初心者がVRMMOをやります(仮)
三人組の限定クエスト 5
広場に着くとオークゴブリンの群れが小人たちを襲っていた。
「ちっきしょう!!」
イッセンが走り出し、小人を捕まえていたオークゴブリンたちに峰打ちを食らわせていく。
「とりあえず全員逃げて!! 俺らが食い止めるから!!」
「しっしかし」
「いいからっ! とっとと逃げる!!」
小人も数人被害が出ていたが、それどころではない。
「美玖! 俺がもう一回攻撃したらあいつらに全ステータスダウンの魔法かけて! りりはアップを俺に!」
「うんっ」
イッセンの指示に従い、魔法をかける。その上で攻撃魔法をかけていく。
「新しいクエストです。オークゴブリン百体倒して解体してください」
「無理っ!」
のほほんと神崎が声をかけてきた。
「あ、このクエストが終わらないと次に進みませんからねーー。終わらないといつまでも拘束ですので頑張ってくださいねーー」
「ふっざけんなぁぁぁ!!」
「リタイア出来ませんのでよろしくーー」
あまりにも酷すぎるクエストである。
とりあえずカナリアとイッセンが二人がかりで倒していく。その合間にリリアーヌが回復しつつ、手が空いているときに解体という形だ。
だんだんと落ちていく己の動きに、タブレットで確認をするとLPがだいぶ減っている。
「りりっ! LP回復!」
すこんと忘れていたが、イッセンたちの持ってきたLP回復用食事はヘイト値がかなり高いのである。
リリアーヌは離れていたためイッセンにスコーンを投げた。
そりゃもう、慣れた手つきで。
……が、イッセンの手に渡る前に、そのスコーンを運動会のパン食い競争もかくやという勢いで、オークゴブリンがダッシュで飛び掛った。
そして、そのスコーンはオークゴブリンの口に入った。
「俺の飯ーーー!!」
食べ物の恨みは怖いというが、それはゲーム内でもいえること。
ゲーム上でとはいえ、空腹を意識したイッセンがバーサーカーのごとく、そのオークゴブリンと、スコーンに飛び掛ろうとしたものの、取れなかったオークゴブリンを瞬殺した。
それを見たカナリアは、イッセンにサンドイッチを渡すと共に、点々と飲み物を置いて回った。
飲み物の中でも一部にのみ、オークゴブリンが群がる。それをみたカナリアは、別の食べ物も置いて回った。
イッセンが回復し終わる頃、カナリアも落ち着いて回復し、そのままオークゴブリンの殲滅に入る。
殲滅と解体を同時進行できないのが辛いところである。
「りりちゃん! 解体専門でやって! 私も回復できるから」
「分かった!!」
回復と攻撃、両方やるのは初めてだ。だが、そうも言っていられない。
「りりっ! 俺にHポーションもう少し頂戴! 美玖にMポーション渡しておいて!」
「うんっ」
イッセンがすぐに指示を出す。それぞれの役割が再度決まったところで、討伐を再開した。
「うっわぁ……」
毎回思うことだが、なんというか解体もシュールである。ここまでリアルにする必要なかったんじゃ? と運営に苦情を入れたい気分である。
「……ひょっとして血飛沫設定とか変えていない?」
「変えれるんだ」
「変えれます。というか変えてください」
神崎の言葉を受けて、リリアーヌは慌てて変える。すると、解体も己がしなくてよくなっていく。
「いっくんも美玖ちゃんも教えてくれなかった……」
「イッセンさんの場合はそれを楽しんでるんでしょうねぇ。カナリアさんの場合、誰かに教えられて設定したから覚えてないんじゃないですか?」
「なるほど」
よくぞ従兄妹の性格まで分かっていることで。
感心しながらも、解体ボタンをひっきりなしに押していく。
ある程度楽になったため、時折回復しながら解体できるようになっていく。
「……六十一、六十二……」
ひたすら数を数えているのは神崎である。
見ているのはリリアーヌとカナリアの手元である。解体数が鍵になる。そして解体数は神崎以外数えられない。
それにしても……と神崎は思う。仲がいいためか、動きがかなりスムーズである。数回どうして欲しいと言ったぐらいで、あとは阿吽の呼吸だ。これは予想以上に早くクエストが終わるな。そんなことを思っているとどこまで数えたか忘れた。
覚えているのは六十まで数えたこと。だったらと、六十から再度数えなおした。
そして、百を数え終わった頃、神崎は声をあげた。
「百体解体完了しましたので、今ここにいるオークゴブリンを倒せば終了です。扉は仮閉じしておきますから!」
「ちょっ! 百体解体したらオークゴブリンは消えるんじゃないのーー!?」
「そんなおめでたいゲームじゃありませんので、頑張ってください」
「ふざけんなぁぁぁ!!」
イッセンの叫び声を聞きながら、神崎も一体解体して食事に備えた。
「皆さんお疲れ様でした!」
満面の笑みで神崎が言うと、イッセンがすぐさま神崎を叩いた。
「それで済ますなっ!」
そして、三人揃ってクエストクリアとなり、「鞄屋の小人」という称号をもらった。
これが三人の限定クエストのあらましだった。
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