終末の異世界と大罪のグリモワール ~英霊は異世界で斯く戦えり~
第四章42 【帝国終結編】立ち塞がる絶望
「……今日は、とても古傷が疼く日だ」
帝国ガリアの第二層。
望む形ではなかったが、航大とユイを回収することに成功したライガたち一行は、息を切らしながら帝国を疾走していた。向かうのは帝国ガリアの第一層であり、そのまま帝国から脱出しようとしていた。
異様な静寂に包まれた帝国内部に兵士の姿は存在しておらず、何ら邪魔が入ることなく帝国からの脱出は無事に果たされようとしていた。
しかし、そんな淡い希望を打ち砕くかのように、空気を震わせる重低音な声音が周囲に響き渡った。
「仲間を助けるために一人残る……とても美談じゃないか」
「てめぇが残るように仕向けたんだろうがッ……」
「ふむ、その通りだ。いや、古傷が疼く正体を確かめようと思ってな」
ライガたちの前に立ち塞がった巨体を誇る男。
それは帝国ガリアにおいて、総統と呼ばれる立場に君臨するガリア・グリシャバルだった。圧倒的なまでの存在感と威圧感を放つ男は、ライガにだけこの場に残るように指示すると、リエルたちを見逃した。
今、この場にはライガとガリアの二人しか存在しておらず、ライガはいつ戦いが始まっても良いようにと、両手に大剣・ボルカニカを握りしめる。
「さぁ、見せてみよ。かの英雄が持つ力を受け継ぎし者よ。我に己が持つ力を解き放つがいいッ!」
「――――ッ!」
その声を合図に、ライガは地面を蹴って大きな跳躍を見せると両手に持った剣でガリアへと切りかかっていく。
「喰らえええええぇぇぇッ!」
「ふん、愚直なまでに直線的な動き。私は嫌いじゃないぞ?」
「――ぐッ!?」
小手先の真似はしない。
ライガは咆哮を上げると、真正面から突進を仕掛けた後にその身体を両断しようと、大剣を振り下ろしていく。ライガが放つ威圧を前にして、ガリアはその場から一歩も動くことはなく、その顔を楽しげに歪ませている。
ライガが放つ強烈な斬撃。
それをガリアは右手を差し出すことで受け止めていく。
「なんだよッ、コレッ……!?」
「どうした、こんなものではないだろう?」
「くっそッ……」
ライガの剣は右手を突き出したガリアの手前で制止している。
剣はガリアの手に触れてはおらず、虚空の壁に阻まれるような形で留まり続けており、ライガは苦しげな表情を浮かべて頭をフル回転させていく。
どうして自分の剣は相手に届いていないのか?
苦しげなライガの表情とは違い、ガリアの表情は余裕そのものといった様子。
「ぐあああぁぁぁッ!」
ガリアを目前にして制止したのも数秒。虚空で制止していたライガの身体は、突如発生した暴風の前にいとも簡単に吹き飛ばされてしまう。土埃を上げて、激しく地面を滑っていくライガ。これもガリアが放った衝撃波によるものであり、全身に擦り傷を刻みながらも立ち上がるライガは、得体の知れない力を使役するガリアに警戒心を高めていく。
「さぁ、次はどんな戦いを見せてくれるのだ?」
「ふざけやがって――武装魔法・風装神鬼ッ!」
この戦い、長期戦に持ち込んではいけない。
本能でそれを察したライガは、全身に力を込めると全力全開で戦うための準備を整えていく。その魔法は暴風を身に纏う武装魔法であり、普段は鈍足な動きを見せるライガの動きを何倍にも高めてくれるものだった。
「……ほう、これはまた懐かしい」
「――ッ!」
「貴様程度の小童が、それを使うとは……ふむ、想定外だ」
再び地面を蹴るライガ。
先ほどとは比べ物にならない速度で接近を果たすライガに、ガリアの表情が僅かに驚きに変わる。
