終末の異世界と大罪のグリモワール ~英霊は異世界で斯く戦えり~
第五章20 砂塵の試練Ⅸ:初代剣姫
「さぁ、剣を構えなさい。剣姫たる者、剣を持って己を示しなさい」
砂塵での試練。
シルヴィアの前に姿を現したのは、巨大な白銀の竜だった。竜はシルヴィアへ試練を与える存在であり、眼前に立ち塞がる竜を相手に、シルヴィアは全く歯が立たない状況なのであった。
剣姫としての力を使いこなせていないシルヴィアへ、白銀の竜は更なる試練を与えるため、その姿を一人の女性へと変えていくのであった。
白銀の髪と金色の髪が入り混じり、シルヴィアと同じような色や形をした甲冑ドレスに身を包んだ女性は、一本の剣を握るとシルヴィアへそれを突き出していく。
「貴方を倒せばいいのね?」
「まぁ、簡単に言えばそういうこと。だけど、そう簡単には行かないと思うよ?」
自分の外見と酷似していることに強い違和感を覚えつつも、シルヴィアは思考を切り替えると対峙する女性と同じようにして両手に持った二対の剣を突きつける。
「――――」
「――――」
剣を構えた状態で、二人の騎士は沈黙を保っていた。
全身に力を漲らせ、精神を統一させることで何時でも動き出せるように準備を整えていく。異様な静寂が場を支配し、呼吸する音すらも聞こえない絶対の静寂。
「――ッ!」
「――ッ!」
静寂が破られると二人の騎士は全くの同時に飛び出していく。
地面の砂が抉られるほどの踏ん張りから跳躍を開始した二対の剣を持つシルヴィアと一本の剣を握る甲冑ドレスの女性は、愚直なまでに直線的な動きで正面の敵へと突進していく。
「「はあああああああああぁぁぁぁぁッ!」」
轟くは咆哮。
瞬きの間に零距離まで接近を果たすと、思い切り振り上げた剣を振るっていく。
「「――――ッ!」」
防壁内部に強烈な衝撃波が駆け抜けていく。大地が震え、肌が粟立つ感覚が襲い掛かってきて、剣を交えただけでシルヴィアは対峙する女性騎士が持つ実力の高さを痛感することとなった。
少しでも気を抜けばこのまま切り捨てられるという野性的な直感に額から大粒の汗が流れ落ちる。互いの呼吸が感じられる距離にまで接近を果たすことで、対峙する騎士の女性が放つ威圧感が全身を襲ってくる。
「…………ッ!」
圧倒的な強者が放つ威圧。
震えそうになる身体をなんとか抑えて、シルヴィアは唇を強く噛みしめると両手に力を込めていく。
「……力が入りすぎだね。もっとリラックスしなくちゃ」
「…………はっ?」
「えいっ!」
「きゃあああぁぁぁッ!?」
剣と剣を重ね合わせて均衡状態を保っていたシルヴィアだったが、騎士の女性が浮かべた笑みに一瞬だけ気を取られてしまった。体の力が瞬間的に抜けた隙を見逃さず、騎士の女性は浮かべた笑みからは想像できない腕力でシルヴィアを吹き飛ばしていく。
「あ、そーだそーだ。私の名前を教えてなかったね。貴方の名前は教えてもらったのに、私だけ秘密ってのもずるいかな」
「…………」
「私の名前はリーシア。リーシア・ハイラント」
「えっ……ハ、ハイラント――ッ!?」
「ほら、ちょっとでも油断しちゃダメだよ?」
女性騎士の名前を聞いてシルヴィアは驚きの声を漏らす。その名前は自分が生まれ育った故郷の国と同じものであり、その名を冠する人物は漏れなく王族と呼ばれる階級の人間だからである。
リーシアと名乗った女性騎士は油断したシルヴィアが見せた隙を的確に突いてくる。
恐ろしい腕力でシルヴィアを吹き飛ばし、更に追撃を仕掛けようと着地するなり再びの跳躍を見せて距離を詰めてくる。それに対抗するように、シルヴィアも即座に体勢を立て直すと右手に持った『緋剣』を振るっていく。
「――ッ!」
「うん、中々いい反応だね」
「……舐めるなぁッ!」
互いの剣がぶつかり弾け合う。
