老舗MMO(人生)が終わって俺の人生がはじまった件

穴の空いた靴下

323話 世界を股にかける

 結局アルテス様はネックレスの中でのんびりモニタリングと修正をして缶詰になっているだけなので、何も変わらないということはわかった。
 少なくとも白狼隊達には時間がない。
 後半に行った国はある程度余裕があるが、そうでない国には主要の都市へのGU配備。国防部隊への特訓。
 冒険者や民間防衛部隊への特訓。装備の拡充。
 サナダ商会を利用しての物流、兵站の充実、既存商店、商会などへの根回し、等々。
 想像するだけでも恐ろしいスケジュールになっている。
 とりあえずの今後の動きをまとめていく。

「だ、大丈夫これ……特にレン……」

「ああ、大丈夫ですよ。コウとナオにも連絡を取りましたし、時間がかかりそうなのはここプラネテルとゲッタルヘルンの戦力増強じゃないですかね」

【ユキムラユキムラ、MDの仕様VOと一緒にしたから再入場可だよ】

 勝利が確定した瞬間だった。
 さらっと最重要情報を教えてくるアルテスはユキムラたちにとっての幸運の女神だ。
 白狼隊ダンジョンによる育成をユキムラ、ソーカ、タロ、ヴァリィの4人で分担すれば半年もあれば戦闘に参加する人々を2000くらいまでは引っ張れるだろう。
 そして、素材問題もこれで解決だ。後は武器防具を作成する人員の育成だ。

「師匠、鍛冶育成もダンジョン内でやれば時間短縮できますよね?」

 ダンジョンに入って、入口のそばで制作系スキル訓練も行う。
 こうすることで時間を有効に使える。
 時間は十分とは言えないが、それでもかなりの余裕が出来ている。
 ダンジョン外での道の整備や物資の分担など、やはりレンを中心とした部分がタイトなスケジュールになりそうだ。

「燃えてきましたよー!」

 自分に与えられた仕事を完璧にこなせるかどうかの瀬戸際、こういう時に興奮するタイプのレンであった。

「……」

 ユキムラはおもむろにレンの頭を撫で回す。

「な、なんですか師匠!?」

「あ、いやー。なんか少し小さいレンは可愛いなぁって思って……」

 ズキューン。新刊の構想が完成した。

「ゆ、ユキムラさん。わ、私はー?」

「えーっとね、ちょっと……その、可愛いんだけど、可愛くなっちゃったなぁって……
 気後れするというか、幼いなぁなんて思ったり……」

 頑張れ、ソーカ。

 まずは各地の王への挨拶だ。
 ネックレスによる移動のテストもしないといけない。
 ユキムラたちしか移動できないのか、それとも同行者も可能なのか。

「とりあえず、コウとナオのところに行ってみよう」

 アルテスに教わったようにネックレスを握って街を思い浮かべる。
 すると、ネックレスから光が放たれて光の穴が目の前に現れる。
 その光を通過すると、あっさりと聖都ケラリスの目の前に現れる。

【女神像前から街の前に仕様変更したから。
 防御機構に転移阻害入れないと敵に利用されたら厄介だから】

 というアルテスの言葉通り、女神の盾の少し外側に光の転移門が開いている。
 白狼隊の5名が通り抜けるとフッと消失した。

「ユキムラ様ー!!」「ユキムラ様!」

 その場にはコウとナオがすでに待っていた。
 事前にレンが連絡を入れていた。

「久しぶり、なんだよな?」

「数日ではありますが、こんなに早くお戻りいただけるとは……」

 コウとナオの姿は、別れたときと変わらない。
 服装も正装とも言える執事服とメイド服だ。

「早速だけど、僕達の街まで移動できるか試したい」

 パーティにコウとナオを加入する。
 VOではこれで転移が可能だった。
 同じように光の門を作り出し、順番に通過していく。
 コウとナオは別段疑うこともなくその光へと足を踏み入れる。

「おおお、ここがユキムラ様達の街なのですね……!」

「立派な城壁、ケラリスよりも大きい、それに素敵な絵が!」

 同じように全員が通過すると光の門は消えていく。
 その後、複数のパーティに分けてみたり、パーティに入れないで通過したらどうなるかなどいくつか実験をした。

 結果としては、単純なルールで、白狼隊とパーティを組んだ人間が通過できる。ということがわかった。

「これなら最大55人一気に移動できますね」

 アイテムボックスというチートアイテムがあるので、兵站管理については物流を無視してもいいレベルでとんでもないアイテムと言えるだろう。
 5都市に容量無限で一瞬に物資を送れるということを意味していた。

「流石にゲートを作るのは俺達がやらないといけないけどね……」

「それでも道路整備などは急ぐ必要ないかもしれませんね。そもそも戦場となるであろう国は基本的には魔王の島と接する3カ国、テンゲン、フィリポネア、ケラリス。
 さらに敵部隊の上陸は国の南から集中するでしょうから……」

「飛び越しての奇襲も一応警戒しないといけないけど……
 あくまで防衛ラインはそこにおいて、監視体制をきちっと敷いて……
 必要なら急行すれば都市の防御的になんとかなりそうよねぇ~」

 こちらの用意できる方法に合わせて、魔神との戦争の仕方を構築していかねばならない。
 翌日からの忙しい日々を迎える白狼隊は久しぶりの我が家でゆったりと過ごすのでありました。








 

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