終末の異世界と大罪のグリモワール ~英霊は異世界で斯く戦えり~
第五章32 砂塵の試練ⅩⅩⅠ:希望の狼煙
「はぁ……全く、手こずらせるね君は……」
魔竜の力を体内に宿した少年であり、ハイラント王国の王族である少年ルイス・ハイラントの手により、かつて平和の象徴とも言える国家だったハイラントは壊滅の瞬間を迎えようとしていた。
ルイス・ハイラントが放つ魔竜の力を、王国の騎士たちが持つ力では防ぐことが出来ず、しかしそんな少年の前に立ち塞がる存在があった。
「この力……すごい……」
破滅と滅亡をもたらすルイスの前に立ち塞がったのは、彼と同じく王族として生まれ、そして悲劇的な運命を歩んできた少女・リーシアだった。彼女は金色の髪を持つという理由だけで、国民から存在を隠され王城の中に幽閉されていた。
ルイスもまた過去に王国から卑劣な扱いを受けた人物であり、似たような二人なのであったが、それでもリーシアは自分が生まれ、そして育ってきたハイラントという名の王国を守るという選択を取った。
「本当に君は理解し難い存在だ。どうして、そこまでしたこの王国を守ろうとする?」
「それは、守りたいものがあるから」
「こんな王国に守る価値があると。君は本気でそう思っているのかい? 俺と同じで、君もまた王国から酷い扱いを受けていたはずだ」
「……私は、酷い仕打ちを受けたとか思ってない。他の人から見たらそう思えるかもしれないけど、私はこの王国で生まれて、そして大切に育てられてきた。育ててくれて、一番近くでずっと見守ってくれた存在があった。私はその人を……命を賭けてでも、守りたい」
少女が語るのは、最も大切な人を守りたいという純粋で強い決意を秘めた想いであった。
彼女の強い想いが圧倒的な力を呼び寄せ、その結果に王国を守るために強大な敵に立ち向かうことが出来るのであった。
「……ふん、くだらない。どうして、その大切なものというのが裏切らないと信用できる? 人間というのは、誰しも心内に暗い感情をもっている。どうして、裏切られないと自信をもって断言できる?」
「…………」
「そんな不安定な存在を守るために命を賭ける? 全く理解に苦しむ。孤独であることが至高であることに間違いはない。孤独であり、そしてあらゆるものの頂点に立てばこそ、そのようなくだらない想いや考えから解放される」
「……私と貴方は相容れない。貴方がしようとしていることが悪であることに間違いない。私はこの王国だけじゃない、世界を守るために貴方を倒す」
「少し力を付けたからって調子に乗るなよ……」
「いくよ、ハールヴァイトッ!」
右手に握る聖剣・ハールヴァイトを力強く握りしめると、リーシアは地面を力強く蹴って宙を舞う。甲冑ドレスが風に靡き、誰もが目を奪われる華麗な跳躍から、ルイスとの距離を一気に詰めていく。
「堕ちろッ!」
接近を果たそうとするリーシアに対して、ルイスは冷静な様子で展開していた魔竜の力を再び行使していく。ルイスの呼びかけに応じて、リーシアたちの頭上に存在する曇天から稲妻と氷花がドレスを翻すリーシアへと殺到していく。
『大丈夫か、主?』
「うん。さっきとは違って、今なら全部見えるッ!」
手加減の一切ないルイスの攻撃。
先ほどまでは対処することすら叶わなかった強大な攻撃を前にしても、リーシアは冷静な様子を崩さずその目で全ての攻撃を捉える。剣姫として更なる進化を果たしたリーシアは自らの身体能力が極限にまで高められており、それは魔竜の攻撃をもってしても彼女を捉えることは難しい。
「はああぁああああぁぁあッ!」
真っ先に突っ込んでくる稲光をリーシアは凄まじい速さと軽やかな身のこなしで完璧に躱していく。更に、そんな彼女の身体を取り囲もうとする氷花に対しては、右手に握った聖剣を思い切り横薙ぎにすることで暴風を発生させ、その全てを瞬時に消し去っていく。
「――ッ!?」
「てやっ、はあぁッ……!」
魔竜が持つ力を存分に振るう中で、その全てに対して完璧に対応してくるリーシアを前にして、さすがのルイスもその表情を曇らせる。唇を噛み、苛立たしげに自分への距離を詰めてくるリーシアを睨みつける。
