終末の異世界と大罪のグリモワール ~英霊は異世界で斯く戦えり~
第五章31 砂塵の試練ⅩⅩ:剣聖姫の誕生
「私……ここまで……なの……?」
絶望のハイラント王国。
かつて世界的に見ても平和だった国家は元王族であり、何かしらの理由により王国から追放された少年、ルイス・ハイラントの手によって壊滅しようとしていた。
過去に世界を滅ぼし、支配していた魔竜の力を自在に使役できるルイスが放つ攻撃を前に、剣姫としての力を手にしたリーシアも苦戦を強いられてしまう。
戦闘経験は皆無。
それどころか外に出ることすら初めての少女に、強大な力を持つ敵を討てというのはあまりにも酷な話であるのは間違いない。しかし、今のハイラント王国において、ルイスと戦うことが出来る存在は剣姫・リーシアしか居ないのは事実であり、彼女の敗北。すなわちそれはハイラント王国の滅亡を意味しているのであった。
「ふぅ……ようやく捕まったね」
「あっ……くッ……」
「あー、動かない方がいいよ? 少しでも変な動きを見せたら、今すぐにでもその花を爆発させたっていいんだよ?」
魔竜・アーク。
それはかつて存在した魔竜の一匹であり、凍てつく絶対零度の魔力をその身に宿した存在である。
「――氷輪百花。とても美しい魔法だ。どんなに醜い存在でも、最後には美しい氷の花を咲かせることが出来るのだから」
「…………」
リーシアの身体には余すところなく氷の花が咲き乱れている。
僅かに見えているリーシアの肌に空から舞い降りる氷が付着すると、そこから新たな花が咲き誇る。リーシアの視界は美しい氷の花で埋め尽くされ、身動きすら取ることができない状況へと追いやられていた。
絶体絶命。
少女の命はルイスの一言にのみコントロールされる状況下であり、塞がれていく視界の中で、リーシアは自分の限界を悟ることとなった。
「やっぱり、私には無理だったのなかなぁ……」
リーシアが漏らす言葉に反応する者はいない。
美しいハイラント王国の城下町は見るも無残に破壊の限りを尽くされ、魔獣たちの攻撃から逃れた人々は王城へ避難している。今、この城下町に存在するのはリーシアと襲撃者であるルイスだけなのである。
異様な静寂に包まれる城下町で、リーシアは誰にも知られることなくその命を落とそうとしているのだ。
「……あの時、ルイーズの言葉を聞いてたら、違った人生になったのかな」
脳裏に蘇ってくるのは、窮屈でも楽しい生活を送っていた日々だった。
生まれながらにして王城での生活を強いられていたリーシアは王城で外に出られないことを除いては、充実した生活を送ることが出来ていた。それが、ちょっとした好奇心によって激変することとなり、そして短い人生の幕を下ろそうとしているのだ。
「まぁ、でも……こうなる運命だった……って、ことなのかな」
どうすることもできない必然の運命。
眼前に迫る『死』に対して恐怖心がないと言えば嘘になるが、リーシアは涙を流して喚くようなことはしなかった。
短い人生ではあったのだが、それでも彼女にとってこれまでの人生は決して悪いものではなかったからである。幸せだった、充実していた。他人がどう思おうが関係ない、リーシア・ハイラントと名乗る少女はこれまでの人生に充実感を感じているのだ。だから、今ここで死んだとしても、後悔はない。
「ふん、そろそろ時間かな……もう喋ることも出来ないみたいだし……これで終わりにしよう」
ルイスの声音がリーシアの鼓膜を僅かに震わせる。
いよいよ、その時が近づいていることの証拠であり、リーシアは静かに目を閉じてその時を待つ。
『守りたいものがあるのではなかったのか?』
「――ッ!?」
それは脳裏に響く声音。
リーシアが何故、ここまでして戦ったのかを問う言葉であった。
『主よ、諦めるのか?』
「だ、だって……」
『ここで主が死ねば、間違いなくこの王国は破滅する。誰一人として生き残ることもない。全員が主と同じように死にゆくこととなる』
