初心者がVRMMOをやります(仮)
クリス、頭を抱える。
久しぶりに某運営会社に出社したクリストファーは一つの事案に「可」という文字を書いた。
色々突っ込みを入れたいところではあるが、あまりにも恐ろしいので黙っておくことにした。
そして、とある出来事に根回しだけをしておく。
……これで問題ないはずである。多分。
ため息をつきたくなるのをこらえて、クリスは黙々と他の仕事もした。
久方ぶりにログインすると、初心者の町は拡大されており、その一部に大きな空き地があった。
「……さすがに整備までは終わらないか」
クリスはその光景を見ながらぼそりと呟いた。……が。
見慣れぬ者たちでその空き地はあふれかえっていたのである。
「……な」
何を、と言いそうになる所へタカとユウがこめかみをもみながらこちらへ向かってきているのを見つけた。
「あの人たち、本職の宮大工です」
「……は?」
ユウの言葉に思わず怪訝そうな顔になる。
「本格的な日本家屋と庭園を造るんだそうですよ。『神社仏閣を愛する会』の方々が喜んで手伝ってます」
タカからの報告にクリスも額に手を当てた。
本当にどうしたものやらなのである。
「へーー。曾お祖父さんのお弟子さんだった方ですかー」
「そうそう。いやぁ、嬉しいねぇ」
「私もですー。近々お伺いしますのでー、弟子にしてくださーい」
「嬉しいことを言ってくれるねぇ。きちんと親御さんを説得してきてくれよ」
「はーい」
頭を抱えているクリスたちの後ろではほのぼのとした会話がなされていた。
「嬢ちゃんは日本庭園にも造詣が深いんだな」
「かじっただけですー。ご近所さんに造園業の方がいらしたのでー」
「あぁ! 知ってるぞ」
宮大工の棟梁や庭師を話がはずんでいるエリを、生温かい目で見てしまうクリスだった。
そして現実世界の時間で一か月後。見事な日本家屋と庭園、それから西洋の館と庭が出来上がっていた。
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