってかなり不便なのと一緒だ」
 息も絶え絶えなシュウに対して、ジャッジはまだ余裕がある。
「これがガンブレードだったらよかったんだがな」
 何度でもシュウの腹や手足に突き刺して、撃ち放つのに。
「がはっ……」
 まずい。吐血するほどダメージを与えてしまったか。
「まぁ、いいさ。二度とその汚い面をあいつの前に出すな」
 このゲームをするなとは言わない。
「なん……で……」
「お前ら流に言うなら、『お前達が弱かっただけ』だろ? それに、見てると腹が立つし、あいつが怯えるからな」
 そして再度苦しめるべく、わざと回復させる時間を与えた上で手足や肩といった場所の痛点を掠めるようにしてダメージを与え、最後に鳩尾から少し外れた場所に剣を突き刺す。
 それを幾度となく繰り返していく。

 たまには、ジャッジがシュウを回復してやりながら。


 今の己は一体どんな顔をしているのだろうか。


『そこまで! しょ……勝者……“カエルム”!』
 どうやら時間が来たらしい。とどめを刺せなかったのが残念だ。終了時間にも目を配っておけばよかったと、少しばかり後悔する。


 しんと静まりかえる会場。
 それくらいの衝撃がある戦いだった。

 なぶる、という行為を公衆面前ジャッジがやってのけたのだ。

 だが……。
「さ……さすが『カエルム』!!」
 一人が叫んだと思ったら、あっという間に一部に伝達してしまった。
 おそらく、同じようにシュウやトールたちにやられていたプレイヤーなのかもしれない。

 それくらい己たちが嫌われていたのだと分かれば、それでいいかもしれないとディッチは思った。

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