老舗MMO(人生)が終わって俺の人生がはじまった件

穴の空いた靴下

91話 謁見

 凄まじい速度で繰り返される刺突に払い、狙いも明確に関節や急所。
 一切の容赦のない攻撃、その全てをユキムラはしのぎ防いでいる。

「ほんとに、やるのね……驚いた!」

 しなるような、いや実際に木の棍がしなる払い。
 スピードに乗りユキムラに迫るその前に刺突によって止められる。
 圧倒的速度の払いを棍の中心を正確に刺突で抑えることの難易度は修めていればいるほど身にしみる。

「なっ……!、いいわ。出し惜しみは無しね」

 一旦距離を開けて基本の構えをとる。

「コォォォォォォォォォォォォ……」

 息吹、呼吸法によりヴァリィは体内に気を巡らせる。
 ユキムラもそこから発せられる技の予想がつくので中段の構えで迎える。

「これが私の、全力よ!!」

 突きだ。

 踏み込んだ前足は地面を揺らし、突き出された棍が残像を描くほどの速度、そして一見してはわからないほどの回転。棒術で大事な突き、払い、捻り。その内二つを究極まで高めた一撃。
 VOでは奥義の一つ、龍穿地割 螺旋突。そう呼ばれる技だ。

 ガイーーン!!

 近くの森から鳥が驚き飛び立つほどの音が周囲に響く。

 ヴァリィの放った棍とユキムラの打つ棍がピッタリとまるで一本の棍であるかのようにくっついている。
 そして次の瞬間、ヴァリィ側の棍がバリバリと粉々に粉砕され、その棍を持つ腕の鎧もはじけ飛んだ。

 腕を押さえ座り込むヴァリィ。勝敗は決した。

「ぐぅ痛ぅ……、来訪者ってみんなこんな化物ばっかりなの……?
 何もこんなに見せつけなくたっていいじゃない……」

 少し拗ねたような表情でヴァリィは不満をたらす。

「いや、あれ大きく避けるかあの方法しか無いからね」

 ユキムラがヴァリィの傷ついた腕に回復魔法をかける。
 芸術家の腕だ何かあってはいけないから最上級魔法を施す。

「な、もう。ユキムラちゃんって怖い人なのね。ますます惚れちゃったわ……」

 みるみると治癒していく自分の腕に行われていることの異常さはヴァリィにもわかる。

「それで、私は旅について行けるのかしら?」

「ああ、問題ない。ヴァリィにあった武器と防具を用意すれば、魔王ぐらい倒せるさ」

「ふふ、ユキムラちゃん冗談は一流じゃないのね」

 ユキムラの差し出した手をがっしりと握りヴァリィは立ち上がる。
 ユキムラは冗談を言ったつもりじゃないんだけどなぁと頭をポリポリとかいている。

「サナダ様ー! お客様ー!」

 ちょうどその時に宿の人間が呼びに来た。

「王城より使いが来ております。すぐにお戻りを」

 タイミングよく王からのお招きだ。
 新たな仲間とともに、いざ謁見へと挑む。

 4人と一匹は身支度を整え王からの迎えの馬車に乗る。
 ヴァリィも自らの分も作っており、揃えの衣装を着た3人を見て、幾人もの上流階級の人間を送ってきた使いの者をして、見惚れてしまう程の威風堂々とした姿だった。

「ヴァリィはそういう格好のほうが似合うと思うよ」

「うーん、可愛さが足りないのよねー。どっちかって言うとソーカちゃんの方が好きかなぁ」

 一瞬ソーカの着ている女性用の制服を着たヴァリィを想像しかけたがユキムラ、レン、ソーカは頭を振って邪念を霧散させた。

「ソーカ、ヴァリィと戦うとしたらどうする?」

 戦いを見ていたソーカにヴァリィとの実力を測らせてみる。

「……逃げますね」

「ははは、確かに現状はそうかもね。棍はどちらかと言えば防に優れているけど、ヴァリィはその枠には捕らわれないからね。一つの頂に到達したところからもとんでもない使い手だよ」

「その使い手を子供扱いした人に言われると微妙ね……嬉しいけど」

「師匠、僕もいつかあれくらい戦えるようになるものなのですか?」

「レンはヴァリィになる必要はないよ、レンはこれから山ほど魔法系技術を覚えてもらう。
 多分ソーカよりも先にヴァリィに勝てるのはレンじゃないかな相性的な話でね。
 でも、レンはソーカ相手には苦労するよ。これは仕方がないんだよ」

「ユキムラさんは誰にでも勝っちゃいますからねー……」

 ちょっとソーカがふてくされている。

「鍛錬をそうだね、あと20年も続ければ俺も倒せるさ」

 その発言はユキムラの心からの感想であった。
 しかし、その20年、ユキムラ自身も鍛錬を続けていくことが抜け落ちていた。

 王城は過美ではなく堅牢な落ち着いた佇まいでそこに建っていた。
 城門を抜け内庭の先、正門前で馬車から降ろされる。
 近衛兵が左右に並び国旗と槍を掲げている。
 一介の冒険者に対しては過度な出迎えのような気がする。
 正門が開くとその理由がわかる。

「サナダ ユキムラ殿、ここからはプラネテル王国親衛隊総隊長ガレオン=マグワイヤーがご案内する」

 ギルドの時とはまるで違う、ビシっとした精鋭の兵の装いをしたギルドマスターがそこにいた。

「お、やっと驚かせてやれたな。ざまぁみろだ」

 ユキムラに耳打ちをするガレオンはギルマスの時と一緒だった。

 最奥の謁見の間、そこへつながる重厚な扉が開かれる。
 まっすぐと惹かれたレッドカーペットの先、王座に座るその人がプラネテル=ハワード=3世その人だ。
 ガレオンと同じくらいの年齢か、豪華な服装の上からでも恵体を思わせる王としてのオーラを感じる。
 鷹のような鋭い目、整えられた口ひげ、意志の強そうな唇。
 戦の前線で味方を率いる将としても優れたカリスマを発揮しそうだ。

 ガレオンに導かれ王の御前で膝をつく。

「サナダ街領主、サナダ ユキムラでございます」

 事前に聞いていた名乗りを上げる。

「ユキムラが従者、レン」

「親衛隊隊長 ソーカ」

「先程仲間になりました、ヴァリィ」

「ワフ!」

 最後の一鳴きで場が少しざわついた。
 謁見の間に犬などをと言おうとした大臣もいたが、その神々しい姿に言葉を飲み込んだ。

「私がプラネテル国王 プラネテル=ハワードである」

 覇気のある渋い声が響く。
 面をあげるとプラネテル王がユキムラを見てニヤリと笑った。

「ガレオン叩きのめしたらしいじゃないか、やるな! アイツ悔しくて泣いてなかったか?」

「王!」

 ガレオンが注意する。
 なるほど、王は気さくな人物なようだ。


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