「厄介だな……魔竜・アーク、ティア……もっとだ、もっと力を寄越せッ!」
「――――ッ!?」
ルイスの苛立ちを含んだ声音が響くと、リーシアの頭上に存在する曇天に変化が現れる。ルイスの言葉に呼応するかのように、曇天から降り注ぐ稲妻と氷花の勢いが強くなっていく。
リーシアたちが立つ城下町の広場はそこだけが嵐に見舞われたかのような様子を呈しており、絶え間なく襲い掛かってくる稲妻と氷花を前に、さすがのリーシアも一度停止することを余儀なくされる。
『どうする、主。ここは一旦引いて――』
「大丈夫――皇光の一刀ッ!」
手に握る聖剣・ハールヴァイトへありったけの力を込めると、金色の剣が眩い輝きを放ち始める。ハイラント王国を包み込むような強大な力が少女に集中すると、その力を解き放つようにしてリーシアの怒号が響き渡る。
「――――ッ!?」
思い切り真横に薙ぎ払うようにすると、輝きを放つ聖剣から巨大な三日月状の斬撃が出現する。
「いけええええええええええぇぇぇぇッ!」
生成された斬撃はリーシアへ殺到する稲妻と氷花を巻き込みながら上空へと駆け上っていく。凄まじい魔力を秘めた斬撃は眼前に存在するあらゆるものを消失させながら、どこまでも飛翔していく。
「やったッ!」
リーシアが放った斬撃は頭上に存在していた曇天すらも消し去ると、その先に広がっていた青空を出現させる。
「まさか、これほどまでとはね……」
「よそ見してる暇はないよッ!」
「――ッ!?」
自らが発生させた魔竜の力をたった一撃で打ち破ったリーシアの力を目の当たりにして、ルイスはその目を見開き驚きを隠すことができない。唖然とするルイスへ追い打ちをかけるため、リーシアはすぐさま体勢を立て直すと再びの跳躍を見せていく。
「くそッ!」
「はああぁああああぁぁあッ!」
甲冑ドレスを翻すリーシアの動きを止めるものは存在しない。
地面を蹴り、跳躍を繰り返すリーシアを視界に捉えると、ルイスは舌打ちを漏らしながら再び右手を突き出してく。
「――炎破竜神ッ!」
接近するリーシアに対して、ルイスは魔竜・エルダが持つ業炎を伴う炎渦を生成していく。
「「――――ッ!」」
極限にまで接近を果たした両者は、互いがもつ力を存分にぶつけ合う。
強烈な衝撃波が周囲に広がり、それに少し遅れて轟音が響き渡る。
「くそッ、くそッ……こんなの聞いてないぞッ……!」
「まだまだぁッ!」
「――――ッ!?」
最初の衝突により、体勢を崩したルイスは大きな舌打ちを漏らして後退を余儀なくされていた。元は騎士であるルイス・ハイラントも魔竜の力を手にしてからは、近距離での戦闘経験が全くなくなってしまった。
それ以外にもリーシアが持つ強大な力を前に近距離による衝突は危険と判断しての行動だったのだが、王国を背負って戦う少女の覚悟と力をルイスはまだ理解してはいなかった。
「――聖なる剣輝ッ!」
二人が衝突した場所には巨大な粉塵が立ち上っていたのだが、それを切り裂くようにして姿を現したのは、金色に輝く聖剣を手にしたリーシア・ハイラントだった。
ルイスが咄嗟の判断で後退したのを見て、リーシアは手を緩めることなく追撃を仕掛けていく。
「くっそぉッ……魔竜・ギヌスッ……グラン・フォルッ!」
リーシアの姿を認識した瞬間、彼女が放つ攻撃から完全に逃げ切ることは不可能と判断し、ルイスは咄嗟に魔竜・ギヌスの力を行使していく。
大樹の根を自在に操ることが出来る異能を使い、自分とリーシアの間に木の根で作った壁を生成していくルイス。木の根を使ってリーシアの攻撃を防ごうと考えての行動だったのだが、少女が放つ斬撃の威力は即席で作った防御手段で防げるはずがなかった。
「ぐあああああぁぁぁぁッ!」
凄まじい衝撃がルイスの全身を襲い、少年の身体は遥か後方へと吹き飛ばされていく。
「はぁ、はあぁ……や、やった……かな……?」
『いや、まだだ。邪悪なる力は消えていない』
ルイスの身体は後方に存在していた民家へと直撃し、粉塵の中へと消えていく。
想像を絶する力に飲み込まれ、多少の手応えを感じていたリーシアだったが、ルイスの存在はまだ健在である。
「はぁ、はあぁ、はぁ……くッ……さすがに、君のような小娘がここまでやるなんてね……予想外もいいところだ……」