シルヴィアが放った斬撃をリーシアは完璧に対応してみせ、軽く剣を弾くとすぐさま両手に握った剣を横に薙ぎ払ってくる。風を切って接近してくる両刃剣に対して、シルヴィアは舌打ちを漏らしつつ、左手に持った『蒼剣』でリーシアの剣を受け流しながら、巧みに身体を使って後退する。
「逃げるだけじゃ試練に打ち勝つことは出来ないよ?」
「――くッ!?」
一旦、安全な間合いを作ろうとしたシルヴィアであったが、リーシアは彼女のそんな行動すらも予測していたかのように笑みを浮かべると、両手に持っていた両刃剣をシルヴィアに向けて投擲してくる。
まさか自分が持っている唯一の武器を投げるとは想像すらしてなく、シルヴィアは自分の身体を貫こうと接近してくるリーシアの剣に驚きを隠すことができない。
「おぉ、今のをよく防いだね」
「――ッ!?」
音速で接近する剣に対して、シルヴィアは超人的な反応を見せることで両手に持った剣を振るい弾いていく。甲高い音が防壁内部に響き渡り二本の剣が宙を舞う。
投擲された剣を右手に持った緋剣で弾くシルヴィアだったが、その衝撃で緋剣を手放してしまう。
「剣姫というのはその名の通り、剣を使って己の武を示す者。だけどね、それだけだと真の強者相手には勝てないんだよ」
「なにをッ!?」
「剣に愛され、剣を愛する存在。それが剣姫。だけど、今の貴方はその力に頼っているだけ。助けられているだけ。その力を使いこなしているように見えて、全くその通りではない」
完全に体勢を崩してしまったシルヴィア。
その様子を見て、リーシアは唇を歪ませると再びの跳躍を見せる。身体全体に翼が生えているのかと錯覚するほどに、リーシアの動きは軽快であり美しかった。
剣の腕前だけではなく、身体の使い方すらシルヴィアを圧倒するリーシア。
「こうして、体術も使えるようにしないとね?」
「――ぐぅッ!?」
シルヴィアが体勢を立て直すよりも早く、リーシアは彼女に接近を果たすと身体を思い切り捻って回し蹴りを喰らわしていく。脇腹にめり込むリーシアの足と、それに伴い全身へ駆け巡る激痛。
シルヴィアは苦悶の声を漏らしながら唾液を零し、砂に覆われた大地をどこまでも滑っていく。
「よっとッ……今のは痛かったでしょ?」
「ぐッ……はぁッ……かはッ……あっ、くッ……」
砂を滑り、すぐに立ち上がることすら困難な状況に息を荒げるシルヴィア。
その様子を見ながら、リーシアは自分の剣を回収するとニコッと屈託のない笑みを浮かべるのであった。
「これが剣姫。貴方は私を越えなくてはならない」
「はぁ、はあぁッ……くッ……はあぁッ……」
「私は初代剣姫の名を持つ者、リーシア・ハイラント。真の剣に愛された者だよ」
「…………」
「さぁ、立ちなさい。まだまだ試練は始まったばかりだよ」
未だ倒れ伏すシルヴィアへ、リーシアは立ち上がるように命令する。
「言われなくても、そうするってのッ……」
「……次は、もうちょっと力を出しちゃうからね?」
「…………」
「――死にたくなかったら、貴方も本気で立ち向かってくるんだね」
よろよろと立ち上がるシルヴィアを確認し、リーシアはその顔に笑みを浮かべると再び跳躍を開始する。
「――――」
シルヴィアの左手には蒼剣だけが握られている状態。
そして、未だに脇腹を中心として全身に痛みが走る中、剣姫・リーシアの攻撃を止めることなど出来るはずがない。精悍な顔つき、敵を倒すという強い決意が込められた瞳。シルヴィアはまだ闘志を捨ててはいなかった。
しかし、彼女の脳が命じる動きに対して身体が応えてくれない。
「――――」
命の危機が迫ろうとしていた。
「――私は、死ぬ訳にはいかない」
その言葉は無意識の内にシルヴィアの口から紡がれていた。
そしてそれをトリガーに身体の奥底から湧き出てくる『力の本流』を感じるシルヴィア。これは以前、マガン大陸でも感じた感覚と似ている。
「私は……負ける訳にはいかないッ!」
