老舗MMO(人生)が終わって俺の人生がはじまった件

穴の空いた靴下

316話 進め白狼隊

 復活したキサラとアルテスは帰っていった。
 作戦の全容は説明を受けている。
 なかなか困難なクエストではあるが、白狼隊の仲間がいれば必ず成し遂げられる。
 ユキムラは疑っていない。
 キサラの力を得て白狼隊のつながりもより強固になっている。

「石像が……消えた……?」

 白狼隊以外の人々のリアクションは相変わらずだ。
 適当な言い訳をしてダンジョンの宝を回収する。
 しばらくはこの宝の鑑定と運用でギルドやアリシアの下を往復する日々だろう。

「でも師匠、ダンジョン攻略ギリギリにしなくてよかったですね」

「ああ、やっぱり俺が知っている以外のダンジョンがあったからね」

 アルテスはユキムラの疑問点、他のダンジョンはあるのかという質問に気前よく答えてくれた。
 開発者がプレイヤーの質問にネタバレで答えるようなものだが、ノーヒントで見つかるような場所ではない。
 第1の街ウーノと第6の街セイリスの間、海中神殿ダンジョン。それがこの国最後のダンジョンだ。
 そして、そここそが女神たちの作戦の決行場所となる。

 海中ダンジョンへの入り口はケラリスの街の真北。海沿いにある小さな祠から隠し通路が伸びている。
 この国の人間も誰一人知らない、教えられなければ絶対にわかるはずもない。

 ユキムラはこれ以上この国で人材育成をするつもりはない。
 今回のダンジョン攻略の後始末を終えたら、ケラリス神国での最後のダンジョン、そして女神アルテスからの依頼を終えるためにこの国を出るつもりだ。

 ケラリス神国での戦いを終えても戦いは終わらない。
 むしろ新しい戦いの開始の合図と言ってもいい。
 楽しい異世界生活のためにもユキムラは立ち止まるわけにはいかない。

 ダンジョンから戻ると、実世界では3日ほど経過していた、かなりの長丁場だった。
 国家中枢はユキムラのトレーニングによって優秀な人々が多数創出されており、教皇を始めとした中枢の人々がいなくても問題なく機能しており、スキルを交えた採取や製造は国をどんどん豊かにしている。

 案の定ギルドに持ち込まれた宝はケラリスの中枢とギルド上層部を大混乱に陥らせた。
 ユキムラは助力程度ならいくらでもするつもりだったが、こんなもの管理もできなきゃ利用もできないということで、白狼隊に押し付けられると言う結果になってしまった。

「うーん、困ったなぁ……鉱石類は嬉しいけど、武器とか防具は……素材にしちゃうのはもったいない気もするけど……」

「師匠、それでしたらアリシアさんとか皆さんに専用武器・防具を贈ったらいかがですか?」

「おお! ナイスアイデア!!」

 話し合いの結果、アリシア、親衛隊隊長、各街の聖騎士、大司教、筆頭司祭。
 それから親衛隊、聖騎士、司教の中から推薦された合計30名にダンジョンで手に入れた物を利用して武具を贈ることになる。
 そのことをアリシアに伝えると、上層部の喜びと混乱は増してしまう。
 ユキムラから武具を携わる名誉を得るための武術大会も開催される一大イベントになっていた。
 もちろんコウとナオには装備を更新している。

 それと同時にユキムラ達は一時的にケラリス神国を離れることをアリシアに伝える。

「ユキムラ様は多くの人々を導き、救う存在。
 私のわがままでお引き止めすることは出来るはずもありません。
 数々の御恩に報いることも敵いませんが、この国に滞在される間は出来る限りの協力は惜しみません」

「大丈夫ですよアリシアさん。きっとすぐにまた肩を並べて戦う日が来ますから」

 感慨深いアリシアに比べてなんともあっけらかーんとしたユキムラの様子に、アリシアも肩透かしを食らってしまう。
 この自由な強さがユキムラの魅力だと再確認する。

「そうよアリシア、また会う日までちゃんと鍛えてなさいよ」

「ソーカ。また会う日を楽しみにしているわ」

 熱い抱擁を交わす。二人の友情は揺らぐことはない。

 ユキムラが国を離れるということで盛大なセレモニーが執り行われそうになったが、アリシアを中心に一緒に戦った上層部の人間が止めてくれて、ユキムラは心底助かった。
 もちろん別れの宴は開催される。
 親しい間柄の人々が集まり、大いに白狼隊達との別れを惜しんで大騒ぎは行われ、なし崩し的に街全体で大騒ぎになって、結局変わらない状態になった。
 しかし、祭り上げられて崇められるよりも、誰かれ構わずもみくちゃにされている方がユキムラ的には楽しむことが出来た。

 当然、翌日は国家機能が停止してしまうような酷い状態だ。
 もしもタロという存在がいなかったらこの国の人々はどうするつもりだったのだろうか……?

「ユキムラ様、ご武運を!!」

 コウとナオは涙を流しながら白狼隊を送る。
 白狼隊が戻ってくるその日まで、きっちりとお屋敷を守るのが二人の大切な仕事だ。

 多くの人間に見送られて白狼隊は一路ケラリス神国最後のダンジョン、海底神殿ダンジョンへと向かう。
 ケラリスから真っ直ぐ北上する、街道も無いようなルートだが、白狼隊を乗せた車は土煙を上げて爆走する。

 2つの大都市の間の湾のようになっている部分に海の安全を祈って建てられた小さな祠。
 白狼隊がその祠の内部に置かれた女神像に触れると、音もなくダンジョンへの入り口が現れる。
 海底神殿へとつながる隠し通路、そしてその通路への入口は、いつもの通り揺らぎながら白狼隊を待ち受けていた。

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