終末の異世界と大罪のグリモワール ~英霊は異世界で斯く戦えり~
第五章4 不思議な少女・アリーシャ
「君たちが挑もうとしている、アケロンテ砂漠。そこはとても危険な場所なんだよ?」
バルベット大陸の西方に広がる砂漠地帯・アケロンテ砂漠を目指すライガたち一行。
その道中で砂漠と隣接する村・デミアーナへと立ち寄ったライガたちは、そこで猛烈な砂嵐に巻き込まれてしまう。まだ砂漠にも足を踏み入れていない一行は、早速の洗礼に呆然と無人の村で立ち尽くすことしかできない。
「危険な場所ってことは承知してる」
「承知してる……だけじゃダメなんだよねー、さっきの砂嵐を見ただろ? アケロンテ砂漠に入ったらあれくらいの嵐は常に存在していると思っていいくらいだし」
「あの嵐が常に……」
砂に覆われた村・デミアーナでライガたちが出会うのは、明るい栗色の髪を肩下まで伸ばし、短く切り揃えられた魔法ローブからは、色白な腕と足が大胆にも露出されており、特異な姿形が印象的な少女だった。
外見はユイと同い年くらいであるのに対して、その口調はとても大人びており、ライガたちと会話を交わす中でもその余裕な口振りが目立つ。
「だから、あれくらいの砂嵐で振り回されているようじゃ、本物の砂漠を歩くのは厳しいって話なんだよ」
「それでも、儂たちは進まなくてはならぬ」
何度も重ねるようにして砂漠の危険を伝えてくる少女に対して、それでもライガたちは退くことが出来ぬ事実を伝える。
「うーん、砂漠へ踏み入るのはいいんだけど、その前に君たちがどうしても進まなくてはならない理由を教えてもらっていいかな?」
「…………」
ライガたち一行はデミアーナ村に唯一存在する酒場へと集まっており、明日の砂漠突入に向けた話を続けている。訪ねてきた際には無人だった村も、嵐が過ぎると人々によって活気が溢れるようになった。
酒場も人で賑わっており、喧騒が包む中でライガたちは話を続ける。
砂漠の危険性について詳しいと自負する少女は、ニコニコと笑みを浮かべ、しかしその瞳の奥には妖しい光を放っている。何か裏があるのではと勘ぐるライガとエレスの二人は、表には出さないが内心で警戒心を高めている。
「まぁまぁ、そんなに警戒しないでくれたまえ」
「…………」
「これから君たちの手助けをしようと言うんだ。それならば、少しくらいは目的について共有して欲しい……ただそれだけだよ」
少女の視線はライガとエレスを交互に行き来しており、二人が自分に対して警戒心を抱いていることを容易く見抜いてくる。その事実にライガとエレスの二人は僅かな驚きを禁じ得ない。
二人は騎士である。
心内を他者に読まれることは決してあってはならず、しかしそれを見知らぬ少女に容易く見抜かれてしまう。その瞬間、ライガたちは目の前で無警戒にニコニコと笑う少女の異質さを感じてしまう。
「はぁ……お前相手に、下手な隠し事はできなさそうだな」
「今のところ、敵意のようなものは感じません。彼女が助けてくれるというのなら、こちらも出せる情報は差し出してもいいでしょう」
少女の瞳に射抜かれたライガとエレスの二人は小さなため息と共にやれやれと頭を振る。
「その判断はライガ、貴様に任せる」
「まぁ、仲間が増えるのはいいことだよねッ!」
「…………」
ライガの判断にリエル、シルヴィア、ユイの三人も異論を挟むことはなかった。
「厳密に言えば、俺たちは砂漠に用があるんじゃない。その先に居る女神に用事がある」
「へぇ、女神ねぇ……君たちは女神がどういう存在なのか知っているのかな?」
「…………」
「女神はこの世界を守護する存在。そもそも君たちのような一般人が邂逅を果たしていい存在じゃない。ただでさえ、今は北方に存在する女神の力が消失しているんだ。世界の均衡は崩れかけているんだよ」
「北方の女神は……」
「――リエル、口を閉ざせ」
栗色の髪をした少女から語られる女神の話。
