老舗MMO(人生)が終わって俺の人生がはじまった件

穴の空いた靴下

166話 剥ぎ取り

 ゲッタルヘルン帝国の現状で侵入可能なMDは全て攻略した。
 その宝を元に装備も拡充さることができた。
 第一皇子ファウストとその背後に居る存在との対決の準備は整い、レンは第二皇子への接触と、第一皇子周囲の剥ぎ取りを実行する。
 第一皇子周囲の貴族の内、脛に傷があるものたちへの懐柔、一方、欲深い奴らは利をちらつかせ静観させる。
 第一皇子にべったりどっぷりの奴らは、今後の帝国においても武闘派を気取られても邪魔なのでこの期に排除する。

 ユキムラたちもとうとう帝都内へと侵入する。
 帝都は歴史も深く街全体が統一された芸術品のような街づくりがされており、特に王城であるガイエンブルグ城は美しく、周囲の湖に映る姿を眺めるホテルは数年待ちの予約で一杯になるほどの芸術的な価値がある。
 帝都に住む男性にとって女性へのプロポーズを逆さ城(湖に映る城)の見える場所(どこも一流のレストランやホテル)で行うかどうかというのは一つのステータスになっている。
 お店を出す場所で明確な格の違いが出ることも有名で、中央通りの最も城に近い場所が特級、噴水十字路と呼ばれる十字路の南側の中央通り沿いは上級、左右に別れた道沿いが中級、それ以外は下級と陰で呼ばれていたりしている。
 サナダ商店は名前こそ変えているが系列店を上級に2件、中級に3件持っている。新興の商店としては異例なことらしい。
 実際には特級に店を構えるような店にも商品をいくつも卸している。
 そして帝都や帝国全土で話題になっているようなアイテムはほとんどサナダ商会の商品だったりする。
 帝国経済を影で支配していると言ってもおかしくなかった。

 レンは秘密裏にリンガーと連絡を取り、第二皇子ライガーとの面会をあっという間に取り付ける。
 もちろん普通では考えられないがライガー派で最も力をもつリンガーがユキムラ達に頭が上がらないのだからそれは当然とも言えた。

「ご無沙汰しておりますユキムラ殿」

 魔道具を使用しているとは言えため息が出るほどの色男っぷりは相変わらずだ。

「はじめましてユキムラ殿、サナダ商会には大変お世話になっている」

 ユキムラと固い握手を交わす目つきの鋭い眼鏡の男がゲッタルヘルン・フォン・ライガー。
 ゲッタルヘルン帝国皇帝であるゲッタルヘルン・フォン・バテウスの次男だ。
 知性と品性を感じさせる上品な顔立ち、華美にならずそれでいてこだわりを感じさせる装い。
 立ち振舞も含めてこの人物が只者ではないことを感じさせる。

「こちらも利あってのことなので、今後とも宜しくお願い致します」

「ところで、ユキムラ殿が来たということは、動く。ということですか?」

 眼鏡の奥の瞳が光る。
 全てを見透かしてきそうなそんな眼差しだ。

「ええ、もちろん兄上であるファウスト様を伐つわけではありません。
 あくまでもその背後で暗躍している人物が狙いです」

 包み隠さず話す。嘘を言っても益はない。

「ユキムラ殿その人物についてはリンガーから報告がある」

「失礼します。
 その人物はゴルビ、多分偽名ですが、商人を名乗っていますが、その出自は一切不明。
 扱っているものも盗品や粗悪品、薬物などろくなものではありません。
 しかし、異常なほどのファウスト様からの信頼を得ています。
 そして、背後は全くさぐれませんでした。
 精鋭が何人も失われました……我が力の無さを悔いるばかりです」

 レンが発言の許可を求めてくるのでユキムラは許可する。

「リンガーさん、これ以上は我々が正面から当たります。
 ただ、その場を作っていただきたい。
 我々が第一皇子と逢うのは生半可なことでは不可能ですから……。
 ただ、少々申し上げにくいのですが……」

「私に囮になれと」

「はい」

 レンを見つめるライガーの瞳はユキムラを見つめたときよりも鋭さを増す。
 それでもレンは一切の動揺無く涼やかな顔で見つめ返す。

「ふっ……ユキムラ殿も良い部下をお持ちだ。わかりました。
 場は作りましょう。そのゴルビなる人間の正体は……」

「十中八九魔神の手のもの、魔人であるとおもいます」

「ふむ、神話の話だが、聞けばユキムラ殿は来訪者。
 リンガーの報告も含めて考えれば……
 真実なのでしょう……」

「時期的にみてもうすぐ王国が停戦の申し出をしてきます。
 そこで行動を起こされる前に動きます」

「わかった。君たちには多大な恩義も有る。
 それに帝国をそんな輩の手先にするわけにもいかない。
 私も精一杯動こうじゃないか」

「ありがとうございます。安全については最善の対策を致します」

 会見は合意を得ることに成功する。
 その後安全対策の魔道具や防具などを提供し、リンガーにも一揃えの防具を渡しておく。
 戦いになった時に強力な援軍となってもらう。

 第一皇子との面会を組む前に周囲貴族の剥ぎ取りは予想以上に上手くいっていた。
 やはりゴルビに不信感を覚えていた人物は多いようだ。
 さらに第二皇子との正式な協力関係であることを明確にしてからはその傾向はさらに顕著になる。

「師匠、第二皇子の使いから連絡が来ました」

 それからは面会会場の買収や様々な準備を秘密裏に行う。
 大変な労力がかかるが万全を期すために最大限の努力はおこたらない、一度あの惨劇に襲われたユキムラに一切の妥協はない。
 帝都において最も歴史のあるホテルの一室、面会はそこで行われる事になった。

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