老舗MMO(人生)が終わって俺の人生がはじまった件

穴の空いた靴下

309話 デート

 コウはいつもの習慣で朝目が覚める。
 いつもの習慣で皆の朝の準備をしようと身支度を整えようとする。
 そして部屋にデカデカと貼られた張り紙に気がつく。

『本日休日!!
 仕事禁止!!

        by ヴァリィ』

 行動を読まれていたようだ。
 そして机の上にはヴァリィ特製の洋服が置かれている。

「これは……」

 ジャケット、パンツ、シャツ、革靴まで、デート用の服装が一通り準備されている。
 執事服と寝間着くらいしかまともな服がないコウへのヴァリィからのプレゼントだ。

 同じようにナオの部屋にもプレゼントは置かれている。

 朝の支度を終えてヴァリィからのプレゼントに袖を通すと、まるで洋服が吸い付いてくるかのようにフィットすることに驚く。
 シャツを着てジャケットを羽織っていても、まるで体の動きを邪魔しない。
 このまま激しい訓練も出来るのではないかとさえ思ってしまう。
 デザイン面では自分にこんな大人っぽい服装が似合うはずがないと思っていたが、すべてを身につけると自分で言うのもなんだが、とても良く似合っていた。
 育ちのいい爽やかな好青年が鏡に映っていてコウは驚いた。

「流石はヴァリィ様だ……」

 コウは素直に感動していた。

「……皆盛り上がってるけど、俺、ナオを誘ってもいないんだよなぁ……
 とりあえずすることもないし、朝食でも食べに行くか……」

 簡易ホテルの廊下に出てダンジョン街に出る。
 階段を降りると見慣れた人影が見える。

「ナオ……だよな……?」

「コウ……?」

 いつもの見慣れたメイド服ではない、やや幼く見えたナオはヴァリィの服の力によって、少女から女性に美しく変身を遂げていた。
 ナオからしても普段の執事服によってビッと見えているだけだと思っていた男の子が、素敵な青年に変身している。

「ど、どうしたんだよ、随分早いな」

「コウだって……いつもの癖で、起きちゃった」

「はは、俺も。よかったら朝飯食いに行かないか?」

「うん。いいよ」

 自然と一緒の時間を過ごすことに成功する。
 レストランはコウとナオしかいない。ちょっと時間が早いのもある。
 GUが水を持ってきてくれる。グラスにはいった水をこぼさずに持ってこれるんだから凄いものだ。
 二人共モーニングセットにする。メニューもかなり豊富でユキムラ達の無駄な作り込みが発揮される。
 流石にGUはスキルを発動できないので調理をする。そっちも凄いことだが。

「本当にユキムラ様たちはでたらめな凄さだよな」

「とんでもない人に拾ってもらえたわよね」

 久々の二人ゆっくりした時間、自然と会話は思い出話や現状での仕事や冒険の話になる。

「ナオはその武器以外も訓練しているのか?」

「ええ、一応、短剣はソーカ様仕込で鍛えてもらってる。
 私の戦い方はあくまでもユキムラ様にお借りしている魔道具に頼ってるから……」

「俺も、ユキムラ様から貰った装備がなければ……」

「それでもコウは魔法があるじゃない!」

「まさか俺が魔法を使うとはなぁ……」

 ちょうど朝食が運ばれてくる。
 甘さを控えたフレンチトースト、間にハムとチーズが挟んである。
 付け合せに茹でたブロッコリーとボイルしたニンジン。
 それに野菜のスープと紅茶かコーヒーがついてくるお得なセットだ。もちろんここでは無料だ。 

「おいしい……」

「GUにもこれほどの料理ができるんだもんな……」

「私達も頑張りましょう!」

 妙な連帯感が生まれる。

「ずっと毎日動き続けてたから休み貰ってもどうすればいいかわかんないなー」

「あ、そう言えば映画館? 映像を見れるところでユキムラ様達の過去の活躍が見れるって聞いたんだけど……」

「ああ、あれはすごかったぞー」

「見たの!? ずるい! 私も見たい!」

「いいよ、ユキムラ様から聞いた話も教えてやるよ」

「ほんと? じゃあ行きましょ!」

 コウは思った。ユキムラ様ありがとうございます。と……

 朝食を共に取り、映画というかユキムラの戦闘記録を見ながら二人で盛り上がる。
 理想的な展開だ。
 過去のユキムラはカウンターを多用しており、現在の戦闘スタイルとやや異なる。
 最近のユキムラしか知らない二人にとって非常に有意義な時間になる。
 レンによる字幕つきなので映像の理解も早い。
 白狼隊も装備の変化により教材も変化しており、ユキムラ達がサナダ街を旅立ってから今に至っては別物と言っても良かった。

 十分に映像を堪能した二人は昼食を兼ねてレストランに戻り、また熱い議論を交わす。
 遅れてソーカとユキムラも訪れたので、挨拶に顔を出すと。

「今日はちゃんとデートするんだよー」

 と、冷やかされてしまう。
 なんとなくデートというより、気心の知れた友人と遊んでいるような気分になっていることは、お互いにわかっていた。

「デートかぁ……ねぇ、コウこれってデートなの?」

 コウは決めていることがある。
 もし、今日、少しでもそういう話になったら、きちんと自分の気持ちを伝えようと。

「俺は、そう思っているし、そうであってほしいって思ってる。
 俺は、ナオのことが好きだから」

 結局、いろいろと絡め手を使うよりも、直球を投げて気持ちをぶつけることには勝てない。
 突然の直球であれば、その効果は計り知れない。
 ナオの油断していた心は、コウに撃ち抜かれることになる。
 昼食を終えて、仲良く手を繋いで出ていく二人を、直球を食らって悶える二人が見送ることになる。

「男前だなーコウは……」

「かっこよかったですねーユキムラさん」

 残された二人の方が照れてしまっていた。

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