終末の異世界と大罪のグリモワール ~英霊は異世界で斯く戦えり~
第五章12 砂塵の試練Ⅰ:英雄の壁
「――全員、とにかく西を目指せ」
バルベット大陸の西方に位置するアケロンテ砂漠。
ライガたち一行は、帝国ガリアで重傷を負い、今も目を覚ますことのない航大を救うために西方に眠るとされる、女神との邂逅を目指して『死の砂漠』を進む。
これまで立ち入った者を例外なく葬り去ってきたアケロンテ砂漠には、西方への侵入を拒むように存在する『砂塵の防壁』が存在していた。砂塵の防壁とは、凝縮された猛烈な砂嵐のことであり、人間が立ち入ることすら禁じるようにして存在する砂嵐は壁のようにはるか先まで続いていた。
「……はっ?」
これまで踏破された経験を保たない砂塵の防壁へ、ライガたち一行は砂の村・デミアーナで出会った謎の少女・アリーシャの力を借りて立ち入ることが出来た。
ここまで順調な旅路を進んでいたライガたちに慢心は存在していなかったはずである。
しかし、過酷な環境であるアケロンテ砂漠は、あまりにも唐突な形で一行に試練を与えたのであった。
◆◆◆◆◆
「……んッ?」
砂塵の中を進んでいたライガたち一行は、突如として飛来した巨大な炎球が直撃したことで吹き荒れる嵐の中に放り出された。上も下も右も左も分からないまま、吹き飛ばされたライガは砂の上で一人目を覚ました。
「ここは……?」
すぐには状況を理解することが出来ず、ライガは仰向けに寝ていた身体を起こすと周囲を確認する。
「みんなはッ……?」
まだ覚め切らない頭をフル回転させて、ライガは首を左右に振ることで仲間たちの姿を探す。しかし、砂塵の中にいることも相まって、視界状況は最悪であり見える範囲には人間の姿は存在しない。
「クソッ……全員とはぐれちまったのか……」
吹き荒れる嵐は健在であり、立ち上がることすらやっとな状況でライガは自分が孤立してしまっていることを痛感する。頭の中では、共に進んできた仲間たちの姿が浮かんでは消えを繰り返しており、自然と胸中に焦燥感が芽生えてくる。
「とにかく誰かと合流しなくちゃな……」
このまま立ち止まっていてもしょうがない。
一刻も早く全員と合流しなければならない。
自分がすべきことを確認すると、ライガはその表情に強い決意を灯すと一歩を踏み出していくのであった。
◆◆◆◆◆
「くっそッ……こっちで方向は合ってるのか……?」
孤独に砂嵐の中を進むライガ。
方向感覚なんてものは機能しておらず、ライガは自分が西に進めているのかすらわからない状況である。もしかしたら西とは真逆の東に進んでいる可能性すらあり、何も変わらない嵐の光景を前に、ライガの焦燥感は煽られっぱなしである。
「嵐が弱まってる……どうなってんだよ、コレ……」
一人歩くライガ。
砂嵐は絶え間なく吹き荒れていることに変わりはないのだが、こうして歩を進めることが出来るくらいには砂嵐は弱体化を進めていた。炎球が直撃した直後、砂嵐はライガたちの身体をいとも簡単に吹き飛ばす力を持っていたはず、しかしそれが、今この瞬間においては弱まっているのだ。
「…………」
自分が置かれたこの状況に関して、ライガは疑問を覚えることを禁じ得ず、これが何者かの策略なのではないかと勘ぐってしまう。しかし、これだけの天候を長時間操るためには膨大な魔力が必要であり、ただの人間にはとても成し得ない芸当であることも間違いない。
「胡散臭ぇな……」
状況はとてもじゃないが楽観できるものではなく、むしろ絶望感の方が強い。
しかし、ライガの心は決して折れることはない。
航大と出会って、これまでの短い期間において何度も絶望を感じてきた。
その度に立ち上がり、困難な壁を何度も越えてきたのだ。
そんな経験がライガを確実に成長させており、砂塵の防壁の中で孤立していたとしても、ライガは決して諦めることはないのであった。
「……なんだ?」
そんな決意を新たにしていると、ライガは自分の鼓膜を震わせた違和感に足を止める。
「――――」
鼓膜を震わせたのは、誰かの声音だった。
「…………」
暴風が吹き荒れる中なので、誰の声かを判別することは困難であるが、確かにライガの耳に誰かの声が届いた。
「……こっちか?」
僅かな手掛かりを頼りに、ライガは自分が進む方向を変えていく。
