終末の異世界と大罪のグリモワール ~英霊は異世界で斯く戦えり~

桜葉

第四章43 【帝国終結編】それは英雄たちの物語

「我には果たすべき目的があるのだ。それを残して死ぬ訳にはいかない」

「ぐッ……」

 帝国にほど近い荒廃した大地にて、世界にその名を轟かせる二人の男が命を賭けた戦いを演じていた。

 時は大陸間戦争末期。戦争を仕掛けた帝国は世界を敵に回し、その果てに敗れ去ろうとしていた。世界を混沌に陥れようとする帝国の企みを、しかし世界は許さなかったのだ。

 バルベット大陸に存在するハイラント王国を始めとする各国は、あらゆる手を使って帝国を滅ぼうとする。

 しかし、帝国も力を持つ国の一つであり、その象徴的な存在であるガリア・グリシャバルを中心に世界を敵に回しても尚、互角以上の戦いを見せていた。

「どうした、グレオ。貴様の力はこんなものではないだろう?」

「……当たり前だ」

 マガン大陸に広がる荒廃した大地。

 そこで戦争の行方を左右する戦いが繰り広げられている。この戦いの結果が、世界を巻き込んだ大陸間戦争の結末へと直結しているのは間違いなく、これまで幾度となく剣を交えてきた二人の男が決着をつけようとしていた。

「妙な魔法を覚えやがって……」

「ふん、いつまでも停滞している訳にもいかないのでな」

「こっちだって、お前には負けられない。この世界を救うためにもッ……」

「――ッ!」

 重力を操る魔法を繰り出すことで、グレオの意表を突くことに成功したガリア。

 腹部に打撃を受けたグレオの身体には鈍い痛みが継続的に続いている。普通であるならば、動くことすら困難な痛みが襲う中においても、グレオは決して倒れる訳にはいかなかった。

 グレオの背中には数多の命が背負われており、彼の敗北……それは世界の終焉を意味する。だからこそ、グレオは負けることを許されない。宿命付けられた勝利と平穏のために血反吐を吐く思いで立ち続けなければならないのだ。

「戦いはこれからだッ……」

「ふんッ……そうでなければ、面白くないッ!」

「――武装魔法・風装神鬼ッ!」

 それはグレオが左手に持つ風の剣・ボルカニカが持つ力の一部。

 暴風を身に纏うことで、己の運動神経を極限にまで高めた結果に瞬速を手に入れることができる。世界に名を轟かせるグレオが持つ唯一の弱点。それは両手に大剣を持つが故の鈍足さにあった。

 しかし、神剣・ボルカニカを使った武装魔法を身に纏うことで、その弱点を取り除くことができる。

「――いくぞッ!」

「掛かってくるがいいッ!」

 グレオが飛ぶ。

 ただそれだけで荒廃した大地が大きく揺れ動き、大地のあちこちに巨大な亀裂を生んでいく。瞬きをした次の瞬間には、ガリアの目前にまで接近を果たしたグレオは、怒号を上げながら右手に持つ神剣・ボルガを振るっていく。

 常人には反応することすら出来ない斬撃。
 しかし、同じく常人の域を脱しているガリアには、それを捉えることができる。

「この程度かッ!?」

「この程度かどうか、俺の剣を受けてみろッ!」

「――ッ!」

 グレオが放つ斬撃。
 それをガリアはやはり真正面から受けようとする。
 再び大地に甲高い音が木霊し、それから少し遅れて大地が大きく振動する。

「ぐッ……これほどまでの力とはッ……」

「おらああああああああぁぁぁぁッ!」

 グレオの咆哮が轟き、それと同時にガリアの身体は遥か後方へと吹き飛ばされていく。

「まだまだぁッ!」

「――――」

 最早、ガリアには声を発する余裕すら存在していない。暴風の力によって、凄まじい速さで後退を余儀なくされるガリアへと、グレオは無慈悲に追撃を行っていく。

 右手に持った神剣・ボルガの刀身に業炎を纏わせると、大きく剣を振るっていく。すると、神剣・ボルガを覆っていた炎が渦を巻くようにしてガリアの身体へと殺到していく。

「……素晴らしい力だ」

 眼前に迫ってくる炎の渦。
 宙を飛ぶガリアは燃え滾る炎を前にしても、その顔に笑みを浮かべていた。

 何か反撃を行うのではない。ガリアはその表情にただ笑みを浮かべると、その身にグレオが放った炎を受け止めていく。

「――――」

 次の瞬間。

 この日、最大の轟音が大陸に響き渡る。ガリアの身体を中心に、小さな太陽が生成されたのかと錯覚するほどに強大な魔力を内包した炎の渦は、何の前触れもなくその力を放出していく。

 大地を焦がし、燃やし尽くす炎が空中に広がっていく様を、グレオは険しい表情で睨み続ける。その瞳には安堵の色が浮かんではおらず、これからまだ激しさを増すであろう戦いを覚悟しているようでもあった。

「――やはり、貴様は我の予想を遥かに越えていく」

「…………」

「貴様も持っているではないか、隠し玉という物を」

 大空に広がる大地を照らす巨大な炎。
 その中から舞い降りてくる一つの影があった。

「これでも死なないか……」

「いや、今のはさすがの我でも、ギリギリと言わざるを得なかった」

 グレオが放つ強大な攻撃を持ってしても、帝国の騎士・ガリアを討つことは叶わない。

 ゆっくりと地面に着地するガリアの身体には無数の傷が刻まれており、さすがのガリアでも無傷で生還とは行かなかったことが伺える。

「……次で終わらせる」

 静かに言い放つグレオは、さらなる力をその身に収束させると戦いに決着を付けるための準備に入る。

 それを見たガリアは唯一認める強敵との戦いに笑みを浮かべ、自らもその身体に膨大な魔力を内包していく。

「さぁ、終わりにしようではないか。永きに渡る宿命の戦いにッ!」

「異形の大地に沈め、ガリアッ!」

 そして再び時は動き出す。

 世界の終焉と救済を求め、相反する考えを持つ二人の男たちが紡いできた戦いを終わらせるために――。

 片や大地を焦がし、焼き尽くす炎をその身に纏う。
 片や大地を凍てつかせ、全てを凍結させる氷をその身に纏う。

 大地の環境すら激変させる一撃の後――そこには絶対の静寂が待っているのであった。

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