終末の異世界と大罪のグリモワール ~英霊は異世界で斯く戦えり~
第五章48 砂塵の試練ⅩⅩⅩⅦ:反撃の狼煙
「空気を焦がし、大地を燃やし、立ち塞がる全てを灰燼と化せッ――絶・炎獄拳ッ!」
月明かりが差す闇夜のアルジェンテ氷山。
この場所で今、世界の命運を左右する戦いが始まろうとしていた。
「――――」
周囲に轟く咆哮を上げるのは、世界を混沌へと突き落とし、そして世界の破滅を目論む魔竜だった。圧倒的なまでの力で人々を混沌とした闇に誘う魔竜によって、それまで平穏な日々を送っていた氷都市・ミノルアを一瞬で壊滅まで追い込んだ。
そんな街で暮らしていた瑠璃色の髪を持つ姉妹である、シュナとリエルもまた魔竜による襲撃に巻き込まれ、そして姉であるシュナは魔獣との激闘によって命を落とした……かに思えた。
「…………すごい」
シュナは女神として復活を遂げ、有り余る力を用いて魔竜と戦おうとする。しかし、魔竜が持つ破滅の力を前に彼女は再びその命を危険に晒してしまう。
「あっはっはー、これが女神って呼ばれる存在なんだよ」
「女神ってこんなに強いの……?」
「そりゃーね。私たちは世界を守るために生まれたんだからね。世界を混沌から守るために必要なもの……それはなんだと思う?」
「……力?」
「そーいうこと。力が無ければ世界を守ることはできない。大切な人を守ることはできない。私たちは選ばれた存在であることを自覚し、そしてこの力を誤ってはいけない」
紅蓮の髪を短く切り揃え、つり目で勝ち気な表情が印象的な炎獄の女神・アスカが見せる圧倒的な力を遠目で見ながら、暴風の女神であるカガリは女神が持つ力の責任と、己が果たすべき使命をシュナに伝える。
「シュナちゃんも女神であることに間違いはない。だから、戦わないといけない……世界の敵とね」
「みなさんみたいに……戦うことができるのか、自信がありません……」
「まぁ、女神になって時間が浅いからね。シュナちゃんはまだ、今の自分が持っている力の全容を理解できていないだけなんだよ。本来、女神たちの間に力の優劣なんてものは存在しないんだから」
「そうなのでしょうか……」
遠目に見える紅蓮と白銀の髪をもつ少女たちに視線を向けながら、シュナはカガリが漏らした言葉の意味を飲み込もうとするのであった。
◆◆◆◆◆
「はっはっはッ! 魔竜といっても、この程度ッ、簡単、容易ッ!」
「はぁ……たった一撃を喰らわせただけで勝ち誇るのは如何なものかと……」
炎獄の女神・アスカの一撃により、魔竜はその身体に大きなダメージを負っていた。両手、両足を業炎で包んだアスカはその顔に満面の笑みを浮かべ、更なる戦闘に心を震わせる。
相変わらずの戦闘狂っぷりを発揮するアスカを見て、白銀の髪を揺らす聖輝の女神・ダイアナはやれやれ……といった様子でため息を漏らす。白銀の髪、白銀の甲冑ドレスを風に靡かせる少女は、女神の中で最も破壊力の高いアスカの攻撃を耐えた魔竜に対して、決して油断するようなことはしない。
「次は私が行きます」
「ふむ、我だけが戦うのは卑怯、卑劣、不平等というものだなッ! 見せてやるといい、白銀の騎士が持つ力というものをッ!」
「……上から目線の言葉が気に入りませんが、いいでしょう」
魔竜が悲痛な咆哮を上げ続ける中で、再び世界を守護する女神たちが動き出す。
闇夜を駆ける一筋の光となるのは、白銀の甲冑ドレスに身を纏った少女。
彼女はその右手に世界誕生と共に生まれたとされる『聖剣』を握っている。誰もその名を知らず、しかし聖剣は気が遠くなるほどの膨大な魔力を内包している。