その先に何が待っているのか。
今のライガには知る由もないことなのであった。
◆◆◆◆◆
「…………」
僅かに声が聞こえてきた方向を頼りに進むライガ。
しばらく歩を進めていると、ライガは不思議な空間に迷い込んでいた。
「なんだ、コレ……どうしてココだけ嵐が……」
それは巨大な砂嵐の中に出現したドーム状の空間だった。
半円形の形で存在するドーム状の場所は、そこだけが嵐の影響から隔離されていた。
見えない膜がドーム状の空間を作り出しているようであり、自分の身体を絶え間なく襲っていた嵐の影響が消えたことに、ライガは困惑を隠すことが出来ない。
「…………」
更にライガはこのドーム状の空間に立ち尽くす人間の姿を確認していた。
背丈はライガと同じくらい。髪は栗色で短く剣山のように固められている。
背中には巨大な大剣が存在しており、その剣をライガはよく知っていた。
「……ふぅ、ようやく来たか。待ちくたびれたぞ?」
「…………親父?」
ライガが姿を見せたことに気付いたのか、立ち尽くす青年はやれやれ……といった様子でため息を漏らすとゆっくりとした動きでライガが立つ方向へと振り返る。
「こんなに成長した息子を持った覚えはないんだがな……確かに、自分の息子であると言われれば似てる部分があるな」
「……どういうことだ?」
「まだ見ぬ息子と対面したのはいいが、どうやら俺はお前と戦わなくてはならないらしい」
「…………」
「これがアケロンテ砂漠が突きつける最初の試練……ということだ」
「やっぱり、この状況を裏で操ってる奴がいるんだな。どういうカラクリかは知らないが、俺と関係のある人間を召喚したって訳か……」
「俺も詳しいことは分からない。しかし、俺は俺自身を召喚した人間の命令に逆らうことは出来ないらしい」
「……だろうな」
「名も知らない息子よ、手加減はしないぞ?」
「上等だよ、親父」
ライガが対峙するのは、英雄としての世界に轟かせ始めた頃の父・グレオである。英雄の全盛期との対峙にライガは恐怖よりも先に、全身が粟立つ感覚を覚えていた。
砂塵の試練。
未だかつて誰も越えたことのない試練へ、ライガが挑んでいく。
バルベット大陸の西方に位置するアケロンテ砂漠。
ライガたち一行は、帝国ガリアで重傷を負い、今も目を覚ますことのない航大を救うために西方に眠るとされる、女神との邂逅を目指して『死の砂漠』を進む。
これまで立ち入った者を例外なく葬り去ってきたアケロンテ砂漠には、西方への侵入を拒むように存在する『砂塵の防壁』が存在していた。砂塵の防壁とは、凝縮された猛烈な砂嵐のことであり、人間が立ち入ることすら禁じるようにして存在する砂嵐は壁のようにはるか先まで続いていた。
「……はっ?」
これまで踏破された経験を保たない砂塵の防壁へ、ライガたち一行は砂の村・デミアーナで出会った謎の少女・アリーシャの力を借りて立ち入ることが出来た。
ここまで順調な旅路を進んでいたライガたちに慢心は存在していなかったはずである。
しかし、過酷な環境であるアケロンテ砂漠は、あまりにも唐突な形で一行に試練を与えたのであった。
◆◆◆◆◆
「……んッ?」
砂塵の中を進んでいたライガたち一行は、突如として飛来した巨大な炎球が直撃したことで吹き荒れる嵐の中に放り出された。上も下も右も左も分からないまま、吹き飛ばされたライガは砂の上で一人目を覚ました。
「ここは……?」
すぐには状況を理解することが出来ず、ライガは仰向けに寝ていた身体を起こすと周囲を確認する。
「みんなはッ……?」
まだ覚め切らない頭をフル回転させて、ライガは首を左右に振ることで仲間たちの姿を探す。しかし、砂塵の中にいることも相まって、視界状況は最悪であり見える範囲には人間の姿は存在しない。
「クソッ……全員とはぐれちまったのか……」
吹き荒れる嵐は健在であり、立ち上がることすらやっとな状況でライガは自分が孤立してしまっていることを痛感する。頭の中では、共に進んできた仲間たちの姿が浮かんでは消えを繰り返しており、自然と胸中に焦燥感が芽生えてくる。
「とにかく誰かと合流しなくちゃな……」
このまま立ち止まっていてもしょうがない。
一刻も早く全員と合流しなければならない。
自分がすべきことを確認すると、ライガはその表情に強い決意を灯すと一歩を踏み出していくのであった。