激しい暴風を身に纏ったライガは、瞬きの瞬間に零距離まで接近を果たすと、触れた物を切り刻むかまいたちを刀身に纏わせて剣を振るっていく。
「スピードは十分。しかし、剣の重さは変わっていないようだな」
「これも受け止めるってのかよッ……」
「目にも留まらぬ速さを手に入れる変わりに、その剣が持つ破壊力を殺してしまっている。それでは、私に刃を届けることは出来ぬのだよ」
「くそ野郎がぁッ……」
「ふぅ……あの男と同じ血を引く者だと期待したのだが、外れだったようだ」
「外れ、だとッ……!?」
「その程度の実力では、私に勝つどころか帝国騎士にも歯が立たぬだろう――貴様はまだ未熟だということだ」
「――ッ!?」
常人であるのならば、ライガの動きを目で追うことは不可能である。
人間が持つ知覚の限界を越えた動きでも、その遥か上を行くガリアの前には全くもって通用しない。一人で戦うライガには、ガリアが見せる権能を見破ることが出来ず、眼前に立ち尽くす男を前にして、絶望感すら漂ってくる。
「貴様が帝国へやってくる際に、氷と炎の大地を見ただろう?」
「…………」
「あれは我と貴様の父……グレオ・ガーランドが己の全てを賭けて戦った証だ」
ライガの攻撃をやはり右手一本で防いだガリアは、過去を懐かしむように瞳を細めると語り出す。
それはかつて全世界を巻き込んだ大陸間戦争の物語。
やがて世界の英雄と評される男と、帝国の総統となる男が紡いだ戦いの物語である。
◆◆◆◆◆
「ふむ……どうやら、この戦争はここまでのようだ」
「お前の命もここまでってことだ、ガリア」
時は大陸間戦争の末期。
場所は帝国が存在するマガン大陸の中心部。
荒廃した大地がどこまでも広がっている場所で、二人の男が対峙していた。
一人はハイラント王国が誇る騎士グレオ・ガーランド。
一人は帝国が誇る騎士ガリア・グリシャバル。
後に全世界へその名を轟かせる二人の男がまだ、騎士として戦場で戦っている。
「覚悟は出来たか?」
「覚悟なんてものはとっくの昔に捨てている」
「……そうかよ。一秒でも早く楽にしてやる」
「ふむ……最後の戦いを始めようじゃないか」
まだ若いグレオの両手には、自身の背丈ほどある大剣が二本握られており、それぞれ『神剣・ボルガ』と『神剣・ボルカニカ』という名前が付けられている。
神剣・ボルガ。灼熱の炎を操り、立ち塞がる全ての物を焼き払う伝説の剣。
神剣・ボルカニカ。暴風を司り、刀身に真空の刃を纏うことで、対象を切り刻む伝説の剣。
かつてバルベット大陸に存在していたとされる、神竜がハイラント王国に授けたと言われる大剣を、今では王国の英雄として名を馳せるグレオが所有している。二対の大剣を振るうことで、グレオは様々な大陸に名を轟かせるようになっていた。
「――ゆくぞッ」
ハイラント王国の英雄・グレオと対峙する帝国が誇る最良の騎士であるガリア・グリシャバルは、その顔に満面の笑みを浮かべると地面を蹴ると片手に薄青の大剣一本を背負ってグレオに接近を果たそうとする。
「氷の剣……厄介だな、それも……」
「炎と風の剣を持つ者に言われたくはないなッ!」
ガリアが持つのは、これもまたグレオが持つ二属性の剣と同じ、神竜が授けたとされる伝説に名を刻む大剣の一本だった。
神竜はその姿を消す際に、人類へ四本の剣を授けていた。
それぞれ、火、水、風、雷の属性を象徴する剣であり、剣が秘める力は想像を絶するものであった。現に伝説の剣を持つグレオとガリアは、世界にその名を轟かせる騎士へと成長を遂げており、世界を牽引するリーダーの素質を持つ人間だけが所有することを許されるものであった。
