老舗MMO(人生)が終わって俺の人生がはじまった件

穴の空いた靴下

219話 駄々っ子じゃないんだから!

 ユキムラは白狼隊のメンバーに昨夜訪れた女神の話をしながら朝食をとる。
 全員慣れたもので、もう一個ダンジョンあるんですねーと言った感じで別段驚きもしない。
 そんな朝食の場にバタバタと慌ただしい足音が聞こえてきたのは、すでに朝食を終えてお茶を飲みながら談笑している時だった。

「ユキムラ殿!! 約束通りダンジョンへ連れてってもらおう、ますぞ!!」

 バーンと開かれた扉から飛び込んできたのはギルドマスターラナイその人だった。
 何のことか全くわからないので興奮しているラナイを落ち着かせて話を聞いた。
 興奮しすぎて何度もユキムラを連れて行こうとするのを止める羽目になりながら聞いた話では。

・早朝、巡回の兵士が石版と祠のような建築物が、王都近くの丘に作られたことを発見する。
・石版を解読すると、どうやらダンジョンへの入り口らしい。
・来訪者が訪れることでその扉は開かれるという内容も書かれていた。
・よっしゃユキムラと冒険じゃ!! これであのガキに(以下自主規制)

 ということらしい。
 現在は王都の学者や兵士が調査でごった返しているそうだが、そんなことはどうでもいいからさっさと連れてってほしい。という思考回路でここに来たらしい。
 なかなかに短ら……素直な人のようだ。
 そしてカウラナイが大声で熱弁を奮っていると、またバタバタと慌ただしい足音が聞こえてくる。

「やっぱりここにいた! お父さん!! ユキムラさん達に迷惑をかけちゃダメでしょ!!」

 イオラナがきちっとノックをして入室してくる。
 後ろには本当に何とも言えない表情をしているガニも一緒だ。

「イオラナ! なんでそんなやつと一緒にいるんだ!? 
 それに、何のようだ!?」

「王からお父さんがここに行ってるだろうから連れ戻してこいっていうのと、白狼隊のみなさんも城までご足労をお願いします」

「そんな回りくどいことしないでユキムラ殿をあそこへ連れてけばいいだろ!」

「お義父さん、王直々の……」

「お前にお義父さんと呼ばれる筋合いわいこのひよっこが!」

「お父さん!! そのひよっこにこないだボコボコにされたでしょ!!」

「うるせー! あれは油断してただけだ! それに俺だって次ユキムラ殿と一緒に行けばあんなひよっこに!!」

 大混乱だ。
 大騒ぎを聞きつけたホテルの人間も含めて、この騒動が収束するのにだいぶ時間がかかってしまう。
 ようやく落ち着き、大興奮したラナイをなだめて王城へと全員で向かうことになった。

「まったく、ラナイは……、まぁ、それは置いておいて白狼隊の諸君。
 話を聞いているとは思うが、突然現れた建造物の調査をお願いしたいのだが……」

 フィリポネア王はラナイに呆れてはいたが怒ってはいなかった。
 もちろんお願いを断る理由は無いので二つ返事で了承する。

 真っ白な3mはありそうな石版、石版に刻まれた文字は金色に輝いている。
 その隣には小さな祠のような作りになっている。
 石版と同じように真っ白な大理石のような素材で作られている。
 扉には美しい装飾が刻まれており、調査員が開けようとしてもびくともしなかったそうだ。

「なんか、やけに美しいですね」

「ああ、調査が終わったら観光名所になりそうだろ?」

 ユキムラの問いかけに気さくに答えるフィリポネア王。
 王自身がユキムラ達の調査に帯同している。

「ユキムラ殿こちらです」

 研究員と思われる人に連れられて扉の前に立つユキムラ。
 そっと扉に手を触れるとホワッと光ったと思うと音もなく扉は開いた。
 周囲の人々から感嘆の声が漏れる。
 そして開いた扉の先には小さな小部屋になっていて、正面には大きな姿見鏡が置かれていた。
 鏡はほのかに揺らめいており、ここがMDの入り口なんだろうとユキムラは感じていた。

「なるほど、来訪者の手により開く仕組みになっていたのですね」

「よし!! ユキムラ殿!! さぁ!! 冒険の旅へ!!」

「いやいやいや、まだ準備もできていませんし……」

「何を仰る私の準備はいつでも大丈夫ですぞ!!」

 確かになぜかフル装備でついてきたラナイのやる気は溢れ出していた。

「えーっと、レン。説明して」

「はい。ラナイさんレベルはおいくつですか?」

「儂は152じゃ!!」

 どうだー! って顔をされてしまうが、ガニから聞いてないんだろうか? とユキムラもレンも疑問に思うが、ガニとイオラナの方を見ると聞く耳持たないとジェスチャーされる。

「落ち着いて聞いてください。このダンジョンに出現する敵は最低でもレベル600以上です。
 ラナイさんの装備では爪がかするだけで跡形もなく吹き飛んでしまいます。
 まずはラナイさん用の武具を作ります。それから使用方法を学んでいただいて、一緒にダンジョンに入るのはそれからになります」

 レベルが600以上という話の辺りで周囲の人垣がざわついたが、一応ラナイは静かに聞いてくれた。

「し、しかし……」

「レン、悪いけど戦闘装備になってもらっていい?」

 ユキムラがレンに指示を出す。
 レンもすぐに装備を呼び出す。

「ラナイさん、貴方の最大の技でレンを攻撃してください。
 レンは魔道士ですが、少なくとも防御力に関してはこれぐらいなんとか出来ないと、中の敵には太刀打ちできません」

 周囲がざわつく、ユキムラもレンも平然としているが、まぁ、何ていうか結構挑発的な事を言っている。
 ラナイの気性的にこれぐらい言っておいて叩きのめさないと聞かないだろう、レンもユキムラもそう理解していた。

「大事な弟子が怪我しても知りませんぞ」

「そうですね、怪我させられるならどうぞ」

 あえて強い言葉を使う。これで手加減したりはしないだろう。
 事実ラナイの額にくっきりと青筋が立っている。

「いまさら後悔しても遅い!!」

 ラナイは170くらいの筋肉ダルマのような体つきをしている。
 その背丈と同じくらいのバトルアックスを振りかぶる。
 その構えを見て周囲は悲鳴にも似た声を上げながら距離を取る。

「息吹!! コォォォォォォォォォォ……、大木断!!」

 ラナイは独特の呼吸によって身体能力を高め、振りかぶった斧を一息で振り下ろす。
 斧の重量+膂力の見事な一撃、速度も申し分ない。
 しかし、レンは微動だにしない。瞬き一つせずにその斧の軌道を眺めている。

「……な……」

 しかし、その一撃はレンのローブにも届かない、エンチャントの魔力障壁が何事もないかのように防いでいる。

「こ、こんな……」

 周囲にいる人間もラナイの実力は知っているので、その光景が異常過ぎる事がわかっている。

「これでわかってもらえましたか?
 きちんと準備をして、約束通りダンジョンにはお連れしますから」

 がっくりと膝から崩れ落ちるラナイ。
 それからはおとなしくユキムラ達の言うことを聞くようになってくれた。



 


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