老舗MMO(人生)が終わって俺の人生がはじまった件

穴の空いた靴下

243話 ユキムラ、久々の内政に張り切りすぎる

「うお! ここに出るのか!」

 最後の扉を抜けてワープするとなぜか天守閣の最上階に出ることになった。
 地下世界とはいえ、高いところから一望する複雑に折り重なった城下は迫力満点だった。

「いいねぇ、城郭はロマンあふれるよねぇ……」

「お、ユキムラはそこわかるか!」

 それからおっさん二人の城郭トークが花開く。
 やれやれとほかのメンバーも疲れをいやすためにお茶やらお茶請けなんかを出していたら、自然とどんどん宴の様相を呈してくる。
 つまみが出され、酒が注がれていく。
 騒ぎを聞きつけた八鬼衆も集まって、口々に置いていったことを文句を言っていたが、酔いつぶれていたことを責められてぐうの音も出ていなかった。
 そして、鬼王がいなくなったわずかの時間で、生まれ変わったのかというレベルで鬼王が強くなっていることに驚くしかなかった。八鬼衆の野望が叶う日が訪れるのが遥か先になったことは間違いない。

「しかし、ユキムラが作る食事はこちらの味をよく理解しているな。
 この筑前煮も絶品だな!」

「醤油とか味噌もスキルで超高級品を作ってるからねぇ……
 実は俺も生まれはこの国の文化と近いところの生まれだから、そこは思いっきりこだわってるんだよ」

 ユキムラは刺し身とそれに合わせる複数の醤油を取り出す。
 醤油を変えることで味わいが変わる魚、自分の好みを探す楽しみ。
 さらに、それに合わせる酒。酒と肴の楽しみ方はとにかく浴びるように飲む鬼王にとって衝撃だった。
 この飲み会から、鬼王は時たま居酒屋とかでいる、やれどの日本酒にはどの刺し身がどーたらこーたら煩いおっさんになっていく……

「それじゃぁお楽しみの宝箱タイムー♪」

 ご機嫌になったユキムラは今回のダンジョン攻略で手に入れた宝箱を取り出す。
 白狼隊のメンバーも鬼王も八鬼衆も興味津々に覗いている。

「お、天叢雲あまのむらくもかぁ! これぞまさにってのが来たなぁ!」

「は!? 天叢雲って草那芸之大刀くさなぎのたちだろ?
 神話の武器じゃないか!?」

「素材にすると結構オリハルコン取れるんだよねぇ……」

「師匠分解しちゃうんですか? 凄そうな武器ですけど……」

「まぁ、取り敢えずはこのままにしとくさ、天之麻迦古弓あめのまかこゆみ、蜻蛉切……
 ここらへんかなー。鉱石類も魔石類も質が上がったねーやっぱりLv1000越えてくると良いものになってくるねー」

 ユキムラは失った武器のこともすっかり忘れて上機嫌だ。
 白狼隊はすでに慣れているのでどうということはないが、鬼王も八鬼衆も目を見開いて口をポカーンと開けて宝箱から出てくる伝説級の武具や鉱石、宝石を眺めている。
 ユキムラはこの皆が驚くさまが結構好きだったりする。

 ユキムラは八鬼衆に8振りの刀、仁鬼剣・義鬼剣・礼鬼剣・智鬼剣・忠鬼剣・信鬼剣・孝鬼剣・悌鬼剣を打ってあげ、鬼王には天之尾羽張あめのおはばり、天羽々あまのはばきりの二刀を譲った。

 後に八鬼衆は伝説級の武器を手に入れてクラスアップして八鬼神衆となり、鬼王はレベルと相まって鬼神へと変化することになる。武器を完璧に自分のものにするまでの鍛錬を必要とした。