溢れ出てくる力に身を任せ、シルヴィアは叫ぶ。
それは現代剣姫が持つ命の咆哮なのであった。
砂塵での試練。
シルヴィアの前に姿を現したのは、巨大な白銀の竜だった。竜はシルヴィアへ試練を与える存在であり、眼前に立ち塞がる竜を相手に、シルヴィアは全く歯が立たない状況なのであった。
剣姫としての力を使いこなせていないシルヴィアへ、白銀の竜は更なる試練を与えるため、その姿を一人の女性へと変えていくのであった。
白銀の髪と金色の髪が入り混じり、シルヴィアと同じような色や形をした甲冑ドレスに身を包んだ女性は、一本の剣を握るとシルヴィアへそれを突き出していく。
「貴方を倒せばいいのね?」
「まぁ、簡単に言えばそういうこと。だけど、そう簡単には行かないと思うよ?」
自分の外見と酷似していることに強い違和感を覚えつつも、シルヴィアは思考を切り替えると対峙する女性と同じようにして両手に持った二対の剣を突きつける。
「――――」
「――――」
剣を構えた状態で、二人の騎士は沈黙を保っていた。
全身に力を漲らせ、精神を統一させることで何時でも動き出せるように準備を整えていく。異様な静寂が場を支配し、呼吸する音すらも聞こえない絶対の静寂。
「――ッ!」
「――ッ!」
静寂が破られると二人の騎士は全くの同時に飛び出していく。
地面の砂が抉られるほどの踏ん張りから跳躍を開始した二対の剣を持つシルヴィアと一本の剣を握る甲冑ドレスの女性は、愚直なまでに直線的な動きで正面の敵へと突進していく。
「「はあああああああああぁぁぁぁぁッ!」」
轟くは咆哮。
瞬きの間に零距離まで接近を果たすと、思い切り振り上げた剣を振るっていく。
「「――――ッ!」」
防壁内部に強烈な衝撃波が駆け抜けていく。大地が震え、肌が粟立つ感覚が襲い掛かってきて、剣を交えただけでシルヴィアは対峙する女性騎士が持つ実力の高さを痛感することとなった。
少しでも気を抜けばこのまま切り捨てられるという野性的な直感に額から大粒の汗が流れ落ちる。互いの呼吸が感じられる距離にまで接近を果たすことで、対峙する騎士の女性が放つ威圧感が全身を襲ってくる。
「…………ッ!」
圧倒的な強者が放つ威圧。
震えそうになる身体をなんとか抑えて、シルヴィアは唇を強く噛みしめると両手に力を込めていく。
「……力が入りすぎだね。もっとリラックスしなくちゃ」
「…………はっ?」
「えいっ!」
「きゃあああぁぁぁッ!?」
剣と剣を重ね合わせて均衡状態を保っていたシルヴィアだったが、騎士の女性が浮かべた笑みに一瞬だけ気を取られてしまった。体の力が瞬間的に抜けた隙を見逃さず、騎士の女性は浮かべた笑みからは想像できない腕力でシルヴィアを吹き飛ばしていく。
「あ、そーだそーだ。私の名前を教えてなかったね。貴方の名前は教えてもらったのに、私だけ秘密ってのもずるいかな」
「…………」
「私の名前はリーシア。リーシア・ハイラント」
「えっ……ハ、ハイラント――ッ!?」
「ほら、ちょっとでも油断しちゃダメだよ?」
女性騎士の名前を聞いてシルヴィアは驚きの声を漏らす。その名前は自分が生まれ育った故郷の国と同じものであり、その名を冠する人物は漏れなく王族と呼ばれる階級の人間だからである。
リーシアと名乗った女性騎士は油断したシルヴィアが見せた隙を的確に突いてくる。
恐ろしい腕力でシルヴィアを吹き飛ばし、更に追撃を仕掛けようと着地するなり再びの跳躍を見せて距離を詰めてくる。それに対抗するように、シルヴィアも即座に体勢を立て直すと右手に持った『緋剣』を振るっていく。
「――ッ!」
「うん、中々いい反応だね」
「……舐めるなぁッ!」
互いの剣がぶつかり弾け合う。
シルヴィアが放った斬撃をリーシアは完璧に対応してみせ、軽く剣を弾くとすぐさま両手に握った剣を横に薙ぎ払ってくる。風を切って接近してくる両刃剣に対して、シルヴィアは舌打ちを漏らしつつ、左手に持った『蒼剣』でリーシアの剣を受け流しながら、巧みに身体を使って後退する。