「――――ッ!」
再び飛び出してきた女神たちを前に、魔竜もタダでやられ続ける訳にはいかなかった。紅蓮の瞳を輝かせると、己がもつ魔力を存分に放出していく。
周囲一帯に響き渡る咆哮。大地が激しく揺れ動き、魔竜の周囲に無数の火球が姿を見せる。火球たちは魔竜の意志に従い、小柄な少女たちを飲み込もうと跳躍を開始する。
「……魔竜というのも案外、頭が悪いみたいね」
「――――ッ!」
魔竜が放つ火球も、ダイアナたち女神たちからすれば回避することは容易なものであった。一つ一つが凄まじい破壊力を擁しているとしても、彼女たちは空中を自在に滑空できるため、当たらねばどうということはないのである。
「この子、強いのはいいんだけど……少し準備に時間が掛かるのが難点ね……」
「ふふふ……ダイアナよ、油断するのは良くないぞ?」
「なに、アスカ? この私が油断なんて――」
雨のように降り注ぐ火球攻撃を難なく回避し続けるダイアナに対して、少し離れた位置で様子を見守っていたアスカが不穏な言葉を漏らす。鼓膜を震わせたアスカの言葉に眉を顰めるダイアナ。
「――――ッ!」
そんな彼女たちの言葉を遮るように、再び魔竜の咆哮が響き渡る。
次の瞬間、雨のように振り続ける火球たちに混ざるようにして、木の根が姿を現し始める。魔竜が扱えるのは火球による炎魔法だけではなく、大樹を操る創世魔法すらも自在に操ることができるのだ。
「……なるほどね」
絶え間ない火球攻撃。それに付随して先端が鋭利に尖った木の根がダイアナの身体を貫こうと飛翔してくる。
火球による攻撃だけでも凄まじい連撃だという中で、そこへ無数の木の根による刺突攻撃も加わり、ダイアナは自らが攻撃する余裕すらなく、回避することだけに専念することを余儀なくされる。
「どれだけの攻撃を仕掛けてこようが……この剣の前には全てが無意味」
甲冑ドレスを翻し、表情一つ変えることなく魔竜の攻撃を回避し続けるダイアナ。
「……攻防一体の完成された聖騎士。彼女を現す言葉として、最も相応しい」
一切の無駄が存在しないダイアナの身のこなし、それは傍から見る者を魅了する。
アスカもまたダイアナの動きに魅了された一人であり、彼女が踊るように相手の攻撃を躱し続ける姿にはいつも笑みが漏れてしまう。
「もう少し……もう少し時間が掛かる……」
魔竜が放つ攻撃をギリギリのところで躱し続けるダイアナ。彼女はここまでの間に一回も魔竜に対して反撃を行っていない。
「――もう少し」
どれだけの人間が気付いているだろうか。
一秒。また一秒と時間が経過する度に彼女が持つ聖剣に魔力が充填されていることに。
「――――ッ!」
当たらない攻撃を続けることは、魔竜にとってもストレスが強く、苛立ちが募った咆哮を上げる。火球と木の根による攻撃を続けたまま、魔竜は口を大きく開くと炎渦を吐き出していく。
回避のしようがない魔竜の攻撃。
しかし、ダイアナはそれでも表情を変えることなく、涼しい顔で迫る攻撃を待ち受ける。
「……準備完了ね」
あと数秒。
それが彼女と魔竜の攻防に決定的な結果を生んでしまった。
「聖なる輝きよ、世界を両断せよ――聖輝一刀ッ!」
世界誕生の聖剣から放たれるのは、絶対の破壊をもたらす聖なる斬撃。
周囲を眩い輝きに包みながら、聖剣から放たれる斬撃が一筋の光となって魔竜の巨体を包み込んでいく。
「――――ッ!」
光に包まれながら、魔竜の咆哮が響く。
世界に顕現せし、女神たちは混沌に支配されようとした世界に確かな変化を与えようとしていた。
