終末の異世界と大罪のグリモワール ~英霊は異世界で斯く戦えり~
第五章28 砂塵の試練ⅩⅦ:ハイラントの名を持ちし者
「俺の名前は――ルイス・ハイラント。ハイラント王国の正統な後継者だった男さ」
ハイラント王国を襲撃した張本人である少年と対峙するリーシア。
少年はハイラント王国が忌み嫌う金色の髪をしており、気怠げな表情と仕草が印象的であり、魔竜と呼ばれるかつて世界を支配した最悪の力を使役することが出来る存在であった。
「ハ、ハイラント……?」
「そうさ。それが俺の名前だ……」
ルイス・ハイラント。
その名が鼓膜を震わせた時、リーシアの目がこれ以上ないくらいに見開かれた。それもそのはずであり、眼前に対峙し、ハイラント王国を滅ぼそうとする存在が自分と同じ名を持っている。
ただ、それだけの事実がリーシアにとっては衝撃的であり、信じることが出来ない現実なのであった。
「君の父親は俺の弟……つまり、俺は君の叔父にあたりってことだよね」
「そ、そんな……ど、どうして王族がッ……こんなことをッ……!?」
「俺には果たさなければならない目的がある。そのための通過点として、自分が生まれ育った故郷であるこの国を滅ぼさなければならない。」
金色の髪を持つ少年、ルイス・ハイラントが語るのは己が持つ歪んだ思惑の片鱗。
あまりにも壮大で、あまりにも自己中心的な思惑を聞き、リーシアは驚きと共に心内から燃え上がってくる怒りを感じていた。いくら、今まで外に出たことすらなかった少女でも、ルイスが持つ野望が異常なものであることを理解することは出来た。
「自分勝手な理由で……国を襲って……何の罪もない人たちを殺したって言うのですか!」
「自分勝手な理由? 何の罪もない人たち……?」
「そうですッ! この国は幸せで、平和だった! みんなは笑顔で日々を過ごしていたんですッ、どうしてッ……どうしてそんな人たちが、こんな形で命を奪われないといけないんですかッ!」
溢れる想いが少女の口から紡がれていく。
それはあまりにも純粋な想い。その言葉は大多数の人の心を震わすことが出来るものかもしれない。しかし、眼前に立つ少年にはリーシアが放つ美しいだけの言葉が響くことはない。
「この国は幸せで、平和だった……みんな笑顔で過ごしていた……何の罪もない人たち…………反吐が出る言葉たちだ」
リーシアの言葉を聞き、目を閉じて浴びせられた言葉の全てが持つ意味を理解しようとする。そうしようとした結果、ルイスは誰が見ても明らかな怒りを表情に表すと崩壊する城下町へ唾を吐き捨てる。
「君が見ているハイラント王国の姿……それが全て真実だとでも思っているのかい?」
「そ、それは……」
「この国は見えないところで腐っている。王城に住まう老人たちも、城下町に暮らす人間たちも……芯の部分では自分たちの利を守るためならば、どんな卑劣なことにも手を染める」
ルイスが語る言葉に対して、リーシアは反論することが出来ないでいた。
事実、ハイラント王国は金色の髪を持つリーシアを王城に幽閉していた。国民たちの反発を恐れた王国上層部は、一人の少女が歩むであろう運命を歪めたのだ。
「変化を恐れ、保守的な考えに囚われし王国。時代遅れであり、進化を忘れた王国など滅びてしまえばいい」
「…………」
「それを邪魔するというのなら、俺は君を殺す。そしてこの国を滅ぼし、最後には世界を支配する」
「せ、世界を支配……?」
「争いの無い真に平和な世界を作るためには、統一された王が必要だ。王には力が必要。それならば、俺がその力を示し、世界を支配する王となる」
「な、なにを……そんなこと、出来るはずが……」
『まさか、此奴……』
「りゅ、竜さん? 何か知ってるの……?」
ルイスの言葉を聞き、リーシアの脳内で神竜が言葉を震わせる。
『……この国には、世界を守護する神竜と共に封印される、もう一つの存在がある』
「もう一つの存在……?」
『世界を滅ぼし存在、五つの魔竜を統べる真なる魔竜……ガイア、だ』
「ガ、ガイア……?」
神竜が漏らした新たなる魔竜の名を思わず呟くリーシア。
「……どうして君がその名を知っている? やはり、君は何か危険な匂いがするね」
「え、いや……私は……」
「そう。俺がここに居る真の目的……それはハイラントを滅ぼすこと以外にある」
「…………」
「四大魔竜の力を授かり、俺は世界の王となる資格を得た。後はこの国に眠る魔竜を復活させる。それで、世界は滅び、新たな世界を創造することが出来るんだ」
「…………」
「無駄話はここまでだ。そろそろ、君には死んでもらうよ。俺の計画の邪魔は……誰にもさせない」
自分の目的を語り終え、ルイスはその顔から表情を消すと、その小柄な身体に邪悪なる魔力を集中させていく。
『主よ、あやつはここで倒さなければならない。必ずだ』
「……分かってる」
臨戦態勢を整えていくルイスを前に、リーシアもまた全神経を戦いに集中させていく。
ハイラント王国を守るための戦いは、世界を守るための戦いへと変わろうとしていた。
一人の少女が背負うには重すぎる荷であることに間違いなく、しかしそれでも、剣姫・リーシアは戦わなければならない。大切なものを守るために――。