北方の女神という単語に反応したリエルだったのだが、ライガはそれを一言で制止する。
「……世界は女神によって護られ、そして構築されている。だからこそ、女神というのは強固に守護されているんだよ」
「……そうだったのか?」
「ライガ、貴様……何か言いたいことがあるようだな?」
「いや、別に……」
チラッとリエルを見るライガ。
それを苛立ちを隠さずに睨み返すリエル。
「君たちの間に何かあったみたいだね。まぁ、とにかくそういうことだから、女神に会うのが目的だというのなら、それを果たすのは相当に難しいということだね」
「…………」
「そもそも、どうして女神に会おうとしているんだい?」
「――大切な仲間を助けたい」
少女の問いかけ、それに返答するライガの表情はとても険しいものだった。
その気迫に気付いたのか、少女はやれやれ……といった様子で話を続ける。
「なるほどねぇ。これだけ言っても気持ちが変わらないならしょうがないか。うん、それじゃ明日にでも砂漠へ向かうとしようか」
「…………」
「ん、どうしたの?」
「いや、俺たちが砂漠へ行くのを止めたいんじゃないのか?」
「まぁ、死ににいく人を止めるのは人間として当然のことじゃない?」
「…………」
「私はしっかりと忠告した。それでも進むと言うのなら、せめて最悪なシナリオは回避できるように最善を尽くすべきだよね」
さらっと零れる『死』という単語にライガたち全員の表情が引き締まっていく。
「といっても、砂漠について詳しいと自負する私でも、アケロンテ砂漠の全容までは把握しきれている訳じゃないんだよね」
「砂漠の全容……?」
少女の言葉にライガが首を傾げる。
「そうそう。とりあえず、アケロンテ砂漠について分かっていること、それは常に砂嵐が吹き荒れる劣悪な環境。それ以外にも巨大魔獣がうじゃうじゃと生息している」
「巨大魔獣……」
「主に砂漠へ足を踏み入れる人間たちが命を落とす理由はこの二つが多いかな。砂嵐で方向感覚を失い、更に魔獣たちとの絶え間ない連戦……その結果に衰弱して死ぬか、魔獣たちに喰われておしまい」
少女の口から飄々と語られる砂漠の真実。
軽い口調ではあるが、その内容は壮絶なものであった。
「女神が封印されている場所へ向かう前に、まず私たちが目指す場所……そこは砂漠の中に唯一存在するオアシスかな」
「オ、オアシス……?」
「そうそう。砂嵐と魔獣のエリアを抜けると、そこには水と緑が溢れるオアシスが現れる。それが見えたら、女神の祠は近いって言われてるよ」
「……なるほど」
「まぁ、そこに辿り着く前に殆どの人は死んでる訳だけど――」
「――よーしッ、これで俺たちが目指すべき場所はハッキリしたなッ! 全員、明日の朝にはすぐ出発するぞッ!」
少女の言葉が終わる前に、ライガは気合十分といった様子で立ち上がる。
「えぇっと……まだ話の途中なんだけど……?」
「とりあえずの目的が分かっているのならそれで十分だッ! とにかく俺たちは前に進むのみッ!」
「はぁ……こんな様子で君たちはよく今まで無事でいられたよね……」
「あはは……」
「ふむ、いつも通りとも言える」
「だいじょーぶ、だいじょーぶッ!」
「…………」
ライガの言葉にエレス、リエル、シルヴィア、ユイの四人が力強く頷く。
「まぁいっか。私はアリーシャ。これからよろしくね」
「俺はライガ。ハイラント王国の騎士で、このチームのリーダーだ」
「私はシルヴィア。ハイラント王国の騎士で、このチームの特攻隊長だよッ!」
「儂はリエル。賢者で魔法使いといった所じゃ」
「私はエレス。アステナ王国の騎士です。あまり戦いの面では期待しないでもらえると嬉しいです」
「…………私はユイ」
アリーシャの簡単な自己紹介に対して、ライガたち一行も自分たちを紹介する。
「あ、あはは……本当に、よく生きて来れたね、君たち」
各々の様子を見て、苦笑いを禁じ得ないアリーシャ。
こうして砂に覆われた村・デミアーナでの夜は更けていく。