「あれで倒れないなんて……貴方も相当にタフだね……」
「あぁ……俺はやられる訳にはいかないんだよ。絶対に、何があっても……」
粉塵の中からよろよろと身体を揺らしながら出て来るルイス。
服が破け、露出された肌からは鮮血が零れている。つい先ほどまで余裕ぶった様子を崩さなかったルイスも、さすがに焦燥感を隠すことが出来ず、苛立たしげに声を漏らす。
「はぁ……予定が全部、崩れてしまった。まさかこんなところで全力を出さないといけないなんてね……」
「…………」
「許さないぞ、剣姫……」
「…………」
土埃で汚れた顔から覗く紅蓮の瞳。
それは隠そうともしない憎しみに満ちており、生まれて初めて突き付けられる憎しみの感情にリーシアは思わず生唾を飲んでしまう。
「必ず野望は果たす。それが少し先に伸びてしまうだけだ」
「何を言っているの?」
「ギヌス、ティア、アーク、エルダ……俺にその力の全てを貸せッ!」
その言葉と共にハイラント王国をこの日一番の地震が襲いかかる。
正常に立っていることすら不可能な揺れの中、リーシアは今までに感じたことのない強烈な禍々しき魔力を感じる。
『まさか、こんなことが……』
「な、なに……あれ……?」
凄まじい揺れの中で、リーシアと神竜が見たのは禍々しき黒竜をその身に纏ったルイス・ハイラントの姿だった。
金色の髪、紅蓮の瞳、そして黒光りする竜の鱗を身に纏った手足。
かろうじて人間としての原型を留めているルイス・ハイラントの姿がそこにはあって、しかし彼の背中には自身の身体を容易に包み込める巨大な黒翼と、下半身から生える禍々しい黒竜の尻尾が存在していた。
「全ての魔竜が一つに融合し、世界に破滅を伝えし真なる黒竜……それが、この姿さ」
世界に破滅を伝えし真なる魔竜。
自らが所持する魔竜と融合を果たしたルイス・ハイラント。
少年が放つ禍々しき魔力は瞬く間の内に全世界へと轟く。
「さぁ、全てを終わらせよう」
ハイラント王国を舞台にした壮絶なる戦い。
それは一縷の希望を生みながらも、再び絶望への道を進もうとしているのであった。
魔竜の力を体内に宿した少年であり、ハイラント王国の王族である少年ルイス・ハイラントの手により、かつて平和の象徴とも言える国家だったハイラントは壊滅の瞬間を迎えようとしていた。
ルイス・ハイラントが放つ魔竜の力を、王国の騎士たちが持つ力では防ぐことが出来ず、しかしそんな少年の前に立ち塞がる存在があった。
「この力……すごい……」
破滅と滅亡をもたらすルイスの前に立ち塞がったのは、彼と同じく王族として生まれ、そして悲劇的な運命を歩んできた少女・リーシアだった。彼女は金色の髪を持つという理由だけで、国民から存在を隠され王城の中に幽閉されていた。
ルイスもまた過去に王国から卑劣な扱いを受けた人物であり、似たような二人なのであったが、それでもリーシアは自分が生まれ、そして育ってきたハイラントという名の王国を守るという選択を取った。
「本当に君は理解し難い存在だ。どうして、そこまでしたこの王国を守ろうとする?」
「それは、守りたいものがあるから」
「こんな王国に守る価値があると。君は本気でそう思っているのかい? 俺と同じで、君もまた王国から酷い扱いを受けていたはずだ」
「……私は、酷い仕打ちを受けたとか思ってない。他の人から見たらそう思えるかもしれないけど、私はこの王国で生まれて、そして大切に育てられてきた。育ててくれて、一番近くでずっと見守ってくれた存在があった。私はその人を……命を賭けてでも、守りたい」
少女が語るのは、最も大切な人を守りたいという純粋で強い決意を秘めた想いであった。
彼女の強い想いが圧倒的な力を呼び寄せ、その結果に王国を守るために強大な敵に立ち向かうことが出来るのであった。
「……ふん、くだらない。どうして、その大切なものというのが裏切らないと信用できる? 人間というのは、誰しも心内に暗い感情をもっている。どうして、裏切られないと自信をもって断言できる?」
「…………」
「そんな不安定な存在を守るために命を賭ける? 全く理解に苦しむ。孤独であることが至高であることに間違いはない。孤独であり、そしてあらゆるものの頂点に立てばこそ、そのようなくだらない想いや考えから解放される」