◆◆◆◆◆
「くっそッ……こっちで方向は合ってるのか……?」
孤独に砂嵐の中を進むライガ。
方向感覚なんてものは機能しておらず、ライガは自分が西に進めているのかすらわからない状況である。もしかしたら西とは真逆の東に進んでいる可能性すらあり、何も変わらない嵐の光景を前に、ライガの焦燥感は煽られっぱなしである。
「嵐が弱まってる……どうなってんだよ、コレ……」
一人歩くライガ。
砂嵐は絶え間なく吹き荒れていることに変わりはないのだが、こうして歩を進めることが出来るくらいには砂嵐は弱体化を進めていた。炎球が直撃した直後、砂嵐はライガたちの身体をいとも簡単に吹き飛ばす力を持っていたはず、しかしそれが、今この瞬間においては弱まっているのだ。
「…………」
自分が置かれたこの状況に関して、ライガは疑問を覚えることを禁じ得ず、これが何者かの策略なのではないかと勘ぐってしまう。しかし、これだけの天候を長時間操るためには膨大な魔力が必要であり、ただの人間にはとても成し得ない芸当であることも間違いない。
「胡散臭ぇな……」
状況はとてもじゃないが楽観できるものではなく、むしろ絶望感の方が強い。
しかし、ライガの心は決して折れることはない。
航大と出会って、これまでの短い期間において何度も絶望を感じてきた。
その度に立ち上がり、困難な壁を何度も越えてきたのだ。
そんな経験がライガを確実に成長させており、砂塵の防壁の中で孤立していたとしても、ライガは決して諦めることはないのであった。
「……なんだ?」
そんな決意を新たにしていると、ライガは自分の鼓膜を震わせた違和感に足を止める。
「――――」
鼓膜を震わせたのは、誰かの声音だった。
「…………」
暴風が吹き荒れる中なので、誰の声かを判別することは困難であるが、確かにライガの耳に誰かの声が届いた。
「……こっちか?」
僅かな手掛かりを頼りに、ライガは自分が進む方向を変えていく。
その先に何が待っているのか。
今のライガには知る由もないことなのであった。
◆◆◆◆◆
「…………」
僅かに声が聞こえてきた方向を頼りに進むライガ。
しばらく歩を進めていると、ライガは不思議な空間に迷い込んでいた。
「なんだ、コレ……どうしてココだけ嵐が……」
それは巨大な砂嵐の中に出現したドーム状の空間だった。
半円形の形で存在するドーム状の場所は、そこだけが嵐の影響から隔離されていた。
見えない膜がドーム状の空間を作り出しているようであり、自分の身体を絶え間なく襲っていた嵐の影響が消えたことに、ライガは困惑を隠すことが出来ない。
「…………」
更にライガはこのドーム状の空間に立ち尽くす人間の姿を確認していた。
背丈はライガと同じくらい。髪は栗色で短く剣山のように固められている。
背中には巨大な大剣が存在しており、その剣をライガはよく知っていた。
「……ふぅ、ようやく来たか。待ちくたびれたぞ?」
「…………親父?」
ライガが姿を見せたことに気付いたのか、立ち尽くす青年はやれやれ……といった様子でため息を漏らすとゆっくりとした動きでライガが立つ方向へと振り返る。
「こんなに成長した息子を持った覚えはないんだがな……確かに、自分の息子であると言われれば似てる部分があるな」
「……どういうことだ?」
「まだ見ぬ息子と対面したのはいいが、どうやら俺はお前と戦わなくてはならないらしい」
「…………」
「これがアケロンテ砂漠が突きつける最初の試練……ということだ」
「やっぱり、この状況を裏で操ってる奴がいるんだな。どういうカラクリかは知らないが、俺と関係のある人間を召喚したって訳か……」
「俺も詳しいことは分からない。しかし、俺は俺自身を召喚した人間の命令に逆らうことは出来ないらしい」
「……だろうな」
「名も知らない息子よ、手加減はしないぞ?」
「上等だよ、親父」
ライガが対峙するのは、英雄としての世界に轟かせ始めた頃の父・グレオである。英雄の全盛期との対峙にライガは恐怖よりも先に、全身が粟立つ感覚を覚えていた。
砂塵の試練。
未だかつて誰も越えたことのない試練へ、ライガが挑んでいく。
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