新たなる旅路はまだ始まったばかりである。
バルベット大陸の西方に広がる砂漠地帯・アケロンテ砂漠を目指すライガたち一行。
その道中で砂漠と隣接する村・デミアーナへと立ち寄ったライガたちは、そこで猛烈な砂嵐に巻き込まれてしまう。まだ砂漠にも足を踏み入れていない一行は、早速の洗礼に呆然と無人の村で立ち尽くすことしかできない。
「危険な場所ってことは承知してる」
「承知してる……だけじゃダメなんだよねー、さっきの砂嵐を見ただろ? アケロンテ砂漠に入ったらあれくらいの嵐は常に存在していると思っていいくらいだし」
「あの嵐が常に……」
砂に覆われた村・デミアーナでライガたちが出会うのは、明るい栗色の髪を肩下まで伸ばし、短く切り揃えられた魔法ローブからは、色白な腕と足が大胆にも露出されており、特異な姿形が印象的な少女だった。
外見はユイと同い年くらいであるのに対して、その口調はとても大人びており、ライガたちと会話を交わす中でもその余裕な口振りが目立つ。
「だから、あれくらいの砂嵐で振り回されているようじゃ、本物の砂漠を歩くのは厳しいって話なんだよ」
「それでも、儂たちは進まなくてはならぬ」
何度も重ねるようにして砂漠の危険を伝えてくる少女に対して、それでもライガたちは退くことが出来ぬ事実を伝える。
「うーん、砂漠へ踏み入るのはいいんだけど、その前に君たちがどうしても進まなくてはならない理由を教えてもらっていいかな?」
「…………」
ライガたち一行はデミアーナ村に唯一存在する酒場へと集まっており、明日の砂漠突入に向けた話を続けている。訪ねてきた際には無人だった村も、嵐が過ぎると人々によって活気が溢れるようになった。
酒場も人で賑わっており、喧騒が包む中でライガたちは話を続ける。
砂漠の危険性について詳しいと自負する少女は、ニコニコと笑みを浮かべ、しかしその瞳の奥には妖しい光を放っている。何か裏があるのではと勘ぐるライガとエレスの二人は、表には出さないが内心で警戒心を高めている。
「まぁまぁ、そんなに警戒しないでくれたまえ」
「…………」
「これから君たちの手助けをしようと言うんだ。それならば、少しくらいは目的について共有して欲しい……ただそれだけだよ」
少女の視線はライガとエレスを交互に行き来しており、二人が自分に対して警戒心を抱いていることを容易く見抜いてくる。その事実にライガとエレスの二人は僅かな驚きを禁じ得ない。
二人は騎士である。
心内を他者に読まれることは決してあってはならず、しかしそれを見知らぬ少女に容易く見抜かれてしまう。その瞬間、ライガたちは目の前で無警戒にニコニコと笑う少女の異質さを感じてしまう。
「はぁ……お前相手に、下手な隠し事はできなさそうだな」
「今のところ、敵意のようなものは感じません。彼女が助けてくれるというのなら、こちらも出せる情報は差し出してもいいでしょう」
少女の瞳に射抜かれたライガとエレスの二人は小さなため息と共にやれやれと頭を振る。
「その判断はライガ、貴様に任せる」
「まぁ、仲間が増えるのはいいことだよねッ!」
「…………」
ライガの判断にリエル、シルヴィア、ユイの三人も異論を挟むことはなかった。
「厳密に言えば、俺たちは砂漠に用があるんじゃない。その先に居る女神に用事がある」
「へぇ、女神ねぇ……君たちは女神がどういう存在なのか知っているのかな?」
「…………」
「女神はこの世界を守護する存在。そもそも君たちのような一般人が邂逅を果たしていい存在じゃない。ただでさえ、今は北方に存在する女神の力が消失しているんだ。世界の均衡は崩れかけているんだよ」
「北方の女神は……」
「――リエル、口を閉ざせ」
栗色の髪をした少女から語られる女神の話。
北方の女神という単語に反応したリエルだったのだが、ライガはそれを一言で制止する。
「……世界は女神によって護られ、そして構築されている。だからこそ、女神というのは強固に守護されているんだよ」