「……私と貴方は相容れない。貴方がしようとしていることが悪であることに間違いない。私はこの王国だけじゃない、世界を守るために貴方を倒す」
「少し力を付けたからって調子に乗るなよ……」
「いくよ、ハールヴァイトッ!」
右手に握る聖剣・ハールヴァイトを力強く握りしめると、リーシアは地面を力強く蹴って宙を舞う。甲冑ドレスが風に靡き、誰もが目を奪われる華麗な跳躍から、ルイスとの距離を一気に詰めていく。
「堕ちろッ!」
接近を果たそうとするリーシアに対して、ルイスは冷静な様子で展開していた魔竜の力を再び行使していく。ルイスの呼びかけに応じて、リーシアたちの頭上に存在する曇天から稲妻と氷花がドレスを翻すリーシアへと殺到していく。
『大丈夫か、主?』
「うん。さっきとは違って、今なら全部見えるッ!」
手加減の一切ないルイスの攻撃。
先ほどまでは対処することすら叶わなかった強大な攻撃を前にしても、リーシアは冷静な様子を崩さずその目で全ての攻撃を捉える。剣姫として更なる進化を果たしたリーシアは自らの身体能力が極限にまで高められており、それは魔竜の攻撃をもってしても彼女を捉えることは難しい。
「はああぁああああぁぁあッ!」
真っ先に突っ込んでくる稲光をリーシアは凄まじい速さと軽やかな身のこなしで完璧に躱していく。更に、そんな彼女の身体を取り囲もうとする氷花に対しては、右手に握った聖剣を思い切り横薙ぎにすることで暴風を発生させ、その全てを瞬時に消し去っていく。
「――ッ!?」
「てやっ、はあぁッ……!」
魔竜が持つ力を存分に振るう中で、その全てに対して完璧に対応してくるリーシアを前にして、さすがのルイスもその表情を曇らせる。唇を噛み、苛立たしげに自分への距離を詰めてくるリーシアを睨みつける。
「厄介だな……魔竜・アーク、ティア……もっとだ、もっと力を寄越せッ!」
「――――ッ!?」
ルイスの苛立ちを含んだ声音が響くと、リーシアの頭上に存在する曇天に変化が現れる。ルイスの言葉に呼応するかのように、曇天から降り注ぐ稲妻と氷花の勢いが強くなっていく。
リーシアたちが立つ城下町の広場はそこだけが嵐に見舞われたかのような様子を呈しており、絶え間なく襲い掛かってくる稲妻と氷花を前に、さすがのリーシアも一度停止することを余儀なくされる。
『どうする、主。ここは一旦引いて――』
「大丈夫――皇光の一刀ッ!」
手に握る聖剣・ハールヴァイトへありったけの力を込めると、金色の剣が眩い輝きを放ち始める。ハイラント王国を包み込むような強大な力が少女に集中すると、その力を解き放つようにしてリーシアの怒号が響き渡る。
「――――ッ!?」
思い切り真横に薙ぎ払うようにすると、輝きを放つ聖剣から巨大な三日月状の斬撃が出現する。
「いけええええええええええぇぇぇぇッ!」
生成された斬撃はリーシアへ殺到する稲妻と氷花を巻き込みながら上空へと駆け上っていく。凄まじい魔力を秘めた斬撃は眼前に存在するあらゆるものを消失させながら、どこまでも飛翔していく。
「やったッ!」
リーシアが放った斬撃は頭上に存在していた曇天すらも消し去ると、その先に広がっていた青空を出現させる。
「まさか、これほどまでとはね……」
「よそ見してる暇はないよッ!」
「――ッ!?」
自らが発生させた魔竜の力をたった一撃で打ち破ったリーシアの力を目の当たりにして、ルイスはその目を見開き驚きを隠すことができない。唖然とするルイスへ追い打ちをかけるため、リーシアはすぐさま体勢を立て直すと再びの跳躍を見せていく。
「くそッ!」
「はああぁああああぁぁあッ!」
甲冑ドレスを翻すリーシアの動きを止めるものは存在しない。
地面を蹴り、跳躍を繰り返すリーシアを視界に捉えると、ルイスは舌打ちを漏らしながら再び右手を突き出してく。
「――炎破竜神ッ!」
接近するリーシアに対して、ルイスは魔竜・エルダが持つ業炎を伴う炎渦を生成していく。
「「――――ッ!」」
極限にまで接近を果たした両者は、互いがもつ力を存分にぶつけ合う。
強烈な衝撃波が周囲に広がり、それに少し遅れて轟音が響き渡る。