壮絶なる戦いの果てに待つのは、生か死か……その答えはもうじき姿を現そうとしていた。
月明かりが差す闇夜のアルジェンテ氷山。
この場所で今、世界の命運を左右する戦いが始まろうとしていた。
「――――」
周囲に轟く咆哮を上げるのは、世界を混沌へと突き落とし、そして世界の破滅を目論む魔竜だった。圧倒的なまでの力で人々を混沌とした闇に誘う魔竜によって、それまで平穏な日々を送っていた氷都市・ミノルアを一瞬で壊滅まで追い込んだ。
そんな街で暮らしていた瑠璃色の髪を持つ姉妹である、シュナとリエルもまた魔竜による襲撃に巻き込まれ、そして姉であるシュナは魔獣との激闘によって命を落とした……かに思えた。
「…………すごい」
シュナは女神として復活を遂げ、有り余る力を用いて魔竜と戦おうとする。しかし、魔竜が持つ破滅の力を前に彼女は再びその命を危険に晒してしまう。
「あっはっはー、これが女神って呼ばれる存在なんだよ」
「女神ってこんなに強いの……?」
「そりゃーね。私たちは世界を守るために生まれたんだからね。世界を混沌から守るために必要なもの……それはなんだと思う?」
「……力?」
「そーいうこと。力が無ければ世界を守ることはできない。大切な人を守ることはできない。私たちは選ばれた存在であることを自覚し、そしてこの力を誤ってはいけない」
紅蓮の髪を短く切り揃え、つり目で勝ち気な表情が印象的な炎獄の女神・アスカが見せる圧倒的な力を遠目で見ながら、暴風の女神であるカガリは女神が持つ力の責任と、己が果たすべき使命をシュナに伝える。
「シュナちゃんも女神であることに間違いはない。だから、戦わないといけない……世界の敵とね」
「みなさんみたいに……戦うことができるのか、自信がありません……」
「まぁ、女神になって時間が浅いからね。シュナちゃんはまだ、今の自分が持っている力の全容を理解できていないだけなんだよ。本来、女神たちの間に力の優劣なんてものは存在しないんだから」
「そうなのでしょうか……」
遠目に見える紅蓮と白銀の髪をもつ少女たちに視線を向けながら、シュナはカガリが漏らした言葉の意味を飲み込もうとするのであった。
◆◆◆◆◆
「はっはっはッ! 魔竜といっても、この程度ッ、簡単、容易ッ!」
「はぁ……たった一撃を喰らわせただけで勝ち誇るのは如何なものかと……」
炎獄の女神・アスカの一撃により、魔竜はその身体に大きなダメージを負っていた。両手、両足を業炎で包んだアスカはその顔に満面の笑みを浮かべ、更なる戦闘に心を震わせる。
相変わらずの戦闘狂っぷりを発揮するアスカを見て、白銀の髪を揺らす聖輝の女神・ダイアナはやれやれ……といった様子でため息を漏らす。白銀の髪、白銀の甲冑ドレスを風に靡かせる少女は、女神の中で最も破壊力の高いアスカの攻撃を耐えた魔竜に対して、決して油断するようなことはしない。
「次は私が行きます」
「ふむ、我だけが戦うのは卑怯、卑劣、不平等というものだなッ! 見せてやるといい、白銀の騎士が持つ力というものをッ!」
「……上から目線の言葉が気に入りませんが、いいでしょう」
魔竜が悲痛な咆哮を上げ続ける中で、再び世界を守護する女神たちが動き出す。
闇夜を駆ける一筋の光となるのは、白銀の甲冑ドレスに身を纏った少女。
彼女はその右手に世界誕生と共に生まれたとされる『聖剣』を握っている。誰もその名を知らず、しかし聖剣は気が遠くなるほどの膨大な魔力を内包している。
「――――ッ!」