「――――ッ!」
真正面から突進してくるガリアに対して、グレオもまたその表情を険しく歪ませると一歩も引くことなく両手に持つ剣を振るっていく。
刹那の静寂が大地を支配した次の瞬間――二つの人影が重なるのと同時に凄まじい轟音が大陸に響き渡った。大陸全土を揺るがす凄まじい衝突が発生し、グレオとガリアが衝突した場所を中心に巨大なクレーターが生成される。
「――ふんッ!」
「ぐッ……相変わらずの馬鹿力だッ……」
「貴様もなッ!」
剣と剣が交わり、互いが持つ力の全てを解き放っていく。
グレオとガリア。
二人が持つ腕の力は全くの五分であり、互いがその表情にどこか楽しげな笑みを浮かべて力をぶつけ合う。大剣から発せられる魔力がバチバチと衝突を繰り返し、周囲の空間に異変をもたらしていく。
大地が悲鳴を上げ、あちこちに小さな大地の裂け目が出現する。
それほどまでに強大な力が衝突していることの証拠であり、大地に刻まれた裂け目は次第にその大きさを増していく。
「はああぁッ!」
「甘いッ!」
このままでは埒が明かないと判断したグレオとガリアは、全くの同タイミングで重なり合った剣の形を解くと、すぐさま次の斬撃へと移っていく。
ガリアは両手で握った大剣を横に薙ぎ払い、グレオはそれを右手に持った炎剣で受け止めていく。
「はああああああああぁぁぁぁぁッ!」
大剣を一本しか持っていないガリア。
大剣を二本持っているグレオ。
手数だけを見ればグレオが有利であることに間違いはなく、ガリアは自分が振るった剣を受け止められたことにより、がら空きになった左半身へを露呈してしまう。
「――――ッ!?」
ガリアが一瞬見せた隙を、英雄であるグレオが見落とすはずがなかった。
グレオは瞬時に状況を判断し、怒号を上げるとがら空きになったガリアの左脇腹へ左手に持った風の大剣を振るっていく。
「隙アリだッ!」
「――甘いわッ!」
「んなッ!?」
一切の油断はなかった。
この状況でガリアが取れる行動の全てを予測し、その全てを上回るための動きを見せたグレオ。普通の騎士であるならば、グレオが放つ斬撃の前に身体を両断され絶命するはずだった。
しかし、ただの一点だけグレオが見落としていたことがあるのだとしたら、それはしばらく邂逅が無かった間に、ガリアが何かしらの力を身に着けている可能性を考慮していなかった部分にあった。
「ぐぅッ!?」
ガリアが見せた隙を突くために振るった左手に持つ神剣・ボルカニカ。
暴風を纏った刀身が帝国騎士・ガリアの身体を切り刻もうとした瞬間だった。
突如としてグレオが持つ神剣・ボルカニカが重さを増し地面に墜落していく。それは強力な磁石に引き寄せられるようであり、想定外の出来事にグレオの表情は驚きに歪む。
「氷魔法しか使えない時代とは違うのだよ」
「ガリアぁッ……」
「戦いはこれからが本番だ、グレオよッ!」
体勢を崩したグレオの腹部に強烈な蹴りを見舞うガリア。
自由に身動きが取れないグレオは、苦悶の声を漏らしながらガリアの蹴りを受け止めざるを得ず、地面を滑りながら後退を余儀なくされる。
「ぐッ……かはッ……」
「我々、人類は常に進化をする生き物だ。それは私にとっても例外ではないのだ」
「隠し玉って訳か……相変わらず、姑息な奴だな……」
「何とでも言うがいい。果たすべき目的のため、血の滲むような努力をすることは当然だ」
傍から見れば一瞬の交錯であっても、その瞬間に幾度とない読み合いが存在していた。
過去に繰り広げられたマガン大陸を舞台にした英雄たちの戦い。
それは時間が経つごとに激しさを増していく。