ハイラント王国を襲撃した張本人である少年と対峙するリーシア。
少年はハイラント王国が忌み嫌う金色の髪をしており、気怠げな表情と仕草が印象的であり、魔竜と呼ばれるかつて世界を支配した最悪の力を使役することが出来る存在であった。
「ハ、ハイラント……?」
「そうさ。それが俺の名前だ……」
ルイス・ハイラント。
その名が鼓膜を震わせた時、リーシアの目がこれ以上ないくらいに見開かれた。それもそのはずであり、眼前に対峙し、ハイラント王国を滅ぼそうとする存在が自分と同じ名を持っている。
ただ、それだけの事実がリーシアにとっては衝撃的であり、信じることが出来ない現実なのであった。
「君の父親は俺の弟……つまり、俺は君の叔父にあたりってことだよね」
「そ、そんな……ど、どうして王族がッ……こんなことをッ……!?」
「俺には果たさなければならない目的がある。そのための通過点として、自分が生まれ育った故郷であるこの国を滅ぼさなければならない。」
金色の髪を持つ少年、ルイス・ハイラントが語るのは己が持つ歪んだ思惑の片鱗。
あまりにも壮大で、あまりにも自己中心的な思惑を聞き、リーシアは驚きと共に心内から燃え上がってくる怒りを感じていた。いくら、今まで外に出たことすらなかった少女でも、ルイスが持つ野望が異常なものであることを理解することは出来た。
「自分勝手な理由で……国を襲って……何の罪もない人たちを殺したって言うのですか!」
「自分勝手な理由? 何の罪もない人たち……?」
「そうですッ! この国は幸せで、平和だった! みんなは笑顔で日々を過ごしていたんですッ、どうしてッ……どうしてそんな人たちが、こんな形で命を奪われないといけないんですかッ!」
溢れる想いが少女の口から紡がれていく。
それはあまりにも純粋な想い。その言葉は大多数の人の心を震わすことが出来るものかもしれない。しかし、眼前に立つ少年にはリーシアが放つ美しいだけの言葉が響くことはない。
「この国は幸せで、平和だった……みんな笑顔で過ごしていた……何の罪もない人たち…………反吐が出る言葉たちだ」
リーシアの言葉を聞き、目を閉じて浴びせられた言葉の全てが持つ意味を理解しようとする。そうしようとした結果、ルイスは誰が見ても明らかな怒りを表情に表すと崩壊する城下町へ唾を吐き捨てる。
「君が見ているハイラント王国の姿……それが全て真実だとでも思っているのかい?」
「そ、それは……」
「この国は見えないところで腐っている。王城に住まう老人たちも、城下町に暮らす人間たちも……芯の部分では自分たちの利を守るためならば、どんな卑劣なことにも手を染める」
ルイスが語る言葉に対して、リーシアは反論することが出来ないでいた。
事実、ハイラント王国は金色の髪を持つリーシアを王城に幽閉していた。国民たちの反発を恐れた王国上層部は、一人の少女が歩むであろう運命を歪めたのだ。
「変化を恐れ、保守的な考えに囚われし王国。時代遅れであり、進化を忘れた王国など滅びてしまえばいい」
「…………」
「それを邪魔するというのなら、俺は君を殺す。そしてこの国を滅ぼし、最後には世界を支配する」
「せ、世界を支配……?」
「争いの無い真に平和な世界を作るためには、統一された王が必要だ。王には力が必要。それならば、俺がその力を示し、世界を支配する王となる」
「な、なにを……そんなこと、出来るはずが……」
『まさか、此奴……』
「りゅ、竜さん? 何か知ってるの……?」
ルイスの言葉を聞き、リーシアの脳内で神竜が言葉を震わせる。
『……この国には、世界を守護する神竜と共に封印される、もう一つの存在がある』
「もう一つの存在……?」
『世界を滅ぼし存在、五つの魔竜を統べる真なる魔竜……ガイア、だ』
「ガ、ガイア……?」
神竜が漏らした新たなる魔竜の名を思わず呟くリーシア。
「……どうして君がその名を知っている? やはり、君は何か危険な匂いがするね」
「え、いや……私は……」
「そう。俺がここに居る真の目的……それはハイラントを滅ぼすこと以外にある」
「…………」
「四大魔竜の力を授かり、俺は世界の王となる資格を得た。後はこの国に眠る魔竜を復活させる。それで、世界は滅び、新たな世界を創造することが出来るんだ」
「…………」
「無駄話はここまでだ。そろそろ、君には死んでもらうよ。俺の計画の邪魔は……誰にもさせない」
自分の目的を語り終え、ルイスはその顔から表情を消すと、その小柄な身体に邪悪なる魔力を集中させていく。
『主よ、あやつはここで倒さなければならない。必ずだ』
「……分かってる」
臨戦態勢を整えていくルイスを前に、リーシアもまた全神経を戦いに集中させていく。
ハイラント王国を守るための戦いは、世界を守るための戦いへと変わろうとしていた。
一人の少女が背負うには重すぎる荷であることに間違いなく、しかしそれでも、剣姫・リーシアは戦わなければならない。大切なものを守るために――。
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