「そ、それは……だって……私には……どうすることも……」
『――全てを捧げよ』
弱気になるリーシアへ、彼女に剣姫としての力を授けた神竜が覚悟と決意を促す言葉を投げかけていく。
「す、全てを捧げる……?」
『主が持つこれからの人生の全てを、世界を守護するために使うのだ』
「私の……これからの人生……?」
『そう。この要求を承諾した時、主が持つ残りの人生の全てを世界平和のために使うこととなる』
「…………」
『さすれば私は主に真なる剣姫としての力を授けよう』
「……真なる剣姫?」
『聖なる力をその身に宿し存在。その力は世界を守るために使われる』
「…………」
『目を閉じ、その名を唱えよ――手に持つ聖剣の名をッ!』
つい先程まで普通の女の子であったリーシア・ハイラント。
彼女は大きな選択を迫られていた。自分の人生を捨て、人のために、世界のために力を使う。普通の人生との別れを告げることが出来るか、神竜の問いかけに対してリーシアの答えは一つであった。
「力を貸して――聖剣・ハールヴァイトッ!」
右手で握る聖剣の名をリーシアは叫ぶ。
自然と頭の中に入ってきたその言葉を唱えるのと同時に、体内から膨大な力が溢れ出てくる。
「……なに?」
リーシアの体内から溢れ出る力は、彼女の身体を覆っていた氷花を瞬時に消滅させていく。聖剣・ハールヴァイトから放たれる金色の光を見るなり、ルイスの表情が僅かに歪む。
「私が全部守る。この力でッ!」
氷花を力で消し、リーシアは強い決意をその瞳に宿してルイスを睨む。
神竜が授けし剣姫の力。
『主は今、剣聖姫へと覚醒した。その力を持って敵を討てッ』
「これが……剣聖姫……」
今までとは比べ物にならない強大な力。
体中から溢れ出る力に、リーシアは確かな手応えを感じ、対峙するルイスは先ほどまでとは全く違うリーシアの姿に眉を顰める。
「はぁ……全く、手こずらせるね君は……」
「貴方を倒す。そして、この王国を……守るッ!」
絶望渦巻くハイラント王国での戦い。
それは一縷の望みと共に最終局面へと突き進んでいくのであった。
絶望のハイラント王国。
かつて世界的に見ても平和だった国家は元王族であり、何かしらの理由により王国から追放された少年、ルイス・ハイラントの手によって壊滅しようとしていた。
過去に世界を滅ぼし、支配していた魔竜の力を自在に使役できるルイスが放つ攻撃を前に、剣姫としての力を手にしたリーシアも苦戦を強いられてしまう。
戦闘経験は皆無。
それどころか外に出ることすら初めての少女に、強大な力を持つ敵を討てというのはあまりにも酷な話であるのは間違いない。しかし、今のハイラント王国において、ルイスと戦うことが出来る存在は剣姫・リーシアしか居ないのは事実であり、彼女の敗北。すなわちそれはハイラント王国の滅亡を意味しているのであった。
「ふぅ……ようやく捕まったね」
「あっ……くッ……」
「あー、動かない方がいいよ? 少しでも変な動きを見せたら、今すぐにでもその花を爆発させたっていいんだよ?」
魔竜・アーク。
それはかつて存在した魔竜の一匹であり、凍てつく絶対零度の魔力をその身に宿した存在である。
「――氷輪百花。とても美しい魔法だ。どんなに醜い存在でも、最後には美しい氷の花を咲かせることが出来るのだから」
「…………」
リーシアの身体には余すところなく氷の花が咲き乱れている。
僅かに見えているリーシアの肌に空から舞い降りる氷が付着すると、そこから新たな花が咲き誇る。リーシアの視界は美しい氷の花で埋め尽くされ、身動きすら取ることができない状況へと追いやられていた。
絶体絶命。
少女の命はルイスの一言にのみコントロールされる状況下であり、塞がれていく視界の中で、リーシアは自分の限界を悟ることとなった。
「やっぱり、私には無理だったのなかなぁ……」
リーシアが漏らす言葉に反応する者はいない。
美しいハイラント王国の城下町は見るも無残に破壊の限りを尽くされ、魔獣たちの攻撃から逃れた人々は王城へ避難している。今、この城下町に存在するのはリーシアと襲撃者であるルイスだけなのである。