その先に待つ未来とは――。
帝国ガリアの第二層。
望む形ではなかったが、航大とユイを回収することに成功したライガたち一行は、息を切らしながら帝国を疾走していた。向かうのは帝国ガリアの第一層であり、そのまま帝国から脱出しようとしていた。
異様な静寂に包まれた帝国内部に兵士の姿は存在しておらず、何ら邪魔が入ることなく帝国からの脱出は無事に果たされようとしていた。
しかし、そんな淡い希望を打ち砕くかのように、空気を震わせる重低音な声音が周囲に響き渡った。
「仲間を助けるために一人残る……とても美談じゃないか」
「てめぇが残るように仕向けたんだろうがッ……」
「ふむ、その通りだ。いや、古傷が疼く正体を確かめようと思ってな」
ライガたちの前に立ち塞がった巨体を誇る男。
それは帝国ガリアにおいて、総統と呼ばれる立場に君臨するガリア・グリシャバルだった。圧倒的なまでの存在感と威圧感を放つ男は、ライガにだけこの場に残るように指示すると、リエルたちを見逃した。
今、この場にはライガとガリアの二人しか存在しておらず、ライガはいつ戦いが始まっても良いようにと、両手に大剣・ボルカニカを握りしめる。
「さぁ、見せてみよ。かの英雄が持つ力を受け継ぎし者よ。我に己が持つ力を解き放つがいいッ!」
「――――ッ!」
その声を合図に、ライガは地面を蹴って大きな跳躍を見せると両手に持った剣でガリアへと切りかかっていく。
「喰らえええええぇぇぇッ!」
「ふん、愚直なまでに直線的な動き。私は嫌いじゃないぞ?」
「――ぐッ!?」
小手先の真似はしない。
ライガは咆哮を上げると、真正面から突進を仕掛けた後にその身体を両断しようと、大剣を振り下ろしていく。ライガが放つ威圧を前にして、ガリアはその場から一歩も動くことはなく、その顔を楽しげに歪ませている。
ライガが放つ強烈な斬撃。
それをガリアは右手を差し出すことで受け止めていく。
「なんだよッ、コレッ……!?」
「どうした、こんなものではないだろう?」
「くっそッ……」
ライガの剣は右手を突き出したガリアの手前で制止している。
剣はガリアの手に触れてはおらず、虚空の壁に阻まれるような形で留まり続けており、ライガは苦しげな表情を浮かべて頭をフル回転させていく。
どうして自分の剣は相手に届いていないのか?
苦しげなライガの表情とは違い、ガリアの表情は余裕そのものといった様子。
「ぐあああぁぁぁッ!」
ガリアを目前にして制止したのも数秒。虚空で制止していたライガの身体は、突如発生した暴風の前にいとも簡単に吹き飛ばされてしまう。土埃を上げて、激しく地面を滑っていくライガ。これもガリアが放った衝撃波によるものであり、全身に擦り傷を刻みながらも立ち上がるライガは、得体の知れない力を使役するガリアに警戒心を高めていく。
「さぁ、次はどんな戦いを見せてくれるのだ?」
「ふざけやがって――武装魔法・風装神鬼ッ!」
この戦い、長期戦に持ち込んではいけない。
本能でそれを察したライガは、全身に力を込めると全力全開で戦うための準備を整えていく。その魔法は暴風を身に纏う武装魔法であり、普段は鈍足な動きを見せるライガの動きを何倍にも高めてくれるものだった。
「……ほう、これはまた懐かしい」
「――ッ!」
「貴様程度の小童が、それを使うとは……ふむ、想定外だ」
再び地面を蹴るライガ。
先ほどとは比べ物にならない速度で接近を果たすライガに、ガリアの表情が僅かに驚きに変わる。
激しい暴風を身に纏ったライガは、瞬きの瞬間に零距離まで接近を果たすと、触れた物を切り刻むかまいたちを刀身に纏わせて剣を振るっていく。
