老舗MMO(人生)が終わって俺の人生がはじまった件

穴の空いた靴下

82話 嫁と子供の仇

「便利ですねこれ」

「海のところの山肌で使うために開発したんだけど汎用性高いね」

「登る時もっとしっかりした手すりがほしいです。少し怖かったです……」

「ソーカねーちゃん嬉しそうに師匠に掴まってたくせに……」

 ユキムラとソーカがチラッと目を合わせて照れる。ピュアかよ!

 火口の手前で全員マントにて状況を把握する。
 タロもお利口さんにマントをかぶっている。かわいい。

「いるねぇ、20頭ってとこかな?」

「なんか卵温めている魔物を倒してばっかりですね私達」

「あんまり深く考えないで行くしか無いよねそこは。気持ちはわかるけどね」

「師匠僕はどうしましょう?」

「申し訳ないけどここ守ってて、これ壊されたくないから」

「分かりました。ご武運を」

 素早く半径100mほどの火口の3方向へ散開するユキムラ、ソーカ、タロ。
 ついでにユキムラやソーカの具足というか靴は特別製なので滑落などの心配はない。

「それじゃ、行くぞ!」

 号令と同時に3方向の翼竜が襲われる。
 不可視の相手に為す術もなく狩られてしまう。
 まさに瞬く間に起きたことだが母は強し、いち早く警戒音を発する。

【ギャギャギャギャギャ!】

 翼竜達が警戒態勢を取る。
 卵を産む巣状になっている床材は柔らかくどうしてもその居場所を知られてしまう。

「各自各個撃破で、複数相手はなるべく避けよう。タロは自由に戦っていいよ!」

 マントをしまい突然の出現に思わず襲いかかってしまった一体をカウンターで始末する。
 飛び立とうとする翼竜たちを地べたへと縛り付ける。

「サイキックチェーン」

 魔力で作られた鎖が飛翔を邪魔する。
 タロはすでに3体を仕留めている。ソーカは刀の使い方を試しながらも2体ほど片付けている。

「来ないなら的になるんだけど」

 武器を弩に持ち替えて次々へとヘッドショットを決めていく。
 あっという間に片手で数えられるほどに敵の数は減っていく。
 その敵は卵を守るようにこちらを威嚇している。

「うーん、完全に悪役はこっちだね。ごめんね。
 恨みは甘んじて受けるよ」

 一箇所に集まっている翼竜に引導を渡す。

「サンダーストーム」

 急速に空に黒雲が広がり巨大な雷の束が翼竜たちを打ちつける。
 翼竜達が守っていた卵も雷の衝撃で全て粉々になる。

「タロ、まだ残ってる?」

「わうん」

 ふるふると首を横に振る。


「このままにしとくとまた巣食うかアンデッド出るから、全部燃やしてから土魔法で火口を変形させるね」

 ユキムラは激しい炎で一体を焼き尽くし険しい山頂部に火口を変化させる。

「終わったね。お疲れ様。何とも言えないけど、仕方ないね」

 ゲームでは感じなかった罪悪感みたいなものを感じながら下山することにする。
 ゴブリンやオークもあいつらはあいつらで家族と住んでいたよなー……そんなことを考えてしまう。
 異世界で《生きる》ようになってから、自分以外にも生活があることを強く感じる。
 みんな一生懸命《生きて》いるんだよな……ユキムラは少し寂しそうに山からの景色を眺めていた。
 キュッと手が握られる。ソーカだ。
 あまり外に出しているつもりはなかったが心配をかけたみたいだ。

「ありがと」

「いえいえ」

 普通にしてくれるソーカに癒やされる。握られた手を少し握り返す。
 ソーカは恥ずかしそうにうつむいてしまう。

「ウッー……」

 タロが唸り声をあげる。 

「師匠お楽しみのところすみません、どうやらボスのお出ましのようです」

「た、楽しんでるわけじゃ」

「来ます!」

 ガキン!

 タロが、巨大な翼竜の突撃に巨大な斬撃で対抗してくれた。
 上空から一気に飛来した翼竜は明らかに巨大、今相手してきた翼竜のゆうに3倍はある。

「旦那さんかな、憎い敵だよな、お前からしたら!」

 現在全体の3分の2くらいまで降りてきている。
 この狭い足場で戦うのはやや不安がある。

「飛ぶぞ、フライ!」

 全員に飛翔魔法をかける。エレベーターから飛び出して一気に山を下る、というか落ちていく。
 自由落下よりも疾く巨大翼竜が襲い掛かってくる。
 空中を蹴ってタロが迎撃をしながら下がってきてくれている。
 地面の側で速度を落とし平原へと着地する。

「タロ! ありがとう! 下でやろう!」

「ワフ!」

 タロが天を駆けて降りてくる。

【グギャァァァァァァァァ!!】

 怒りを巻き散らかすように降りてくる翼竜、ケツァルコァトルス。
 奥さんと子供の仇討ちに燃えている。

「毒を使うはずだからみんな気をつけて」

 怒りのせいで血走った真っ赤な目、ブクブクと泡のような物を吐いている大きく裂けた口。
 広げた翼は20mはあるだろう、先のほうが毒々しい紫をしている尻尾、たぶんあの先の突起は危険だ。
 爪も毒々しい色をしている。迂闊に攻撃を受けると危ないのは間違いない。

「レン、馬車を頼む! 無理のない範囲で援護も出来たらお願い」

「はい、師匠!」

 動き出したレンに狙いを定めようとした翼竜をタロが唸り声一つで制する。
 翼竜はタロから目を離せずにいる。

「そしたら、冷静に行きましょうかね」

 ユキムラの一言でタロが飛び出す。
 タロの身体が光り輝きそのまま翼竜へと突撃していく、

【ゲベェ】

 翼竜が紫の泡の塊をその光の光線に吐き出す。

「タロ!」

 空中で急速に角度を変えて翼竜へは攻撃は当たらないが紫の泡も避ける。
 そのままベシャっと地面に落ちた泡の塊はグズグズと周囲を溶かしながら地面へと沈んでいく。

「あれも危険だから気をつけようね」

 改めて翼竜退治だ!



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