「それじゃぁ、楽しかったよ! またいつか一緒に戦おう!」

「おう! こんなすげーものまで貰った。俺も強くなった!
 この恩は必ず返す!」

 がっしりと熱い握手を交わしユキムラ達は谷から帰還する。

 ライセツ村に戻り今回の妖怪騒動が解決したことを告げると村を上げての大歓喜に包まれた。
 ミツゲツ町からの商人団も到着したことでその熱狂はピークに達すことになる。

「救い主様じゃー!!」

「神の使いじゃー!!」

 今は上座に座らされ、祭りの主役として文字通り祀り上げられてしまった白狼隊のメンバーであった。
 ある意味熱病のようなものに沸いてしまっている人々に何を言っても無駄なので、ユキムラ達も諦めてその状況を受け入れることにした。

 ユキムラはまだ周囲にMDがある可能性があるため、しばらくライセツ村のお世話になることに決めていた。どうせ滞在するなら、ライセツ村を発展させる楽しい内政時間を取ることにした。
 久しぶりの内政にユキムラを始め全員が張り切りまくる。
 まずは周囲の素材などの把握、同時に村人へのスキル授与、各種魔道具作成、採取されたものを利用しての建築。はじめは驚くだけだった村人たちも、スキルに目覚めると忠実な労働力としてバリバリと自らの手で村の発展に寄与する。
 MDの場所も把握し、各地への交通網も整備する。
 サナダ街の発展以上のスピードで急速にライキリ村の生活が変化していく。
 まさにニョキニョキタイム。内政系作業で一番楽しい初期の爆発的進化。
 ユキムラもあまりに楽しくて……やりすぎた。

「レン様、偵察から帰ってまいりました」

「ご苦労、データはこちらで確認している。これでテンゲン全土の状態が把握できた。
 しばらくゆっくりするように」

「ハハッ!」

 音もなくスッと姿を消す男。レン傘下のSHINOBI部隊を統括しているハンゾウだ。
 SHINOBI部隊とは隠密行動に特化したGUと数名のライセツ村から見どころのある人間によって構成される情報収集部隊だ。GUと組むことで各地の情報を効率よく、そしてGUでは発見できない各種採取場などの情報を人の手で調べていく部隊だ。
 テンゲン全土の調査が今しがた終わったところだった。
 各町の状況やMDの位置、採取場の情報など事細かにレンの元へ上がってきている。
 ライセツ村の側にあったトライ湖MDとフォージ山MDを利用した村人のレベル上げ実験も十二分な成果を上げており、各部門に凄まじく優秀すぎる人材を産出している。
 しかし、ライセツ村はもともと小さな村に過ぎず、人口不足をGUのバリエーションで補っている。
 ミツゲツ町から来る商人により魔改造とも言える発展をしたライキリ村へと移住する人間も居るが、ミツゲツ町もそこまで大きな町ではない。
 もちろん魔道具供給はどんどんしているのでテンゲン全体が発展していくのは間違いないが、人口増加はやはり時間が年単位でかかる。
 そこでGUによる補充が考えられたわけだ。
 おかげで警備部隊、物資運搬部隊、工業部隊、畜産部隊、農業部隊、狩猟部隊などなど大量の組織が形成されている。
 村の規模もすでに村とは程遠い、すでに王都を凌駕している。
 やりすぎたのだ……気がついたときにはテンゲン王国内にもう一つ国家を作ってしまったような状態になってしまっていた。
 本人たちにはそんな野心なんてかけらもないのがせめてもの救いだった。

「師匠、取り敢えず調査に関しては終了いたしました。
 師匠の情報通り、非常に多数のMDが散在していますね」

 ユキムラはレンから渡された地図を眺める。
 MDの位置や街の位置もだいたい記憶どおりだ。

「師匠……例の作戦はどうしますか……?」

「外部からの妨害がなければ、なんだよね……」

【それは大丈夫!】

 ユキムラとレン、タロしかいないはずの部屋にいきなり第三者の声がする。
 気がつくと二人の女神が現れていた。
 クロノスと、ヤマトだった。

 


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