「スピードは十分。しかし、剣の重さは変わっていないようだな」
「これも受け止めるってのかよッ……」
「目にも留まらぬ速さを手に入れる変わりに、その剣が持つ破壊力を殺してしまっている。それでは、私に刃を届けることは出来ぬのだよ」
「くそ野郎がぁッ……」
「ふぅ……あの男と同じ血を引く者だと期待したのだが、外れだったようだ」
「外れ、だとッ……!?」
「その程度の実力では、私に勝つどころか帝国騎士にも歯が立たぬだろう――貴様はまだ未熟だということだ」
「――ッ!?」
常人であるのならば、ライガの動きを目で追うことは不可能である。
人間が持つ知覚の限界を越えた動きでも、その遥か上を行くガリアの前には全くもって通用しない。一人で戦うライガには、ガリアが見せる権能を見破ることが出来ず、眼前に立ち尽くす男を前にして、絶望感すら漂ってくる。
「貴様が帝国へやってくる際に、氷と炎の大地を見ただろう?」
「…………」
「あれは我と貴様の父……グレオ・ガーランドが己の全てを賭けて戦った証だ」
ライガの攻撃をやはり右手一本で防いだガリアは、過去を懐かしむように瞳を細めると語り出す。
それはかつて全世界を巻き込んだ大陸間戦争の物語。
やがて世界の英雄と評される男と、帝国の総統となる男が紡いだ戦いの物語である。
◆◆◆◆◆
「ふむ……どうやら、この戦争はここまでのようだ」
「お前の命もここまでってことだ、ガリア」
時は大陸間戦争の末期。
場所は帝国が存在するマガン大陸の中心部。
荒廃した大地がどこまでも広がっている場所で、二人の男が対峙していた。
一人はハイラント王国が誇る騎士グレオ・ガーランド。
一人は帝国が誇る騎士ガリア・グリシャバル。
後に全世界へその名を轟かせる二人の男がまだ、騎士として戦場で戦っている。
「覚悟は出来たか?」
「覚悟なんてものはとっくの昔に捨てている」
「……そうかよ。一秒でも早く楽にしてやる」
「ふむ……最後の戦いを始めようじゃないか」
まだ若いグレオの両手には、自身の背丈ほどある大剣が二本握られており、それぞれ『神剣・ボルガ』と『神剣・ボルカニカ』という名前が付けられている。
神剣・ボルガ。灼熱の炎を操り、立ち塞がる全ての物を焼き払う伝説の剣。
神剣・ボルカニカ。暴風を司り、刀身に真空の刃を纏うことで、対象を切り刻む伝説の剣。
かつてバルベット大陸に存在していたとされる、神竜がハイラント王国に授けたと言われる大剣を、今では王国の英雄として名を馳せるグレオが所有している。二対の大剣を振るうことで、グレオは様々な大陸に名を轟かせるようになっていた。
「――ゆくぞッ」
ハイラント王国の英雄・グレオと対峙する帝国が誇る最良の騎士であるガリア・グリシャバルは、その顔に満面の笑みを浮かべると地面を蹴ると片手に薄青の大剣一本を背負ってグレオに接近を果たそうとする。
「氷の剣……厄介だな、それも……」
「炎と風の剣を持つ者に言われたくはないなッ!」
ガリアが持つのは、これもまたグレオが持つ二属性の剣と同じ、神竜が授けたとされる伝説に名を刻む大剣の一本だった。
神竜はその姿を消す際に、人類へ四本の剣を授けていた。
それぞれ、火、水、風、雷の属性を象徴する剣であり、剣が秘める力は想像を絶するものであった。現に伝説の剣を持つグレオとガリアは、世界にその名を轟かせる騎士へと成長を遂げており、世界を牽引するリーダーの素質を持つ人間だけが所有することを許されるものであった。
「――――ッ!」
真正面から突進してくるガリアに対して、グレオもまたその表情を険しく歪ませると一歩も引くことなく両手に持つ剣を振るっていく。