再び飛び出してきた女神たちを前に、魔竜もタダでやられ続ける訳にはいかなかった。紅蓮の瞳を輝かせると、己がもつ魔力を存分に放出していく。
周囲一帯に響き渡る咆哮。大地が激しく揺れ動き、魔竜の周囲に無数の火球が姿を見せる。火球たちは魔竜の意志に従い、小柄な少女たちを飲み込もうと跳躍を開始する。
「……魔竜というのも案外、頭が悪いみたいね」
「――――ッ!」
魔竜が放つ火球も、ダイアナたち女神たちからすれば回避することは容易なものであった。一つ一つが凄まじい破壊力を擁しているとしても、彼女たちは空中を自在に滑空できるため、当たらねばどうということはないのである。
「この子、強いのはいいんだけど……少し準備に時間が掛かるのが難点ね……」
「ふふふ……ダイアナよ、油断するのは良くないぞ?」
「なに、アスカ? この私が油断なんて――」
雨のように降り注ぐ火球攻撃を難なく回避し続けるダイアナに対して、少し離れた位置で様子を見守っていたアスカが不穏な言葉を漏らす。鼓膜を震わせたアスカの言葉に眉を顰めるダイアナ。
「――――ッ!」
そんな彼女たちの言葉を遮るように、再び魔竜の咆哮が響き渡る。
次の瞬間、雨のように振り続ける火球たちに混ざるようにして、木の根が姿を現し始める。魔竜が扱えるのは火球による炎魔法だけではなく、大樹を操る創世魔法すらも自在に操ることができるのだ。
「……なるほどね」
絶え間ない火球攻撃。それに付随して先端が鋭利に尖った木の根がダイアナの身体を貫こうと飛翔してくる。
火球による攻撃だけでも凄まじい連撃だという中で、そこへ無数の木の根による刺突攻撃も加わり、ダイアナは自らが攻撃する余裕すらなく、回避することだけに専念することを余儀なくされる。
「どれだけの攻撃を仕掛けてこようが……この剣の前には全てが無意味」
甲冑ドレスを翻し、表情一つ変えることなく魔竜の攻撃を回避し続けるダイアナ。
「……攻防一体の完成された聖騎士。彼女を現す言葉として、最も相応しい」
一切の無駄が存在しないダイアナの身のこなし、それは傍から見る者を魅了する。
アスカもまたダイアナの動きに魅了された一人であり、彼女が踊るように相手の攻撃を躱し続ける姿にはいつも笑みが漏れてしまう。
「もう少し……もう少し時間が掛かる……」
魔竜が放つ攻撃をギリギリのところで躱し続けるダイアナ。彼女はここまでの間に一回も魔竜に対して反撃を行っていない。
「――もう少し」
どれだけの人間が気付いているだろうか。
一秒。また一秒と時間が経過する度に彼女が持つ聖剣に魔力が充填されていることに。
「――――ッ!」
当たらない攻撃を続けることは、魔竜にとってもストレスが強く、苛立ちが募った咆哮を上げる。火球と木の根による攻撃を続けたまま、魔竜は口を大きく開くと炎渦を吐き出していく。
回避のしようがない魔竜の攻撃。
しかし、ダイアナはそれでも表情を変えることなく、涼しい顔で迫る攻撃を待ち受ける。
「……準備完了ね」
あと数秒。
それが彼女と魔竜の攻防に決定的な結果を生んでしまった。
「聖なる輝きよ、世界を両断せよ――聖輝一刀ッ!」
世界誕生の聖剣から放たれるのは、絶対の破壊をもたらす聖なる斬撃。
周囲を眩い輝きに包みながら、聖剣から放たれる斬撃が一筋の光となって魔竜の巨体を包み込んでいく。
「――――ッ!」
光に包まれながら、魔竜の咆哮が響く。
世界に顕現せし、女神たちは混沌に支配されようとした世界に確かな変化を与えようとしていた。
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