「逃げるだけじゃ試練に打ち勝つことは出来ないよ?」
「――くッ!?」
一旦、安全な間合いを作ろうとしたシルヴィアであったが、リーシアは彼女のそんな行動すらも予測していたかのように笑みを浮かべると、両手に持っていた両刃剣をシルヴィアに向けて投擲してくる。
まさか自分が持っている唯一の武器を投げるとは想像すらしてなく、シルヴィアは自分の身体を貫こうと接近してくるリーシアの剣に驚きを隠すことができない。
「おぉ、今のをよく防いだね」
「――ッ!?」
音速で接近する剣に対して、シルヴィアは超人的な反応を見せることで両手に持った剣を振るい弾いていく。甲高い音が防壁内部に響き渡り二本の剣が宙を舞う。
投擲された剣を右手に持った緋剣で弾くシルヴィアだったが、その衝撃で緋剣を手放してしまう。
「剣姫というのはその名の通り、剣を使って己の武を示す者。だけどね、それだけだと真の強者相手には勝てないんだよ」
「なにをッ!?」
「剣に愛され、剣を愛する存在。それが剣姫。だけど、今の貴方はその力に頼っているだけ。助けられているだけ。その力を使いこなしているように見えて、全くその通りではない」
完全に体勢を崩してしまったシルヴィア。
その様子を見て、リーシアは唇を歪ませると再びの跳躍を見せる。身体全体に翼が生えているのかと錯覚するほどに、リーシアの動きは軽快であり美しかった。
剣の腕前だけではなく、身体の使い方すらシルヴィアを圧倒するリーシア。
「こうして、体術も使えるようにしないとね?」
「――ぐぅッ!?」
シルヴィアが体勢を立て直すよりも早く、リーシアは彼女に接近を果たすと身体を思い切り捻って回し蹴りを喰らわしていく。脇腹にめり込むリーシアの足と、それに伴い全身へ駆け巡る激痛。
シルヴィアは苦悶の声を漏らしながら唾液を零し、砂に覆われた大地をどこまでも滑っていく。
「よっとッ……今のは痛かったでしょ?」
「ぐッ……はぁッ……かはッ……あっ、くッ……」
砂を滑り、すぐに立ち上がることすら困難な状況に息を荒げるシルヴィア。
その様子を見ながら、リーシアは自分の剣を回収するとニコッと屈託のない笑みを浮かべるのであった。
「これが剣姫。貴方は私を越えなくてはならない」
「はぁ、はあぁッ……くッ……はあぁッ……」
「私は初代剣姫の名を持つ者、リーシア・ハイラント。真の剣に愛された者だよ」
「…………」
「さぁ、立ちなさい。まだまだ試練は始まったばかりだよ」
未だ倒れ伏すシルヴィアへ、リーシアは立ち上がるように命令する。
「言われなくても、そうするってのッ……」
「……次は、もうちょっと力を出しちゃうからね?」
「…………」
「――死にたくなかったら、貴方も本気で立ち向かってくるんだね」
よろよろと立ち上がるシルヴィアを確認し、リーシアはその顔に笑みを浮かべると再び跳躍を開始する。
「――――」
シルヴィアの左手には蒼剣だけが握られている状態。
そして、未だに脇腹を中心として全身に痛みが走る中、剣姫・リーシアの攻撃を止めることなど出来るはずがない。精悍な顔つき、敵を倒すという強い決意が込められた瞳。シルヴィアはまだ闘志を捨ててはいなかった。
しかし、彼女の脳が命じる動きに対して身体が応えてくれない。
「――――」
命の危機が迫ろうとしていた。
「――私は、死ぬ訳にはいかない」
その言葉は無意識の内にシルヴィアの口から紡がれていた。
そしてそれをトリガーに身体の奥底から湧き出てくる『力の本流』を感じるシルヴィア。これは以前、マガン大陸でも感じた感覚と似ている。
「私は……負ける訳にはいかないッ!」
溢れ出てくる力に身を任せ、シルヴィアは叫ぶ。
それは現代剣姫が持つ命の咆哮なのであった。
コメント