刹那の静寂が大地を支配した次の瞬間――二つの人影が重なるのと同時に凄まじい轟音が大陸に響き渡った。大陸全土を揺るがす凄まじい衝突が発生し、グレオとガリアが衝突した場所を中心に巨大なクレーターが生成される。
「――ふんッ!」
「ぐッ……相変わらずの馬鹿力だッ……」
「貴様もなッ!」
剣と剣が交わり、互いが持つ力の全てを解き放っていく。
グレオとガリア。
二人が持つ腕の力は全くの五分であり、互いがその表情にどこか楽しげな笑みを浮かべて力をぶつけ合う。大剣から発せられる魔力がバチバチと衝突を繰り返し、周囲の空間に異変をもたらしていく。
大地が悲鳴を上げ、あちこちに小さな大地の裂け目が出現する。
それほどまでに強大な力が衝突していることの証拠であり、大地に刻まれた裂け目は次第にその大きさを増していく。
「はああぁッ!」
「甘いッ!」
このままでは埒が明かないと判断したグレオとガリアは、全くの同タイミングで重なり合った剣の形を解くと、すぐさま次の斬撃へと移っていく。
ガリアは両手で握った大剣を横に薙ぎ払い、グレオはそれを右手に持った炎剣で受け止めていく。
「はああああああああぁぁぁぁぁッ!」
大剣を一本しか持っていないガリア。
大剣を二本持っているグレオ。
手数だけを見ればグレオが有利であることに間違いはなく、ガリアは自分が振るった剣を受け止められたことにより、がら空きになった左半身へを露呈してしまう。
「――――ッ!?」
ガリアが一瞬見せた隙を、英雄であるグレオが見落とすはずがなかった。
グレオは瞬時に状況を判断し、怒号を上げるとがら空きになったガリアの左脇腹へ左手に持った風の大剣を振るっていく。
「隙アリだッ!」
「――甘いわッ!」
「んなッ!?」
一切の油断はなかった。
この状況でガリアが取れる行動の全てを予測し、その全てを上回るための動きを見せたグレオ。普通の騎士であるならば、グレオが放つ斬撃の前に身体を両断され絶命するはずだった。
しかし、ただの一点だけグレオが見落としていたことがあるのだとしたら、それはしばらく邂逅が無かった間に、ガリアが何かしらの力を身に着けている可能性を考慮していなかった部分にあった。
「ぐぅッ!?」
ガリアが見せた隙を突くために振るった左手に持つ神剣・ボルカニカ。
暴風を纏った刀身が帝国騎士・ガリアの身体を切り刻もうとした瞬間だった。
突如としてグレオが持つ神剣・ボルカニカが重さを増し地面に墜落していく。それは強力な磁石に引き寄せられるようであり、想定外の出来事にグレオの表情は驚きに歪む。
「氷魔法しか使えない時代とは違うのだよ」
「ガリアぁッ……」
「戦いはこれからが本番だ、グレオよッ!」
体勢を崩したグレオの腹部に強烈な蹴りを見舞うガリア。
自由に身動きが取れないグレオは、苦悶の声を漏らしながらガリアの蹴りを受け止めざるを得ず、地面を滑りながら後退を余儀なくされる。
「ぐッ……かはッ……」
「我々、人類は常に進化をする生き物だ。それは私にとっても例外ではないのだ」
「隠し玉って訳か……相変わらず、姑息な奴だな……」
「何とでも言うがいい。果たすべき目的のため、血の滲むような努力をすることは当然だ」
傍から見れば一瞬の交錯であっても、その瞬間に幾度とない読み合いが存在していた。
過去に繰り広げられたマガン大陸を舞台にした英雄たちの戦い。
それは時間が経つごとに激しさを増していく。
その先に待つ未来とは――。
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