「……そうだったのか?」
「ライガ、貴様……何か言いたいことがあるようだな?」
「いや、別に……」
チラッとリエルを見るライガ。
それを苛立ちを隠さずに睨み返すリエル。
「君たちの間に何かあったみたいだね。まぁ、とにかくそういうことだから、女神に会うのが目的だというのなら、それを果たすのは相当に難しいということだね」
「…………」
「そもそも、どうして女神に会おうとしているんだい?」
「――大切な仲間を助けたい」
少女の問いかけ、それに返答するライガの表情はとても険しいものだった。
その気迫に気付いたのか、少女はやれやれ……といった様子で話を続ける。
「なるほどねぇ。これだけ言っても気持ちが変わらないならしょうがないか。うん、それじゃ明日にでも砂漠へ向かうとしようか」
「…………」
「ん、どうしたの?」
「いや、俺たちが砂漠へ行くのを止めたいんじゃないのか?」
「まぁ、死ににいく人を止めるのは人間として当然のことじゃない?」
「…………」
「私はしっかりと忠告した。それでも進むと言うのなら、せめて最悪なシナリオは回避できるように最善を尽くすべきだよね」
さらっと零れる『死』という単語にライガたち全員の表情が引き締まっていく。
「といっても、砂漠について詳しいと自負する私でも、アケロンテ砂漠の全容までは把握しきれている訳じゃないんだよね」
「砂漠の全容……?」
少女の言葉にライガが首を傾げる。
「そうそう。とりあえず、アケロンテ砂漠について分かっていること、それは常に砂嵐が吹き荒れる劣悪な環境。それ以外にも巨大魔獣がうじゃうじゃと生息している」
「巨大魔獣……」
「主に砂漠へ足を踏み入れる人間たちが命を落とす理由はこの二つが多いかな。砂嵐で方向感覚を失い、更に魔獣たちとの絶え間ない連戦……その結果に衰弱して死ぬか、魔獣たちに喰われておしまい」
少女の口から飄々と語られる砂漠の真実。
軽い口調ではあるが、その内容は壮絶なものであった。
「女神が封印されている場所へ向かう前に、まず私たちが目指す場所……そこは砂漠の中に唯一存在するオアシスかな」
「オ、オアシス……?」
「そうそう。砂嵐と魔獣のエリアを抜けると、そこには水と緑が溢れるオアシスが現れる。それが見えたら、女神の祠は近いって言われてるよ」
「……なるほど」
「まぁ、そこに辿り着く前に殆どの人は死んでる訳だけど――」
「――よーしッ、これで俺たちが目指すべき場所はハッキリしたなッ! 全員、明日の朝にはすぐ出発するぞッ!」
少女の言葉が終わる前に、ライガは気合十分といった様子で立ち上がる。
「えぇっと……まだ話の途中なんだけど……?」
「とりあえずの目的が分かっているのならそれで十分だッ! とにかく俺たちは前に進むのみッ!」
「はぁ……こんな様子で君たちはよく今まで無事でいられたよね……」
「あはは……」
「ふむ、いつも通りとも言える」
「だいじょーぶ、だいじょーぶッ!」
「…………」
ライガの言葉にエレス、リエル、シルヴィア、ユイの四人が力強く頷く。
「まぁいっか。私はアリーシャ。これからよろしくね」
「俺はライガ。ハイラント王国の騎士で、このチームのリーダーだ」
「私はシルヴィア。ハイラント王国の騎士で、このチームの特攻隊長だよッ!」
「儂はリエル。賢者で魔法使いといった所じゃ」
「私はエレス。アステナ王国の騎士です。あまり戦いの面では期待しないでもらえると嬉しいです」
「…………私はユイ」
アリーシャの簡単な自己紹介に対して、ライガたち一行も自分たちを紹介する。
「あ、あはは……本当に、よく生きて来れたね、君たち」
各々の様子を見て、苦笑いを禁じ得ないアリーシャ。
こうして砂に覆われた村・デミアーナでの夜は更けていく。
新たなる旅路はまだ始まったばかりである。
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