老舗MMO(人生)が終わって俺の人生がはじまった件

穴の空いた靴下

74話 アリ退治

「とりあえず、ここを抜けるのは中止だ。
 ただ、さっきのスノーアントの雰囲気からしてクイーンいると思うからそれだけ倒そう」

 ユキムラの頭脳にはいま一つのことで専有されていた。

《女神解放クエをさっさと進めないと世界がヤバイ》

 なぜか無性にそう思っている。なんだか確信に近い。

「タロ、さっきの虫の親玉どこにいる?」

「アオーン!」

 タロは尻尾をブンブンと振り奥の方を顔で指し示す。
 誰も疑問に思わない、だってタロは最高に可愛いから。
 タロはトコトコと迷いなく真っ直ぐに歩いて行く。
 すぐ後ろにユキムラ、次にレン、最後にソーカだ。
 歩きながらユキムラ先生の魔法講義が続いている。
 レンもソーカも一言も漏らさない程に集中して聞いている。
 戦闘を歩くタロもきちんと耳をピンとして聞いている。
 攻撃魔法の効果的な使い方、支援魔法の重要性、MP管理の仕方、必ず最後まで魔力は使わずいざという時の脱出用、回復魔法は確保する。
 自分の限界を知る。
 一冊の本になるほどのユキムラのVOでの知恵だ。
 レンとソーカは後でまとめてサナダ隊の教本になる。

「ウオゥ!」

 タロが短く吠える。講義はここまでだ、これからは実践による実地試験に移っていく。
 敵は、目の前に広がるアントの海全てだ。

「はー、すごい数だな。これ、街、危なかったね。気がついてよかった……」

 眼前でうごめく敵の海を前にしてもユキムラは冷静さを失わない。
 その冷静さがソーカとレンの安心感を生む。

「あんまり魔法に頼らないようにね、支援は俺が管理するから。
 さて、アリ退治といきますか!」

《プロテクション、ブレッシング、マジックガード、ソウルゲイン、バイタルゲイン、
 ヘイスティング、ブロッキングウォール、アタックアップ、マジックアタックアップ……》

 ユキムラが流れるようにVO世界のバフ、要は味方の強化魔法を詠唱していく。
 追加に次ぐ追加でものすごい種類になっている。
 基本的には味方への強化魔法は聖職者系の職業が得意としているが、精霊付与師、呪術付与師、ソウルアクター、気功師などなど様々な職業もバフスキルを持っていて重複するものしないもの、それを覚えるだけでも受験勉強並みの量になっている。
 まぁ、ほとんどが似たような効果だったりするんだけども……
 まぁ、事前の戦いで装備に付与されたものだけでも十分戦えるのはわかってはいるけど、敵の数が膨大なので念には念を入れている感じだ。
 正直倒すだけならメガフレアなりティルトウェイトなりをぶっ放せば終わる訳だ。
 トンネルも崩れるだろうけど。

 ユキムラは久々の全開戦闘に興奮を隠せない。

セイントなるウォール

 まずはアレらが波となって突っ込まれるのが一番困る。
 ユキムラは魔法で壁を作り敵の進入路を限定する。
 聖職者系のホーリービショップのスキル、俗称:壁。汎用性が高く非常に使われる場面が多い。

「タロとレンは二人一組、絶対に無理しないこと。タロ危なかったらレン咥えて逃げてね」

「わうん」

「ソーカも無理しないこと、前から来たのを確実に」

「はい!」

「俺は暴れてくる、フライ」

 疾風使いという風邪系統魔法使いの上位職が使う、飛翔魔法を唱えて壁の向こう側へ。
 フライも本来は移動速度上昇と床判定スキル無効化ってぐらいの補助魔法だが、実際には飛べることになる。
 壁は自分の魔法なので自分自身とパーティメンバー阻害されないという特徴がある。
 アントの波は壁に阻まれて2箇所の出口から、必死に出ようとするはしからレンとタロ、ソーカに狩られていく。

「うおー、飛ぶの気持ちいい~」

 壁も天上も床も全て蟻アリありだ。

「マジックソード、アクセラレーション、投射!」

 空中にユキムラを囲うように魔法で作られた剣が現れる。
 10本、20本、どんどんその数が増えていく。
 魔剣闘士という人気職のスキルだ。魔力で作り出した剣を利用した多彩な攻撃は単体、多体を問わず強力で、さらに展開先のスキルが属性ごとに範囲攻撃。強職なのは間違いない。
 そしてそれがユキムラの投射の一言で四方八方へと光の筋を残して飛んでいく。
 ドドドドドッドドドドドドドドドと蟻を貫いていく魔法の剣、的確に頭を撃ち抜いていく、高速飛行をしながらも狙いは正確だ。

「ソードテンペスト!」

 連携技を繋ぐ、地面に刺さった魔法の剣から光の竜巻が放出される、巻き込んだものはずたずたに引き裂かれる、それが打ち込まれた場所全てで発生する。
 剣を中心に5mほどの円の中にいた蟻はすべて魔石へと変えられる。

「別に、唱えなくてもいいけど。思わず唱えちゃうなこりゃ」

 自分で開けた穴に着地する。

「茨の暴走」

 唱えなくてもいいけどついつい唱えてしまう。
 足元の地面から茨つきの蔦のような植物が周囲へと凄まじいスピードで伸びながら、敵を絡め取っていく。群がってくる敵もお構い無しでどんどん絡め取られていく、茨によるダメージは大したことがないが、この魔法は捕獲状態でコンボがある。
 プラントマスターのスキルで妨害系スキルが多く操作も少しマニアックだが型にハマったときは絶大な効果を発揮する職で団体戦では上手い人がいると戦局が変わると言われている。

「燃え盛る蔦」

 足元から炎が沸き起こり絡め取った蟻ごと蔦が燃え上がる。
 コンボの一つだ、他にも蔦から腐食性の樹液を出したり結構エグいコンボがたくさんある。

「実際に見ると結構エグいもんだなぁ、レンとソーカは平気ー?」

 自分の周囲30mくらいのエリアの蟻を倒して状況を把握しようとする。

「問題ないです! タロもいますから」

「こちらも問題なし、魔石が多くて邪魔ですね」

「確かに」

 ユキムラは周囲を見渡しそこらじゅうにドロップしているアイテムを見る。

「強欲な大口」

 ぶわっと風が周囲からユキムラへ向かって起こる。
 スキルの一つで周囲のアイテムを自分のアイテムボックスに収納する。
 いちいち一つ一つ拾わないで済むので鬼湧きする場所での狩りでは非常に便利なスキルだ。
 大盗賊のスキルでVOをやっている人なら必ず取ると言ってもいいスキルである。

「足元もスッキリしたし、一気に行くかー。
 サモンフレイムバード、クリエイトゴーレム、合体強化、メイクファイアーゴーレム」

 右手に呼び出された炎の怪鳥、左手に生み出された巨石の巨人、二つが混ざり合って燃え盛る巨大な石兵へと姿を変える。

「……」

 ユキムラは自分のやったことのかっこよさと、同時に羞恥心に苦しまされた。
 俺やっちゃったよ、ドヤ顔でメイクファイアーゴーレムだってさ。
 きっと枕があったら顔を伏せてバタバタ足をばたつかせていただろう。

 なんにせよ、ゴーレムクリエイターのクリエイト系スキルは作り手の強さが反映される。
 つまり、ここに世界最強のゴーレムが生まれたことになる。

 「はい、残りやってこう」

 攻撃命令が下され、蟻の群れに炎の巨人が突入していく。

 蹂躙の時間だ。








 

 

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