異様な静寂に包まれる城下町で、リーシアは誰にも知られることなくその命を落とそうとしているのだ。
「……あの時、ルイーズの言葉を聞いてたら、違った人生になったのかな」
脳裏に蘇ってくるのは、窮屈でも楽しい生活を送っていた日々だった。
生まれながらにして王城での生活を強いられていたリーシアは王城で外に出られないことを除いては、充実した生活を送ることが出来ていた。それが、ちょっとした好奇心によって激変することとなり、そして短い人生の幕を下ろそうとしているのだ。
「まぁ、でも……こうなる運命だった……って、ことなのかな」
どうすることもできない必然の運命。
眼前に迫る『死』に対して恐怖心がないと言えば嘘になるが、リーシアは涙を流して喚くようなことはしなかった。
短い人生ではあったのだが、それでも彼女にとってこれまでの人生は決して悪いものではなかったからである。幸せだった、充実していた。他人がどう思おうが関係ない、リーシア・ハイラントと名乗る少女はこれまでの人生に充実感を感じているのだ。だから、今ここで死んだとしても、後悔はない。
「ふん、そろそろ時間かな……もう喋ることも出来ないみたいだし……これで終わりにしよう」
ルイスの声音がリーシアの鼓膜を僅かに震わせる。
いよいよ、その時が近づいていることの証拠であり、リーシアは静かに目を閉じてその時を待つ。
『守りたいものがあるのではなかったのか?』
「――ッ!?」
それは脳裏に響く声音。
リーシアが何故、ここまでして戦ったのかを問う言葉であった。
『主よ、諦めるのか?』
「だ、だって……」
『ここで主が死ねば、間違いなくこの王国は破滅する。誰一人として生き残ることもない。全員が主と同じように死にゆくこととなる』
「そ、それは……だって……私には……どうすることも……」
『――全てを捧げよ』
弱気になるリーシアへ、彼女に剣姫としての力を授けた神竜が覚悟と決意を促す言葉を投げかけていく。
「す、全てを捧げる……?」
『主が持つこれからの人生の全てを、世界を守護するために使うのだ』
「私の……これからの人生……?」
『そう。この要求を承諾した時、主が持つ残りの人生の全てを世界平和のために使うこととなる』
「…………」
『さすれば私は主に真なる剣姫としての力を授けよう』
「……真なる剣姫?」
『聖なる力をその身に宿し存在。その力は世界を守るために使われる』
「…………」
『目を閉じ、その名を唱えよ――手に持つ聖剣の名をッ!』
つい先程まで普通の女の子であったリーシア・ハイラント。
彼女は大きな選択を迫られていた。自分の人生を捨て、人のために、世界のために力を使う。普通の人生との別れを告げることが出来るか、神竜の問いかけに対してリーシアの答えは一つであった。
「力を貸して――聖剣・ハールヴァイトッ!」
右手で握る聖剣の名をリーシアは叫ぶ。
自然と頭の中に入ってきたその言葉を唱えるのと同時に、体内から膨大な力が溢れ出てくる。
「……なに?」
リーシアの体内から溢れ出る力は、彼女の身体を覆っていた氷花を瞬時に消滅させていく。聖剣・ハールヴァイトから放たれる金色の光を見るなり、ルイスの表情が僅かに歪む。
「私が全部守る。この力でッ!」
氷花を力で消し、リーシアは強い決意をその瞳に宿してルイスを睨む。
神竜が授けし剣姫の力。
『主は今、剣聖姫へと覚醒した。その力を持って敵を討てッ』
「これが……剣聖姫……」
今までとは比べ物にならない強大な力。
体中から溢れ出る力に、リーシアは確かな手応えを感じ、対峙するルイスは先ほどまでとは全く違うリーシアの姿に眉を顰める。
「はぁ……全く、手こずらせるね君は……」
「貴方を倒す。そして、この王国を……守るッ!」
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