「くそッ、くそッ……こんなの聞いてないぞッ……!」
「まだまだぁッ!」
「――――ッ!?」
最初の衝突により、体勢を崩したルイスは大きな舌打ちを漏らして後退を余儀なくされていた。元は騎士であるルイス・ハイラントも魔竜の力を手にしてからは、近距離での戦闘経験が全くなくなってしまった。
それ以外にもリーシアが持つ強大な力を前に近距離による衝突は危険と判断しての行動だったのだが、王国を背負って戦う少女の覚悟と力をルイスはまだ理解してはいなかった。
「――聖なる剣輝ッ!」
二人が衝突した場所には巨大な粉塵が立ち上っていたのだが、それを切り裂くようにして姿を現したのは、金色に輝く聖剣を手にしたリーシア・ハイラントだった。
ルイスが咄嗟の判断で後退したのを見て、リーシアは手を緩めることなく追撃を仕掛けていく。
「くっそぉッ……魔竜・ギヌスッ……グラン・フォルッ!」
リーシアの姿を認識した瞬間、彼女が放つ攻撃から完全に逃げ切ることは不可能と判断し、ルイスは咄嗟に魔竜・ギヌスの力を行使していく。
大樹の根を自在に操ることが出来る異能を使い、自分とリーシアの間に木の根で作った壁を生成していくルイス。木の根を使ってリーシアの攻撃を防ごうと考えての行動だったのだが、少女が放つ斬撃の威力は即席で作った防御手段で防げるはずがなかった。
「ぐあああああぁぁぁぁッ!」
凄まじい衝撃がルイスの全身を襲い、少年の身体は遥か後方へと吹き飛ばされていく。
「はぁ、はあぁ……や、やった……かな……?」
『いや、まだだ。邪悪なる力は消えていない』
ルイスの身体は後方に存在していた民家へと直撃し、粉塵の中へと消えていく。
想像を絶する力に飲み込まれ、多少の手応えを感じていたリーシアだったが、ルイスの存在はまだ健在である。
「はぁ、はあぁ、はぁ……くッ……さすがに、君のような小娘がここまでやるなんてね……予想外もいいところだ……」
「あれで倒れないなんて……貴方も相当にタフだね……」
「あぁ……俺はやられる訳にはいかないんだよ。絶対に、何があっても……」
粉塵の中からよろよろと身体を揺らしながら出て来るルイス。
服が破け、露出された肌からは鮮血が零れている。つい先ほどまで余裕ぶった様子を崩さなかったルイスも、さすがに焦燥感を隠すことが出来ず、苛立たしげに声を漏らす。
「はぁ……予定が全部、崩れてしまった。まさかこんなところで全力を出さないといけないなんてね……」
「…………」
「許さないぞ、剣姫……」
「…………」
土埃で汚れた顔から覗く紅蓮の瞳。
それは隠そうともしない憎しみに満ちており、生まれて初めて突き付けられる憎しみの感情にリーシアは思わず生唾を飲んでしまう。
「必ず野望は果たす。それが少し先に伸びてしまうだけだ」
「何を言っているの?」
「ギヌス、ティア、アーク、エルダ……俺にその力の全てを貸せッ!」
その言葉と共にハイラント王国をこの日一番の地震が襲いかかる。
正常に立っていることすら不可能な揺れの中、リーシアは今までに感じたことのない強烈な禍々しき魔力を感じる。
『まさか、こんなことが……』
「な、なに……あれ……?」
凄まじい揺れの中で、リーシアと神竜が見たのは禍々しき黒竜をその身に纏ったルイス・ハイラントの姿だった。
金色の髪、紅蓮の瞳、そして黒光りする竜の鱗を身に纏った手足。
かろうじて人間としての原型を留めているルイス・ハイラントの姿がそこにはあって、しかし彼の背中には自身の身体を容易に包み込める巨大な黒翼と、下半身から生える禍々しい黒竜の尻尾が存在していた。
「全ての魔竜が一つに融合し、世界に破滅を伝えし真なる黒竜……それが、この姿さ」
世界に破滅を伝えし真なる魔竜。
自らが所持する魔竜と融合を果たしたルイス・ハイラント。
少年が放つ禍々しき魔力は瞬く間の内に全世界へと轟く。
「さぁ、全てを終わらせよう」
ハイラント王国を舞台にした壮絶なる戦い。
それは一縷の希望を生みながらも、再び絶望への道を進もうとしているのであった。
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